メルセデス・ベンツC180アバンギャルド(FR/7AT)
教科書が新しくなりました 2014.09.24 試乗記 内外装ともエレガントで華やかに生まれ変わった「メルセデス・ベンツCクラス」。新型もこれまでどおりドイツ車の、いや世界のコンパクトクラスの模範たりえるか。シリーズの中核的存在「C180アバンギャルド」に乗って考えた。気後れするほど現代的
年相応にくたびれた面々が集まった同窓会に、ひとり見違えるような最新モードをまとってさっそうと現れた元委員長。新型「Cクラス」にそんな印象を抱くのは、メルセデス・ベンツ初のコンパクトセダンだった「190」シリーズが日本に導入されたほぼ30年前に、私も自動車雑誌業界に足を踏み入れたという個人的思い出があるからだ。
「190E」は当時の小林カーグラフィック編集長がカンパニーカーとして使っていたせいもあって、私にとってはお手本そのもの。「すべての操作スイッチはメルセデスの文法にのっとってあるべきところにある。だから新型に乗り換えてもまごつくことはない云々」などというそれまでの耳学問をきちんと“勉強”したのも190からである。それゆえにその後Cクラスと名前が変わっても、勝手にいわば“同期”のように親近感を感じてきた。ただし、同期の中でもちょっと堅物で最初から老成した雰囲気を持ち、だがだからこそ皆から一目置かれる信頼厚い委員長みたいな存在だったのである。
それなのに一体何ということでしょう。190から数えて通算5代目の新型Cクラスは、いつの間にか最新モードをクールに着こなしているではないか。かすかな野暮(やぼ)ったさにむしろ安心感を抱いてきた同世代のオヤジにすれば、お前いつから伊勢丹メンズ館に通うようになったんだ? 新しい嫁さんもらったのか? と集中砲火を浴びせたいぐらい、内も外もエレガントで華やかないでたちである。しかも以前ならば、かたくなに譲らなかった家訓さえ、すっかり忘れているようだ。1本ワイパーはもとより、スタッガードシフトゲートも独立したハザードスイッチも、スリーポインテッドスターのフードマスコットさえ姿を消してしまった。昔のよすがはダイヤル式のライトスイッチぐらいなものか。
実はメルセデス・ベンツ、会津の什の掟じゃないけれど「ならぬことはならぬ」とこだわりを見せるいっぽうで、それまでの主張を改めるに敏なところもある。君子豹変(ひょうへん)する、と言うべきか、節操がないと言うべきか。だがそんな宗旨替えには常に合理的な理論武装が伴っているのは言うまでもない。それにしても、この小径ステアリングホイールはどうだろう。そのうちに慣れるのだろうが、コマンドシステムの操作ロジックも変更されているようで、以前と同じようにナビを操作すると戸惑うことがあった。それとやはりハザードスイッチはとっさの場合も間違えないように独立して設けてほしい。それをサラッと変えるのは憲法解釈を変更したに等しいと思うのだが、考えすぎでしょうか?
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もはや立派な3ナンバー
ステアリングホイールは小さくなったが、ボディーは大きくなった。4690mmの全長は従来型に比べほとんど10cm延長され、1810mmの全幅は同じく40mm拡大。ホイールベースだけを取っても80mm延びて2840mmとこのクラス最長レベルになっているから、当然リアシートのスペースは広くなっている。なかでも足元の拡大が顕著で、足さえ組める。ところが実際に座った印象としてはそれほどルーミーと感じないのは、上部が絞り込まれたグリーンハウスと小さ目のサイドウィンドウのせいである。普通ならリアシートのパッセンジャーの、頭の斜め横、腕を持ち上げたところにあるはずのアシストグリップがほとんど頭の真上にあり、いかにサイドの絞り込みが強いかということを表している。したがって全幅の広さを目いっぱい使うことは難しく、大の大人が3人横に並ぶとリアシートはかなり窮屈である。
190は5ナンバーだったが新型Cクラスはもはや立派な3ナンバーサイズ。それにもかかわらず、というよりそれを埋め合わせるためにホワイトボディーは先代に比べおよそ70kgも軽くなったという(「C180アバンギャルド」の車重は1510kg)。「Sクラス」譲りのアルミを多用したハイブリッドボディーは、特殊なリベットや接着剤などを併用して効率的に組み立てられるらしい。異なる金属を接合するのは電食などの問題で大事だったはずだが、今やそれほど大きな話題でもないようでプレスリリースでもさほど強調されず、ボディーのおよそ半分(面積比)がアルミです、とさらりと述べられている。
アジリティーもほどほどがいい
C180は1.6リッター4気筒直噴ターボを積む。これは「Aクラス」や「CLAクラス」に搭載されているユニット(122ps/20.4kgm)の縦置き型だが、スペックは156ps(115kW)/5300rpm、25.5kgm(250Nm)/1200-4000rpmと従来型Cクラスの1.8リッターターボと同じで、横置き型よりは出力・トルクともにだいぶパワフルだ。またデュアルクラッチトランスミッションではなくおなじみの7段ATとの組み合わせのおかげか、ごく普通の発進でもAクラスのようなもたつきを感じさせず、スルーッとスムーズに小気味よくスタートする。全開加速や山道を飛ばしたりするような場合には「C200アバンギャルド」の2リッターターボ(184ps/30.6kgm)、あるいは「BMW 320i」(184ps/27.5kgm)などに比べると、あとほんの少しだけパワーが欲しいと感じるが、それ以外は高速道路や街中問わず、すべての舞台で不足はない。トップエンドでの若干の“スカスカ感”が物足りなく感じるCLAなどとは違い、きっちりリミット(6300rpm)まで回し切る感覚があるのもうれしい。
新型はスロットルやシフトプログラム、電動パワーステアリングなどの設定を切り替える「アジリティーセレクト」なる機能が備わり、電子制御可変ダンパー付きエアマチックサスペンション装備モデル(「C200アバンギャルドAMGライン」「C250スポーツ」)ではサスペンションも設定を変更できるが、少なくとも金属バネのC180ではあらずもがなのように感じた。アウディと同様に、ノーマルに相当するコンフォートのほか、エコ/スポーツ/スポーツプラスに加えて個別設定できるインディビジュアルモードまで備わるが、常にコンフォートで不都合は感じなかった。それよりも山道を下る際にはワンタッチでマニュアルホールドできる、以前のようなシンプルなスイッチが欲しい。
従来型Cクラスでも感じたことだが、いくら世の中のトレンドとはいえ、メルセデスCのようなメインストリームのセダンにはアジリティー(軽快さ、機敏)もほどほどに抑えてほしいと思う。シャープで機敏なパフォーマンスでCクラスを選ぶ人がどれだけいるのか知らないが、メルセデス・ベンツはアジリティーよりスタビリティーだ。
金属バネで文句なし
新たにフロントに4リンク(いわゆる変形ダブルウィッシュボーンタイプ)、リアはマルチリンクを採用した新型Cクラスだが、モデルによってサスペンションの細かな仕様やタイヤサイズも異なる。いくつか試乗した中では機械式のセレクティブダンパーと金属バネを備えたこのC180アバンギャルドがもっともバランスが良いと思ったが、実はその後に乗ったエアサスペンション付きC200アバンギャルドAMGラインの印象が、一番初めに乗った車とは段違いに良かった。ゴツゴツした突き上げが消え、ふんわりスルスルという滑らかさを感じさせたのだ。単にいわゆるランニングインの問題なのか、とにかくスポーティーな仕様をアピールしたい狙いが裏目に出たのか、あるいはタイヤ銘柄(すべてランフラット)の影響なのか分からないが、時間をおいてあらためて試乗すると見違えるように乗り心地がしなやかという経験は、メルセデスの場合過去にも何度かあった。したがって現時点ではエアサスモデルについては判断を保留としたい。そもそも値段の差を考えれば、C180のほうが魅力的だ。
それでもやはり高性能モデルをという向きも、C250スポーツの発売まではじっくり冷静に待ったほうがいい。現状はなぜかスポーティーな試乗車しか用意されていないが、そのうちもっと情報がそろうだろうし、それでなくともCクラスは今後続々とモデルが追加される予定なのだ。
ぴしりとフラットに、そして静かに走るC180アバンギャルドは、いっぽうで実に軽やかに向きを変える。しかも単にピーキーで鋭いコーナリングというものではなく、しなやかで十分なインフォメーションを伝えてもくれる。さすがに4リンク式をおごっただけのことはある。ステアリングホイールは径が小さいだけでなくクイックな可変レシオで、ロック・トゥ・ロックは2.2回転。メルセデスの定番プレミアムセダンが2回転ちょっとしか回らないなんて隔世の感とはこのことだ。まるでアルファ・ロメオじゃないか、とはいいながら最小回転半径は従来型と同じ5.1mをキープしており、ライバルよりも小さい。手抜かりはない。
向上した燃費、Sクラス同等の全方位安全装備、きわめて上等な仕上げの内外装など、総合的に見て新型Cクラスがまた一歩先んじたのは疑いない。私にはちょっと尻込みするほどモダンでカッコよすぎるが、この先7~8年のことを考えればこのぐらいの変化は必要なのだろう。ならばなおさらじっくり見極めましょう。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツC180アバンギャルド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1810×1435mm
ホイールベース:2840mm
車重:1510kg
駆動方式:FR
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:156ps(115kW)/5300rpm
エンジン最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)225/50R17 94W/(後)225/50R17 94W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:17.3km/リッター(JC08モード)
価格:467万円/テスト車=566万1800円
オプション装備:レーダーセーフティパッケージ(19万5400円)/レザーエクスクルーシブパッケージ(71万円)/メタリックペイント(8万6400円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:4305km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:265.0km
使用燃料:23.1リッター
参考燃費:11.5km/リッター(満タン法)/11.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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高平 高輝
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