ベントレー・コンチネンタルGT V8 S コンバーチブル(4WD/8AT)/ミュルザンヌ(FR/8AT)
伝統とは何か 2014.09.23 試乗記 4リッターDOHCと、“伝統の”6.75リッターOHV。素性の異なるV8ツインターボエンジンを搭載したベントレーの“レアな”2モデル、「コンチネンタルGT V8 S コンバーチブル」と「ミュルザンヌ」を初秋の箱根で試した。1959年に起源を持つエンジン
ベントレーを前にすると、いつも心が引き締まる。高価なクルマであることも一因だが、それだけではない。伝統の重さを感じて、自然に姿勢が改まるのだ。長い歴史を持つ自動車メーカーは数多いが、ベントレーにはなぜか特別な畏敬の念を抱いてしまう。
その伝統とはいかなるものかと考えると、なかなか難しい。ベントレーの設立は1919年で、1922年にワークスチームのベントレー・ボーイズが結成された。1924年にルマンで初優勝を飾り、1927年から4連勝という輝かしい成果を得る。しかし、1931年には経営難からロールス・ロイスに買収され、以後はロールス・ロイスのチューンドバージョンという性格を持つようになる。前世紀末には新たな買収騒ぎが持ち上がり、1998年にフォルクスワーゲン傘下に入って今に至るわけだ。
箱根で行われた試乗会には、ベントレーのV8モデルが集められていた。ベントレーには、大きく分けて2種類のV8エンジンがある。アウディとの共同開発で作られた4リッターDOHCツインターボと、“伝統の”6.75リッターOHVツインターボである。ベントレーが6.75リッターターボエンジンを初めて採用したのは1982年の「ミュルザンヌ ターボ」で、さらにたどっていくと1959年の「S2」に搭載された6.25リッターエンジンに行き着く。
最初に乗ったのは、新しいほうのV8エンジンを積む「コンチネンタルGT V8 S コンバーチブル」だった。6リッターW12エンジンを搭載する最強版の「コンチネンタルGTスピード コンバーチブル」は2770万円という価格になるので、2400万円のV8は多少お得なモデルということになる。とはいえ、試乗車はオプションのペイントとホイールだけでも150万円ほどがプラスされていた。このクラスのクルマの顧客には300万円や400万円をケチるという感覚はなく、どちらを選ぶかは好みの面が大きいのだろう。
軽やかなV8のコンチネンタルGT
コンチネンタルGTは、新体制に移ってからの新たなモデルとして2003年に誕生した。2011年にフルモデルチェンジされ、V8モデルが選べるようになった。試乗会場に用意されていたのは、オールド・イングリッシュ・ホワイトのボディーカラーをまとったモデル。ホワイトという名が付いているが、明るいクリーム色のような色合いだ。イングリッシュというより、地中海の海岸で映えそうな派手めのカラーである。
内装はもちろん上質な木と革のコンビネーションだ。試乗車のシートはこれも明るいベージュで、気分を浮き立たせてくれる。肌触りも柔らかくて心地よい。ウッドパネルで構成されたインストゥルメントパネルはいかにも手仕上げという趣だが、重厚さよりモダンさが強く感じられる。ボディーカラーとシートのレザーはどちらも17色から選べて自分好みの組み合わせを作ることができるが、ディーラーで用意されるセットもある。フルオーダーだと時間がかかるので、半分ぐらいの人はセットの中から選ぶそうだ。
あいにく雨が降ったりやんだりの空模様だったが、タイミングを計ってルーフを全開にした。遮るものがなくなり車内に光が満ちると、空間のゴージャスさがさらに増したように思えた。開閉のスイッチは思いのほか控えめなサイズで、最初はセンターコンソールを探しまわってしまった。もちろん全自動で、開閉ともに20秒ほどで作業が終了する。
エンジン始動はボタンで行うが、コンベンショナルなキーシリンダーも残されていた。ベントレーともなると、ユーザーの中にはボタンなんぞ信用できない、キーをひねらなければエンジンをかけた気がしないという人がいるのだろうか。エンジンが回り始めても恐ろしく静かだ。V8エンジンは存在感を消している。
走りだしても、やはりエンジンは静かに回っている。2.5トンの重量を、何事もないかのようにスムーズに運んでいく。気筒休止システムが使われているので、普通に走っているときは4気筒モードだったのかもしれない。切り替えを体感することはなかったので、推測するしかないのだ。アクセルを踏み込むと、一瞬の間をおいて滑らかな加速が始まった。ロロロロロロッというラ行の音を高らかに響かせ、軽やかに速度を増していくのだ。以前に乗ったW12エンジンのモデルと比べると、何よりも軽さが際立っている。
エンジンの回転の軽さが、運転感覚にも軽快さをもたらす。箱根の狭い山道でもボディーの大きさを感じさせない、とまでは言えないが、コーナリングは楽しい。ダンパーの設定を変える連続可変式ダンピングコントロールシステムが装備されているが、公道を普通に走る分にはさしたる変化は感じられなかった。ともあれ、オープンボディーである弱点などみじんも感じさせないことは確かだ。
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6 3/4と刻印されたエンジン
乗り換えた「ミュルザンヌ」は、対照的になんとも渋い灰色がかった濃茶色に塗られていた。英国車の伝統と権威が凝縮されたような色だ。しかし、ドアを開ければ内装のレザーはこちらも明るいベージュである。座面は大きくアーガイル状にステッチを施されており、スポーティーなコンチネンタルGTよりインテリア寄りのしつらえだ。
前を向くと、小径のステアリングホイールが目に入り、なぜかこの部分はスポーティーなイメージである。コンチネンタルGTもミュルザンヌもシフトパドル付きなのだが、こちらはステアリングホイールに付属するタイプで、コンチネンタルGTにはステアリングコラムに固定されたストロークの大きいタイプが装備されていた。クルマのイメージからすると、逆であってもおかしくない気がする。
ミュルザンヌのエンジンは、気配を消すようなことはしない。伝統の6.75リッターOHVこそが、このクルマの価値を生み出している。ボンネットを開けると、エンジンには誇らしげに「6 3/4」と刻印されていた。大排気量のOHVエンジンは先代の「アルナージ」からの継承だが、中身はずいぶん変わっている。ピストンやコンロッドを軽量化し、気筒休止システムも備えるようになった。ベントレーといえども、燃費や環境負荷には気を使わなければならない時代なのだ。
アルナージは450ps、89.3kgmというスペックで最高速度が270km/hという“世界最速のサルーン”の称号を手にしていたが、今やパワーは512psまで向上し、最高速度も296km/hに達している。ベントレー最速ということなら「コンチネンタルGT スピード」の329km/hがあるが、コンチネンタルGT系が四輪駆動なのに対し、ミュルザンヌはFRのままである。
時代に合わせてリファインされているものの、乗り味はやはりクラシカルだ。エンジンの吹け上がりは4リッターDOHCほどの切れ味はないし、ステアリングを切った時の反応も鷹揚(おうよう)な印象がある。ターボの効き方が豪快なところには、ちょっと懐かしさを感じた。思えばアルナージは、筋肉質なたくましい腕でエイヤッと運転するようなクルマだった。ミュルザンヌは、もう少しやわな貴族向けという感じがする。ベントレーらしさも、アップツーデートなものになってきている。
運転を代わってもらい後席に移ると、とても広々としている。アルナージより長くなったホイールベースを、有効利用したわけだ。ピクニックテーブルが便利なのはいいとして、前席ヘッドレストの後ろには8インチのモニターまで備えて後席の乗員をもてなす構えだ。試乗車には124万4200円のリアシートエンターテインメントパックのオプション付きで、コードレスヘッドホンで音楽の世界に浸ることもできる。後席に重点を置くようになったのは、「フライングスパー」を見てもわかるとおりで、ベントレーにも運転手が付く中国市場の需要が反映している。
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人によって解釈が違うベントレーらしさ
それでもベントレーは独自の世界を保ち続けていて、どちらのモデルからも伝統の魅力を感じ取ることができた。ただ、昔からのベントレーオーナーにとってはコンチネンタルGT系はモダンすぎると感じられるようで、アルナージからコンチネンタルGTに買い換える人はそれほど多くないという。伝統の6.75リッターエンジンでなければというこだわりは、なかなか捨てられないのだろう。
ルーツである1959年の6.25リッターエンジンにしても、「ロールス・ロイス・シルバーゴーストII」と共用だった。純粋にベントレー独自ということを追求すると、ルマンで活躍した6 1/2リッターエンジンにまでさかのぼらなければならなくなる。それはとても現実的とは言えないから、ベントレーらしさとか伝統の重みというのも、人によって解釈が違って当然だ。
2014年の北京モーターショーではミュルザンヌのプラグインハイブリッドモデルが披露されたし、2016年には初のSUVが発売されることになっている。設立されてからもうすぐ100年がたとうとしていて、ベントレーも新たな時代に適応しつつあるのだ。
昔の荒々しかったアルナージが好きで、本音を言うとコンチネンタルGT系はちょっと敬遠していたところがある。しかし、今回乗り比べてみて、エンジンを含めて新しいベントレーの世界が盛り込まれているモデルであることを感じないわけにはいかなかった。ミュルザンヌの味わいには、抗しがたい魅力があるのは事実だ。それに劣らぬほど、コンチネンタルGTコンバーチブルはドライバーズカーとしての輝きがある。考えようによっては、先進的なテクノロジーを使ってスピードとエレガンスを両立させたこのモデルこそが、ベントレーの系譜を豊かに継ぐものなのかもしれない。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ベントレー・コンチネンタルGT V8 S コンバーチブル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4820×1945×1390mm
ホイールベース:2745mm
車重:2560kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:528ps(389kW)/6000rpm
最大トルク:69.3kgm(680Nm)/1700rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y/(後)275/35ZR21 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.9リッター/100km(約9.2km/リッター。EUドライブサイクル 複合モード)
価格:2400万円/テスト車=2711万4400円
オプション装備:オプションペイント(74万4500円)/ダークブラウンのルーフカラー(10万7300円)/コントラストステッチ(25万7800円)/オーバーマットへのコントラストバインディング(2万9400円)/トランクカーペットへのコントラストバインディング(1万3200円)/セカンダリーハイドにマッチしたトランクカーペット(7万3300円)/ステアリングホイールへの追加のコントラストステッチ(2万7200円)/ベントレーエンブレム刺しゅう(8万6800円)/ジュエルフューエルフィラーキャップ(3万9300円)ディープパイルオーバーマット(5万5100円)/3本スポークツートンカラーステアリングホイール(5万9200円)/ギアチェンジパドルのハイドトリミング(9万6100円)/マドローナのウッドパネル(17万7000円)/フロントシートのシートベンチレーション&マッサージ機能(13万9100円)/スキーハッチ(6万7600円)/クラフトウッドケース(8万3200円)/リアビューカメラ(16万4600円)/ネックウォーマー(14万200円)/21インチ10本スポーク・プロペラ・アロイホイール・ポリッシュ仕上げ(75万3500円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:3071km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:-- km/リッター
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ベントレー・ミュルザンヌ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5575×1925×1530mm
ホイールベース:3270mm
車重:2710kg
駆動方式:FR
エンジン:6.75リッターV8 OHV 16バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:512ps(377kW)/4200rpm
最大トルク:104.0kgm(1020Nm)/1750-3250rpm
タイヤ:(前)265/40ZR21/(後)265/40ZR21(ダンロップSP SPORTMAXX GT)
燃費:16.9リッター/100km(約5.9km/リッター。EUドライブサイクル 複合モード)
価格:3476万5714円/テスト車=4108万714円
オプション装備:シートとドアトリムのコントラストステッチ(25万6800円)/ガラスサンルーフ(42万5100円)/サイドビューカメラ(15万9200円)/ベニアピクニックテーブル(34万9500円)/リアシートエンターテインメントパック<9インチLCDスクリーン×2+コードレスヘッドホン×2+併用リモコン>(124万4200円)/Mullinerドライビングスペック(ペイント仕上げホイール)<21インチ5本スポークツーピースアロイホイール+スポーツチューンのサスペンション&ステアリング+Flying Bのウイングベント+ドリルドアロイスポーツフットペダル+エンブレム刺しゅう+ジュエルフューエルフィラーキャップ+スポーツギアレバー>(227万5300円)/プレミアムスペック<アンビエントインテリアムードライティング+ブライトドアピラーフィニッシャー+リアビューカメラ+ブライトステンレススチールのマトリックスロワバンパー&フロントウイングベント+Flying Bラジエーターマスコット+シートベンチレーション&マッサージ機能(フロント&リア)>(160万4900円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:4280km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:-- km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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