第367回:「フェラーリ命」なおじさんたちの地下駐車場
2014.10.03 マッキナ あらモーダ!民間駐車場ブーム到来
イタリアでは数年前、シチリアの公立病院に「航空機恐怖症外来」が開設されて話題となった。本物の旅客機と同じモックアップのなかで実際のフライトに近い状況を体験し、搭乗に対する恐怖を徐々に取り除いてゆくものだ。健康保険も適用されるという。
イタリア人には飛行機嫌いが少なくない。例えば知り合いのおばちゃんは、サルデーニャ島とスイスに親戚がいるが、本人は一度も彼らを訪ねたことがなく、先方が訪ねてくるのを待つのみである。
またボク自身は、離着陸時になると冷や汗をタラタラと流し、祈りの姿勢に入るイタリア人をこれまで何度も目撃している。イタリア人が多く乗る飛行機では、着陸時に無事到着の拍手が湧くことも少なくない。実際、最新調査でも、夏のバカンスに飛行機を使うイタリア人は、2割ちょっとにすぎない。
しかし格安航空会社(LCC)の台頭は、人々の飛行機に対する意識を変えつつある。折からの燃料価格高騰でクルマの旅のコストが上がったこともあり、人々の間に「我慢して飛行機に乗れば安く旅ができる」という意識が芽生えてきたのだ。
同時に、イタリアでも核家族化が進んで共稼ぎ家庭が増えた結果、今までのように送迎を頼れる人が少なくなった。そこで活況を呈してきたのが、ずばり空港周辺の民間駐車場である。日本では成田空港が開港した頃からあった、あれである。
本欄の第363回で紹介したような空港内の公共駐車場より格安に設定してあることから、ボクも近年は積極的に使うようになった。大抵空港からちょっと離れたところにあるが、「フォード・トランジット」といった欧州式ミニバンに客と荷物を載せて、ターミナルとの間を送迎してくれる。
だがこうした民間駐車場、イタリアでは業者によってクオリティーに差があるのも事実である。
まずは送迎車の車内が汚かったり、シートベルトがはるか昔から使われていなかったと思われる状態だったりする。ドアが中から開かないこともあった。
次に、夏はアルバイトが多く、応対がずさんなことが多い。彼らと接するのは、出発時と到着時だけに、旅の印象を左右する。あるときは、帰ってきたら自分のクルマのバンパーにかすり傷をつけられていたこともある。それはまだしも、飛行機到着後に呼び出してから「どこを寄り道してきたんだよ」と思うくらい、やたら時間がかかる業者もいる。ネットオークションでいうところの「神経質な方はご遠慮ください」のムードが漂っているのだ。
拡大 |
あるフィレンツェのガレージ
そうしたなかで、ボクがフィレンツェ空港を利用する際、ひいきにしている空港駐車場がある。アルドさんというおじさんと、2人のスタッフが切り盛りしているガレージだ。
空港パーキングといっても住宅街の中、アパートの地下にある。聞けば、もともと地元住民の月極用だったが、前述の空港民間駐車場ブームに乗って、検索サイトに登録し、シャトルサービスを始めたのだという。
加えて最近は、フィレンツェ旧市街の駐車料金が高騰しているうえ、車両進入禁止ゾーンが増えたので、アルドさんたちの駐車場に止めてバスで向かう旅行者も少なくないらしい。
価格は1日8ユーロ(約1100円)前後と、競合他社と同じか、ちょっと高めだ。しかし地下駐車場ゆえ屋根付き。かつ対応するのはバイトではなく、いつも感じの良い、気心の知れたおじさんたちなのが安心だ。タイヤの空気圧チェックといった細かいことも、頼めば到着までにきちんとやっておいてくれる。
送迎車も、いつもよく清掃されている。少し前まではスタッフのひとりで、長年テレビ販売店で働いていたフランチェスコさんの自家用車「ダッジ・キャリバー」が用いられていた。最近は「より燃費がいいから」との理由でシトロエンの「C3」が導入された。最初はディーラーから試しに借りていたが、燃費と中型スーツケース3個をのみ込む積載能力が買われて本採用となったようだ。
彼らの仕事ぶりが買われているのだろう、「地元でインポーターやクラブのイベントがあるとき、フェラーリやランボルギーニといった超高級車も預かるよ」という。
しかしながらボクがシビれるのは、同じく地下にある彼らの事務所である。歴代フェラーリのモデルカーや写真がずらりと並んでいるのだ。加えて、ダイヤル式電話や伝説のブリオンヴェガ製テレビといった懐かしアイテムもちりばめられている。
彼らの仕事は、交代制とはいえ深夜まで長時間にわたる。居心地の良い部屋づくりを進めた結果、いつの間にかこうなってしまったようだ。ちなみに、ガレージのオリジナルカレンダーにも、フェラーリの写真が載っている。
クルマ好きの鋭い質問
前述のフランチェスコさんもクルマに熱い。空港まで運転している間も、「いやー、最近のスクーデリア・フェラーリは、今イチだ」とか「この間、この道路をいきなりブガッティ(新ブガッティと思われる)が爆走してきて、そりゃあたまげたぜ!」などと、クルマトークがよどみなく続く。
さらにボクが欧州各地のモーターショーや、ヒストリックカーイベントを取材するのを覚えていて、「今日は、どこのショーに行くんだ?」などと質問してくる。
それはよいのだが、困ったこともある。フランチェスコさんはボクが帰ってくるやいなや「今回のショーは、ひと言でどうだったよ?」と、いつも興味津々と聞いてくるのだ。こちらとしては仕事柄、あまりいい加減な答えもできない。そのため、空港の預け手荷物受け取りブースで、スーツケースがグルグル回るターンテーブルをぼんやり眺めながらも、頭のなかではショーの総括を一生懸命考えなければならないのである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。
