トヨタ・カムリ ハイブリッド“レザーパッケージ”(FF/CVT)
真っ先に薦めたいセダン 2014.11.12 試乗記 マイナーチェンジを受けてデザインを一新、安全装備も充実したトヨタのハイブリッドセダン「カムリ」。最上級グレードで、その魅力を確かめた。アグレッシブな外観へと進化
「トヨタ・カムリ」は、自動車界のマー君である。アメリカ市場では2013年に年間で40万台以上を販売して、乗用車部門の売り上げトップに輝いた。
しかも去年1年だけがんばったわけではなく、アメリカでは乗用車売り上げナンバーワンの座を10年以上も守る絶対王者。さすが、「冠」がネーミングの由来になっているだけのことはある。
と、持ち上げておいてなんですが、マー君と違ってカムリの日本での存在感は薄い。今年に入ってからの日本での月間販売台数を見ると、400台とか500台。
みんながみんな、一斉にセダンを見放してミニバンに走った日本人を流されやすいと見るか、いまだに独立したトランクを持つ4ドアセダンにこだわるアメリカ人を保守的だと見るか、カムリは日米自動車文化の違いを映す鏡である。
そのカムリが、9月にマイナーチェンジを受けた。松田聖子を起用したテレビコマーシャルを見るに、1980年代に青春時代を過ごしたわれわれアラフィー世代がターゲットか。余談だけれど、顔は映らない運転席のダンナ役は誰が適任なのか、ちょっと気になる。
マイチェンの眼目は内外装の小変更と、安全装備と情報通信機能をアップデートすることの2点だ。
まずフロントマスクの印象が大きく変わった。マイチェン前はハンサムな優等生だったけれど、台形状にガバッと口を開けたグリルによってアグレッシブな表情になった。
ほかにヘッドランプやリアのコンビネーションランプ、リアガーニッシュの形状も変わり、全体に精悍(せいかん)さを増した。低くて走りそうな車に見せたい、という狙いは成功しているように思える。
では、実際に走るとどうなのか。
ハイブリッドでもエンジンが大切
試乗したのは最上級グレードの「ハイブリッド“レザーパッケージ”」で、レザーシートの色ツヤはなかなかいい。レザーシートだけでなく、樹脂パーツ部分の色ツヤもよくなった印象。マイチェン前とマイチェン後だと、ドモホルンリンクルの使用前と使用後ぐらい違う。
ほかにスピードメーターとタコメーターの間に瞬間燃費などを表示する4.2インチTFTカラー液晶のマルチインフォメーションディスプレイが配置され、ステアリングホイールも4本スポークから3本スポークに変更となった。
取り立ててデザイン的におもしろみがあるわけではないけれど、全体に従来よりもすっきり&スポーティーになった。
スターターボタンを押してハイブリッドシステムを起動。と、書いたところでご説明すると、日本仕様のカムリのパワートレインは、2.5リッター直列4気筒エンジンとトヨタ自慢のハイブリッドシステムTHSIIを組み合わせたものだけとなる。
バッテリーに十分な蓄えがあり、なおかつじんわりとアクセルを踏むと発進はモーターだけでまかなう。この発進加速は滑らかで力強いから、ストップ&ゴーが連続する都心部でもストレスがない。
例えば高速道路に入ると、低速だけでなく高速走行時もストレスとは無縁であることがわかる。たとえば80km/hぐらいから追い越しをかけると、アクセルペダルの操作に小気味よく反応して加速する。モニター画面を注視すれば、モーターとエンジンが息のあった二遊間コンビのように連携しているのがわかる。けれども、ドライバーにはそんな複雑な仕組みが働いていることは悟らせない。運転しながら感じるのは、よくできたパワーユニットだということだ。
以前にとある自動車メーカーのエンジニア氏に「ハイブリッド車の燃費とドライバビリティーを上げるには内燃機関のブラッシュアップが不可欠」という話を聞いたことがある。ハイブリッド車というとバッテリーとモーターに注目が集まりがちであるけれど、ハイブリッド車であってもエンジンが大事なのだ。
ただし問題、といっても車の問題ではなくドライバー側の問題であるけれど、スムーズさには慣れてしまうという問題がある。走りだしてしばらくは無類の滑らかさに感動したけれど、人間とはぜいたくなもので、いつしかそれが当たり前だと思えてしまう。
そしてパワートレインと同じことが、足まわりについても言えるのだった。
誰が乗ってもスムーズ
100km/hまでの速度域であれば、カムリ ハイブリッドはイヤだと感じるところがほとんどない車だ。
例えばステアリングホイールの切り始めの瞬間だけもう少し敏感だったらいいなとは思うものの、全体に手応えは悪くない。朝の通勤路、ドライブスルーで買った朝マック片手に運転する光景をアメリカでは見かけるけれど、ああいう使い方ならこれくらいの感度がちょうどいいのかもしれない。
乗り心地もしっとり穏やか。最近の高級セダンがスポーティーさを競って俊敏な方向のセッティングになっているなか、カムリの和み系の乗り心地は新鮮だ。
マイナーチェンジにあたっては、静粛性の向上も図ったとのことだけれど、確かにインバーターから発する「キーン」という高周波の音が聞こえなくなっていた。
静かで快適なだけでなく、ワインディングロードもそつなくこなす。クラウンより45mm短いだけで、逆に幅は25mm上回るという大柄なボディーが軽快に向きを変える。しかも操縦はコツ要らず。普通に加速して、ブレーキを踏んで、ステアリングホイールを回せば車なりに走ってくれる。誰が乗っても、スムーズにストレスなく走れるだろう。
パワートレインから快適性、乗り心地までストレスなしで、ミリ波レーダー方式の「プリクラッシュセーフティシステム」を12万2040円というお買い得価格でオプション装着できる。
この商品性の高さ、アメリカで売れているというのもうなずける。ただしセダンがプレミアムな存在となり、尖(とが)ったデザインや性能で勝負しなければならない日本市場では相変わらず厳しい戦いが強いられるだろう。日本を走るちょっと高めのセダンには、カーッと熱くなる走りや、うっとりするようなデザインや、押し出しの強さが求められる。残念ながら、カムリにそれはない。
ただし、よくできていることは確かで、後席も荷室も実に広い。それほど車に興味がない親戚や友人知人がセダンを探していたら、真っ先に薦めたいモデルであることは間違いない。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
トヨタ・カムリ ハイブリッド“レザーパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4850×1825×1470mm
ホイールベース:2775mm
車重:1560kg
駆動方式:FF
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:160ps(118kW)/5700rpm
エンジン最大トルク:21.7kgm(213Nm)/4500rpm
モーター最高出力:143ps(105kW)
モーター最大トルク:27.5kgm(270Nm)
タイヤ:(前)215/55R17 93V/(後)215/55R17 93V(ブリヂストン・トランザER33)
燃費:23.4km/リッター(JC08モード)
価格:402万6437円/テスト車=425万6477円
オプション装備:チルト&スライド電動ムーンルーフ<ワンタッチ式・挟み込み防止機能付き>(10万8000円)/プリクラッシュセーフティシステム<ミリ波レーダー方式>+レーダークルーズコントロール<ブレーキ制御付き>+ブラインドスポットモニター+レーンディパーチャーアラート(12万2040円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:830km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:825.0km
使用燃料:53.6リッター
参考燃費:15.4km/リッター(満タン法)/15.4km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。





































