メルセデス・ベンツS550プラグインハイブリッド ロング(FR/7AT)/S65 AMG クーペ(FR/7AT)/GLA180オフロード(FF/7AT)
見た目以上に個性的 2014.12.09 試乗記 プラグインハイブリッドの高級サルーンから、コンパクトなクロスオーバーSUVまで。多様なラインナップをとりそろえるメルセデス・ベンツの、最新モデル3車種に試乗した。ただのエコカーにあらず ―― S550プラグインハイブリッド ロング
環境にやさしいだけのクルマではない。骨太でたくましい。端的に言って速い! 21世紀の政治・経済界のリーダーのためのプラグインハイブリッドである。
ドライブシステムは、333psの3リッターV6直噴ツインターボと115psの強力な電気モーター、それに大容量のリチウム電池で構成される。システム出力は最高出力442ps、最大トルク66.3kgm(650Nm)と、「S550」を名乗るにふさわしい。
ゼロエミッションの電気モーターだけで33km走行でき、その最高速度は140km/hに達する。最高速35km/hにとどまる「S400ハイブリッド」の、27psの電気モーターとは大違いである。
カタログ燃費は、100%ガソリンエンジンの4.7リッターV8ツインターボの「S550ロング」が10.5km/リッターであるのに対して、プラグインハイブリッドは13.4km/リッターと3割ほど優れている。ちなみにS400ハイブリッドは15.4km/リッターである(いずれもJC08モードの届け出値)。化石燃料を燃やす分だけ速いということは言えるだろう。
スイッチひとつでガラリと変身
重い電池はリアアクスルの上に搭載されている。前後重量配分は、前1120kg、後ろ1210kgと、まるでトランスアクスルのようだ。2330kgに達した車重が、エアサスに重厚な乗り心地をもたらしている。
エレクトリック・ヴィークル・モードでは当然、無音である。これもすでにおなじみのフレーズでしょうけれど、1回転目から最大トルクが立ち上がる電気モーターの特性のおかげで、重量級なのに出足は鋭い。
ダンパーの絵がついた走行モード切り替えスイッチを“COMF”から“SPORT”に切り替えれば、厳かなる走行体はたくましいマッスルパワーのアスリートに変身する。乗り心地はがぜん硬くなる。メルセデスからAMGに乗り換えたみたいに。軟骨部分は残っているので、硬くなっても不快ではない。
ハイブリッドモードに切り替えると、V6ツインターボの咆哮(ほうこう)がごく控えめに聞こえてくる。半分電気自動車のあしゅら男爵、S550プラグインハイブリッドの魅力は、「業の肯定」というと立川談志師匠の落語論ですが、自動車の悪魔的な魅力の肯定が根本にあるように思われた。
1590万円という価格は、V8のS550ロングと同一ながら、自動車重量税も取得税も免税で、補助金を最大85万円もらえる。お金持ちをここまで優遇せずとも……という気もするけれど、取りあえず、次にいってみましょう。
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紳士的な猛獣 ―― S65 AMG クーペ
アールヌーヴォーとアールデコが溶け合い、スワロフスキーの47個のクリスタルグラスがLEDヘッドライトを飾る。あるいは、夜のザギンの世界が白昼現れたのか。現代のベル・エポック、1920年代の幻影がよみがえる……。
ギンギラギンにさりげなく、フロントボンネットの下に隠しているのは、AMGの職人が手組みする6リッターV12ツインターボである。最高出力630psと最大トルク102.0kgm(1000Nm)というウルトラハイパワー&トルクを生み出す。
白昼夢そのもののぜいたくな白いインテリアの中でスターターボタンを押せば、バフォン! という爆裂音が遮音の施された壁の向こうから控えめに聞こえてくる。しずしずと走りだす。
ガソリンV12エンジンは、1個の暴力装置である。過給器は1個どころではない、2個である。この強烈なエンジンを完璧に御すシャシーを備えている。電子制御も大いに貢献しているだろう。超高速マシンであるにもかかわらず、一般道が苦にならない。サラブレッドが荷車を引くようなことに黙々と耐えている。ウルトラマンなのにビルを壊さずに歩くことができる。
といって、暴力を内に秘めていることはちゃんとドライバーに悟らせる。7段ATをSモードにすると、減速時にブリッピングを入れてくれる。
快適をもたらすハイテクも
乗り心地はS550プラグインハイブリッド ロングにも増して快適である。ホイールベースは「Sのロング」と比べると、225mm短い。タイヤは20インチのZR規格のスーパーカーサイズである。
にもかかわらず、コーナリング時にリーンインする革新的なシステム、ダイナミックカーブ機能を備えるAMGスポーツサスペンションは、フロントガラス上部の内側にあるステレオマルチパーパスカメラが前方路面の凸凹を検知して、あらかじめバネとダンパーの硬さを調整する。「マジックボディコントロール」と呼ばれるこの電子制御デバイスは、さながらカンヌ映画祭の赤じゅうたん(アラジンの魔法のじゅうたんのほうがスゴイかしら?)を事前に敷いては巻き取りして進む。
とはいえ、ダンパーの絵のついたスイッチをSにすると、軟骨部分の面積が増える感じがする。硬いといえば硬い。630psの猛獣クーペは猛獣であることをちらちら見せながら、完璧にジェントルマンを演じきる。
衆院を解散したその晩、安倍首相は各局に連続出演し、あるニュース番組で「景気がよくなった実感がない」とインタビューに答える市井の人々の姿の録画を見せられて、「これ、おかしいじゃないですか」と声を荒らげた、と伝えられる。国権の最高責任者、私が最高責任者なんです、と自らいう人がそういう取り乱した態度を示してはいけない。「S65 AMG クーペ」を見習うべきである。
S65 AMG クーペは3120万円もする。V8の「S63 AMG 4MATICクーペ」と比べて、720万円も高い。法外ともいうべきこの値づけは、お金持ちからはどんどん取ってかまわない、というメルセデスのメッセージであるに違いない。このような作り手側からの、いわば挑発に対して、喜んでおあしを使うのがお金持ちのつとめというものである。
自分の世界を持っている ―― GLA180オフロード
S65 AMG クーペから乗り換えると、さすがに安っぽい。それはもうドアの取っ手に触れただけでわかる。ドアを開閉するときのバシャンという感じ。シートの革の質、エンジンフィール。それらが、見た目は結構なのに、どこかガサガサしているのだ。3000万円超のクルマとの違いは、そういうところに表れる。
ところがそうした印象はなぜか、そのうち消えてしまう。筆者がニワトリ的記憶力の持ち主だからである。されど、ここにはこう書き記す。クーペのことを忘れ、すぐに心落ち着くのは、「GLA180」はGLA180で、一個の統一された世界であるからだろう。一個の宇宙と言い換えてもいい。
メルセデス初の“コンパクトSUV”であるGLAは2014年初夏に日本で発売された。ただし、180の全モデルと、いくつかは秋以降に納車される予定になっていた。遅れてきたGLAクラスであるところの「180オフロード」は、GLA180のなかでも名前の通りオフロード性能のアピールを図ったモデルである。他の180同様、4MATICではないものの、車高が約30mm上げられ、バネを柔らかくしたコンフォートサスペンションを採用している。
コンフォートというから期待したのだけれど、案に反してその足まわりのハードさに、こいつはルノースポールより硬い、と思った。試乗車が走行距離387kmと、ド新車状態だったことも若干勘案する必要はあるにせよ、こいつは硬いっ。タイヤがビシビシくる。マジックボディコントロールの記憶がニワトリ脳に残っていたせいもある。
ホットハッチの一種!?
1.6リッターターボは最高出力122psと控えめながら、20.4kgm(200Nm)というリッパな最大トルクを1250-4000rpm で発生する。ド新車のせいもあるにせよ、基本的にこのエンジン、燃費重視タイプの実務型だから、面白みというものに欠ける。音に爽快感がない。さりとて、実務型がハッピーなタイプであっては実務型にならないのは理の当然である。
アクセルをガバチョと踏み込み、幕張周辺の一般道を、パドルシフトを使ったりして走り回ってみると、ああ、こいつはホットハッチの一種なのだ、ということにハタと気づいた。飛ばすと、乗り心地がさほど気にならなくなる。
基本的に地を這(は)うように低いハッチバックのスポーツカー、ともいえそうな「Aクラス」を、フツウのハッチバックボディーに着せ替え、ちょっとだけSUV風味のフリカケをかけたのがGLAである。着座位置が高い分、町中では少なくとも乗りやすい。
ホットハッチと呼ぶには、肝心のエンジンが惜しい。とはいえ、作り手はホットハッチだなんてひとことも言ってないのだから、これはナンクセというものである、われながら。
さはありながら、GLA180オフロードは、エンジン以外はオフロードというよりも、ホットハッチに近い。キビキビ、スポーティーなのである。GLA180オフロードのユーザーはなにがしかのインパクトというものを生活に取り入れたくてこれを購入されるわけである。価格は399万円と、400万円を切る。本革仕様はオプションなので、当該試乗車のようにするにはさらに追加マネーが必要となるわけだけれど、「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」、383万3000円が候補のバスケットの中に入っていることはあり得るわけである。
メルセデスはいま、こういうベーシックグレードであっても、個性のとがったモデルを作っている、ということを申し上げたかった。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツS550プラグインハイブリッド ロング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5250×1900×1495mm
ホイールベース:3165mm
車重:2330kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:333ps(245kW)/5250-6000rpm
エンジン最大トルク:48.9kgm(480Nm)/1600-4000rpm
モーター最高出力:115ps(85kW)
モーター最大トルク:35.7kgm(350Nm)
タイヤ:(前)245/45R19 102Y(後)275/40R19 101Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:13.4km/リッター(JC08モード)
価格:1590万円/テスト車=1640万円
オプション装備:AMGライン(50万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2396km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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メルセデス・ベンツS65 AMG クーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5044×1913×1424mm
ホイールベース:2945mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:6リッターV12 SOHC 36バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:630ps(463kW)/4800-5400rpm
最大トルク:102.0kgm(1000Nm)/2300-4300rpm
タイヤ:(前)255/40ZR20 101Y/(後)285/35ZR20 104Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5P)
燃費:--km/リッター
価格:3120万円/テスト車=3186万8000円
オプション装備:Burmesterハイエンド3Dサラウンドサウンドシステム(66万8000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:331km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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メルセデス・ベンツGLA180オフロード
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4417×1804×1494mm
ホイールベース:2699mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:122ps(90kW)/5000rpm
最大トルク:20.4kgm(200Nm)/1250-4000rpm
タイヤ:(前)235/50R18 97V/(後)235/50R18 97V(ダンロップSP SPORT MAXX GT)
燃費:--km/リッター
価格:399万円/テスト車=443万5400円
オプション装備:レーダーセーフティパッケージ(19万5400円)/エクスクルーシブパッケージ(25万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:359km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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