第269回:いよいよトヨタも本気モード
最新の予防安全システムと自動運転技術の現状を探る
2014.12.11
エディターから一言
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トヨタがいよいよプリクラッシュブレーキを含めた予防安全システムの普及を宣言。東京・台場で開催された技術説明会の会場から、その取り組みと自動運転への道筋をリポートする。
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トヨタが腰を上げなかった理由
トヨタが初めてレーダークルーズコントロールを市販車に載せたのは今から17年前、1997年のこと。F20系(2代目)「セルシオ」のマイナーチェンジ時にメーカーオプションとして設定したレーザー式のそれは、三菱やメルセデス・ベンツと並び、世界に先駆けての実用化だった。くしくも「プリウス」の発売とも重なったわけで、クルマの未来はトヨタからやってくるのか……という思いを強くした覚えがある。
が、その後のトヨタをみるに、ハイブリッドをきっちり根付かせた勢いに対すれば、先進安全技術にまつわる進捗(しんちょく)は消極的にうかがえた。その間に他社の開発は進み、現在は軽自動車にも衝突被害軽減ブレーキが実装される状況であるのはご存じの通り。前方対象との速度差を検知し、加速や制動を行うという要の技術を早期に確立していながらのこの出遅れ感は一体どういうことなのか。
その理由は容易に想像できる。万一の誤動作やシステムダウン、その際に一体どのような告知や回避を行い、それでも避けられない事故に対して一体誰が責任を追うのか。製造者と使用者とのボーダーラインに関して、世論とのコンセンサスがクリアになっているとは言い切れないことが要因だろう。現在、そのシステムが搭載されている車両には100ページ以上に及ぶ専用の取扱説明書が添付され、その大半は使用上の注意に費やされているわけだが、ここまでやっても後々システム依存による事故の責任が問題化することは考えられる。もちろんその白黒を判定する法規も判例もなければ、国際的な合意もない。それらの検討は内閣府が中心となって行われてはいるものの、トヨタほどの大規模なメーカーとなれば、そこに大風呂敷を広げて参入するには時期尚早という判断もあっただろう。
今回発表された「セーフティセンス」は、そんなトヨタが普及を前提として展開する予防安全技術のパッケージ商品だ。「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」と呼ばれる次世代アーキテクチャーが始動する2015年以降、小型車も含めたほぼあらかたの乗用車に標準もしくはオプションで装着され、2017年中には米国や欧州でも全車採用を目指すという。もちろんその先に見据えるのは自動運転だろう。セーフティセンスはそのための基本技術の確立という意味合いも強い。
車格に合わせて2種類のシステムを用意
トヨタの予防安全技術の本格投入について、ようやく重い腰をあげたとみる向きもいるだろうが、個人的には山が動いたとみた方が正しいのではないかと思う。なにより、5年前に品質問題が大きく取り沙汰された米国でもそれを全面展開するということは、相応のプレッシャーをクリアしているということでもある。
セーフティセンスのパッケージはCセグメント、Dセグメントの車格を境に、前方計測をレーザーを用いたものかミリ波レーダーを用いたものかに分けられる予定で、前者は「セーフティセンスC」、後者は「セーフティセンスP」と名付けられる。
セーフティセンスCはレーザーとカメラの双方を用いて検知を行い、前方障害物との相対速度が30km/h以内であれば事故を回避、車速が30km/h以下の場合は完全停止を前提とするのに加えて、10~80km/hの幅広い速度域で自動ブレーキが作動することを特徴としている。また、搭載するカメラを利用しての車線逸脱警告とオートマチックハイビームを搭載する点も併せてライバルとの差異となるだろう。
一方セーフティセンスPは、より能力を高めたレーダーにカメラを併用することによって、10~80km/hの範囲における歩行者検知を実現したことが技術的特徴となっている。プリクラッシュブレーキについては相対速度30km/h以内での事故の回避を前提としており、対人の接触事故も回避支援の範囲に加えられている。ちなみに対車両については10km/hから最高速の範囲で自動ブレーキが働き、相対速度40km/h以内での事故の回避を前提とする。また前方車の車線変更判定など、カメラから得られた情報の解析によってレーダークルーズコントロールの精度も高められ、加減速制御もよりスムーズに行われるようになったという。
いずれもコストについては、「現状における一般的な製品の価格帯と変わらない」見込みというから、恐らくセーフティセンスCに関してはオプション価格で5~10万円のゾーンに抑えられることになるだろう。セーフティセンスPに関しても、10万円付近での価格帯での提供が期待できる。
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自動運転の実現に必要なもの
このように、自動車メーカーでも最大級のボリュームを占めるトヨタのほとんどの乗用車に、こうした運転支援デバイスが装着されるということになれば、いよいよみえてくるのは自動運転への道筋ということになるが、そこで気になるのは前述のとおり、製造者と使用者との間にあるべきコンセンサスである。
「将来の自動運転実用化に関しては、NHTSA(アメリカの国家道路交通安全局)や国交省でも議論が重ねられていますが、クルマを動かすことに関するトヨタの基本的な考え方は、あくまでドライバー側に主権があるということです。われわれはそこに最大限の安全向上を加えるべく、さまざまな方向からのサポートの可能性を考えています。それは自動運転の話になっても変わらないでしょう」
安全技術を統括する吉田守孝専務は、先進安全デバイスにまつわるトヨタのスタンスをこう説明する。つまりは仕向け地がどこであれ、仕様がどうであれ、最終的な責任はそのハンドルを握る者が担うべきということだろう。これについては、メルセデスなどは単調な渋滞走行時などはクルマの側に運転を任せられないか、その際に車両の快適性などはどうあるべきか……といった、もう一歩踏み込んだ検討を進めているが、商品化がなされない時点でその雌雄はつけるべきではない。ともあれ、トヨタの考え方は、自動運転化における本筋ではある。
「自動運転技術に関しては、最終的にどのようなかたちで市場に提供するかといった具体像はまだみえていません。が、この技術は自動車メーカーの一存だけでは成立しないでしょうね。地図の高精度化や路車間、車車間の通信といったインフラ整備も重要です。日本は2020年に東京オリンピックを迎えるにあたってインフラの再編が進むわけですが、これは自動運転の実証にとってはいい機会になると個人的には思っています。6年の時間があれば、車両側でも技術的な進化は相応に期待できますから」
その吉田専務の言葉を裏付けるように、センサーテクノロジーを大きく進化させたトヨタの自動運転実験車が、この2014年9月、デトロイトで行われたITS世界会議で披露された。高速道路での自動運転を想定し、既存の実験車に搭載されていたシステムをより現実的な機器で再構築したもので、ハードウエアのコンパクト化に合わせて実験車も「レクサスLS」から「レクサスGS」へと小型化された。今冬より日本の路上でも実証実験に入る予定だ。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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