スズキ・ジムニー ランドベンチャー(4WD/4AT)
このままでいてほしい 2015.01.15 試乗記 今年でデビュー17年目を迎える現行型「スズキ・ジムニー」。自家用車としては異例ともいえるロングセラーモデルの「ご長寿の秘訣(ひけつ)」を探った。驚きのロングセラー
1998年の軽自動車規格改正に合わせて登場した3代目ジムニー。早いもので登場から間もなく17年になろうとしている。ハンス・ムートのデザインといわれている2代目のモデルライフが17年間だったことを思えば、それを上回る長寿となることはほぼ確実。同等の齢(よわい)を数える乗用車といえば「トヨタ・クラウンコンフォート」や「センチュリー」くらいしか見当たらないが、これらの大半はフリート向けとあらば、純粋な自家用国産新車としては最古と見ていいだろう。
もちろん、世代交代が期待されていないわけではない。モーターショーでそれらしき気配のただようコンセプトカーが現れては、フルモデルチェンジのうわさがささやかれたりしたものだが、結果的には細かなブラッシュアップや法規対応などを含め、都合10度ものランニングチェンジを繰り返しながら今に至っている。一方で、環境性能などは軽自動車として褒められたものではなく、そう遠くないうちに抜本的な対策をしなければならないことはスズキも先刻承知のはずだ。
それでも動けない理由は減価償却的な問題以上に、その需要の根強さや頑固さにあるのだろう。ジムニーの販売台数はここ10年単位で見ても20年単位で見ても、著しい変動はない。常に月1000台程度のペースで淡々と売れ続けている。それはスズキにとって屋台骨を支えるほどではないにせよ、精神的支柱には十分成り得るものだ。年を追うごとに軽自動車全体の選択肢も増え、時に直接的なライバルも現れた。それでも浮気することなくジムニーを指名買いするユーザーに絶対不義理はできない。どころか、その顧客の中には、休日の水遊びや山遊びにこのクルマを使う自社の役員もいる。社内で不満の声に直接被弾する恐れも十分ある中で、このクルマに携わる開発者のプレッシャーはいかばかりか。精神的支柱は精神的負担と表裏をなす。この厳しい状況を指して、以前、僕はジムニーのことを「スズキのクラウン」と評したことがあるのだが、それには浜松の一部方面から座布団3枚級の賛辞をいただいた。つまり、スズキにとってジムニーとは本当にそういうクルマなわけだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
苦手なものはやっぱり苦手
そんなお客さんは相当稀(まれ)だろうなと思いつつ、あえて記せば、現在の軽自動車が備えているのと同等の静的質感や快適性をジムニーに期待するのは無理がある。
まずもって室内は狭く、成人男子4人がゆったりと座ることは難しい。後席は分割可倒式なので工夫すれば積載力も確保できるが、昨今主流のトールワゴンに比べればユーティリティーは大きく劣る。昨秋のランニングチェンジではメーターまわりの質感などが高められたが、ダッシュボードやドアトリムなどはかなりプラスチッキーで、どちらかといえば商用系のそれに近い印象だ。
昔日を知る人にとっては夢のように洗練されたと思わせる乗り心地も、今日の普通の軽自動車とは比べるまでもない。前後リジッドのサスは小さなギャップの乗り越えでも車体をいちいち左右に揺らし、高速域ではショートホイールベースであるがゆえの強いピッチングもそこに加わってくる。ある程度リラックスして巡航できるのは90km/h以下とみるべきだろう。ちなみに100km/h巡航での燃費は12~13km/リッター辺りと、2リッター級のクルマ並み。燃料タンクは40リッターと軽自動車にしては大きめだが、当然給油の機会も増えるのでスタンドの少ない郊外ではそれなりに気も使う。
……と、ここで多くの人は、はたと気づくわけである。だったら「ハスラー」にすればいいじゃん、と。
ハスラーはジムニーの抱えるこれらのネガをあらかた払拭(ふっしょく)している。代わりに失ったのは走破性や堅牢(けんろう)さということになるだろう。一般ユーザーにとってオフロードとは釣り場やキャンプ地へのアクセスにとどまるわけで、皆が皆、人も歩けないような岩場や獣道に分け入るわけではない。それでもユーザーは普通車以上のタフネスさをSUVに求めてくるわけで、ハスラーにとってジムニーの存在はイメージ上、非常に大きなものとなる。もちろんジムニーの側にとっても不得手なあれこれを求められることがなくなるわけだ。ジムニーあってのハスラーであり、ハスラーあってのジムニーというスズキならではのブランディングは、ハスラーの対抗馬を検討しているであろう各社にとって、恐らくかなり手ごわいものとなるはずだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
実用車としても、趣味のクルマとしても
僕自身、2代目のジムニーを所有していたことがあるが、その走破性の高さには本当に驚かされた。窮地に陥るほどに実感する頼もしさは、僕にとってこのクルマの存在を、軽うんぬん以前の、孤高のものとしている。ましてやそれが限りなく継承されたかたちで作り続けられながら、仕様によっては130万円を切る値段で手に入れられるのだ。こんなの日本車でしか成し得ないという形容は、まずもってジムニーのためにある。
さらにいえばジムニーは、その票田を実用とホビーとできれいに分かち合う数少ないクルマだ。並のSUVでは、デカイわ、重いわ、走らないわで役に立たないという豪雪地帯や山間部など、日本に少なからずある場所においてライフラインを担う一方で、その走破性をさらに高めてオフロード遊びに用いるユーザーも相当に多い。そのためのサードパーティーも多く存在し、庶民にも求めやすい値段でさまざまなパーツを供給している。趣味のものとしてみれば、これほど便利に安く真剣に楽しめるクルマもそうはないだろう。
そう、ジムニーと「ロードスター」、そしてクラウンがあれば自動車にまつわるほぼ全てのお楽しみは網羅できる。日本の環境ではことさら、これらの備えるものは世界の強豪と比してもまったく見劣りしない。僕は常々そう思っている。夢の3台生活にはほど遠いが、万一そんなことになった時に売られている未来のジムニーには、可能な限り現在と変わらぬ内容のものでいてくれとお願いしておきたい。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
スズキ・ジムニー ランドベンチャー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1680mm
ホイールベース:2250mm
車重:990kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:4段AT
最高出力:64ps(47kW)/6500rpm
最大トルク:10.5kgm(103Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)175/80R16 91Q/(後)175/80R16 91Q(ブリヂストン・デューラーH/T 684)
燃費:13.6km/リッター(JC08モード)
価格:169万1280円/テスト車=173万9340円
オプション装備:※以下、販売店オプション クラリオンAM/FMラジオ付きCD/USBプレイヤー(2万7648円)/ETC車載器(2万412円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2555km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:301.3km
使用燃料:29.5リッター
参考燃費:10.2km/リッター(満タン法)
拡大 |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。 -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気
2026.1.15エディターから一言日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。 -
ルノー・グランカングー クルール
2026.1.15画像・写真3列7座の新型マルチパーパスビークル「ルノー・グランカングー クルール」が、2026年2月5日に発売される。それに先駆けて公開された実車の外装・内装を、豊富な写真で紹介する。 -
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。




































