第383回:9段ATでも間違いなくフィアット! 「500X」のディーラー発表会訪問記
2015.01.30
マッキナ あらモーダ!
愉快なCMとともに
先週のことである。ボクのスマートフォンに1通の広告メッセージが舞い込んだ。
「『500X』到来。イタリアで企画・デザインされ、造られたフィアット。1月24~25日に全国の営業所に来て、キミも乗ってみてよ」
フィアットお得意の、友達口調である。
500Xとは、ご存じの読者の方も多いと思うが、2014年10月のパリモーターショーで発表されたフィアット製5人乗りクロスオーバーである。従来の「フィアット・セディチ」(スズキ初代「SX4」の姉妹車)の後継車という位置付けだ。
しかしながら、待たされたものだ。先に登場した妹分である「500L」の発表会場で、チラ見せ――ステージ上の扉を一瞬開いて見せるという演出――が行われたのは2012年7月のことだった。ディーラー発表会まで2年半を要したわけだ。ドイツ系ブランドの発表から発売までの短さからすると、スローライフ感覚全開で、「なんだよ、今ごろになって」ムードが個人的に漂っていたのも事実だ。
しかし、昨年パリの会場で公開されたCMは、典型的なイタリア風情を期待する外国人と、愉快なコトが好きなイタリア人双方を喜ばせるであろうグローバルなストーリーで、「待たされた感」が一気に吹き飛んでしまった。CMの筋を文字で解説するほどやぼなことはないので、興味のある方はこちらをご覧いただこう。ロケ地は、ボクが住むシエナと同じ、トスカーナ州の、とある村である。
先発の500Lや、3列シートの「500Lリビング」がセルビア工場で製造されているのに対して、500Xはイタリア南部のメルフィ工場で生産される。 「FGAスモール」と呼ばれるプラットフォームを採用していて、同じくメルフィ工場で造られるジープの新型車「レネゲード」(第373回参照)の姉妹車にあたる。
イタリア仕様のエンジン、駆動方式そして変速機の組み合わせは、ガソリンの1.4リッターターボ(140ps)は2WD+6段MT、「Eトルク」と名付けられた1.6リッター(110ps)は2WD+5段MT。ディーゼルは1.6リッター(120ps)が2WD+6段MT、2リッター(140ps)は4WD+9段ATである。
欧州排出ガス規制「ユーロ6」に全車適合しており、1.6Eトルクを除き、スタート&ストップシステムが装備されている。価格はイタリアで1万7500ユーロ(約233万円。付加価値税込み)からだ。
ライバル車はキャシュカイ
2015年1月25日、わが街シエナのフィアット販売店の500Xの展示会場をのぞいてみると、日曜午前というのに屋内外、商談コーナー合わせて10組くらいのお客さんがいた。後日発表される広報データよりも、現場の人に聞くのが一番面白い。そこで早速フィアット系セールス歴18年のアンドレア氏に聞いた。
Q.「展示会2日目だけど目下一番人気の車種は?」
A.「やはり税金が一番安い1.6リッターガソリンの2WDだね」(筆者注:イタリアでは基本税額×馬力で年間の自動車税が決まる)
Q.「セールス上のライバルは?」
A.「例えば、『日産キャシュカイ』。手ごわいのは、キャシュカイは1.6リッターから4WDがあること。いっぽう500Xの4WDが欲しい人は、現状では2リッターを買わなくてはいけないんだ」
Q. 「2014年の秋にジープ・レネゲードを発売したけど、お客さんのタイプは、どう違う?」
A. 「レネゲードは従来ジープに憧れていたものの、ちょっと高級すぎて手が届かなかった顧客に注目されている。年齢層は比較的高め。変速機でいえばATを選ぶ人も多い。いっぽう500Xは、これまで他社・同クラスのSUVやクロスオーバーに乗っていた人が多いよ。年齢でいうと40代かな。変速機はがぜんマニュアル志向だね」
そしてアンドレア氏は、「『そりゃフィアットはマニュアルでしょうが!』という人が多いから」と言って笑った。
イタリア式運転に向いている
やがてアンドレア氏が「乗ってみなよ」というので、500Xを運転させてもらうことにした。試乗車に供されていたのは、最上級車種である2リッターエンジンに4WD+9段ATを組み合わせた仕様である。価格は3万ユーロ(約400万円)を超える。
ダッシュボードは、姉妹車のジープ・レネゲードとは異なるデザインである。だが同じポジションの操作類が多いのは、共通のワイヤハーネスを多用しているためだろう。
まずは郊外の一般道を試す。イタリアの荒れた路面をそれなりに快適に乗り越えてゆくさまは、前述のFGAスモールプラットフォームを使用した車に共通するものだ。いっぽう9段ATは、シティ/スポーツモードとも、かなり低速ギアを引っ張る。信号が青に変わって前方が開けた途端にアクセレレーションペダルを勢いよく踏み込んで突進する古典的イタリア式運転に向いている。逆に多くの日本のATユーザーのように微妙な低速スロットルワークを実践すると、1-2速の間でのショックがたとえ軽微とはいえ気になるかもしれない。
アンドレア氏が働くディーラーの試乗コースには、うれしいことにスーペルストラーダ(無料の自動車専用道路)も一区間含まれている。本線に合流し加速してゆくと、フィアットのマルチジェット・ディーゼル系らしい、トルクとレスポンスが巧みにミックスされた走りを見せてくれた。
正しいグローバル化
アンドレア氏によれば、けん引能力も売りのひとつだという。初代「パンダ」でもいろいろなトレーラーを引っ張ってしまう国柄ゆえ、こうしたセールストークは有効なのだろう。近いうち、ワインのたるやゴムボート、馬匹輸送車などを引いた500Xも見られるに違いない。
帰り際、14年前にボクが住んでいた家の前に立ち寄ってもらい、撮影することにした。あの頃乗っていた中古の1987年「ランチア・デルタ1300」からすると、500Xは外装のフィニッシュといい内装の品質といい、なんと世界的なレベルになったことか。背景の建物が時計を止めたがごとく変わらないだけに、その印象はさらに強くなる。
それでありながら、前述のようにドイツメーカー製のATや、スロットルレスポンスが、今もフィアット好みにセッティングされているのは面白い。その昔小さなフィアットでかっ飛ばしていた純粋なファンもそれなりに満足させることだろう。500Xは、良い意味のグローバル化を実践している。
最後にアンドレア氏に礼を言いながら、彼から最初に500Xを買ったお客さんは、何を下取りに出したのか聞いてみた。答えは、妹分の500Lだったそうだ。
500、500L、500Lリビング、そして今回の500X。「いっそのこと会社名をフィアット500 S.p.A.にしちゃえば?」というのは以前本欄につづった冗談だが、本当に500シリーズが充実してしまった。
いっぽう、2007年にフィアット500を発表したとき、マルキオンネCEOは、「フィアットは自動車界のアップルである」とコメントした。もちろん、それは個性的なブランドアイデンティティーに関して述べたものだが、「えっ、もしかして今のフィアットはiPhoneの大画面化まで追っかけているのか?」などという、愉快な想像も頭をよぎったのあった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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