第7回:V40で味わう京の峠・京の食
峠を越えて 2015.01.30 ボルボV40の“いま”を知る ボルボV40 T5 R-DESIGN(FF/8AT)ちょっとワケあって、洛北(らくほく)の山庵へ。その近くには、走りがいのあるワインディングロードが横たわっている。それならやはり操って手応えがあり、対話して楽しい相棒と行きたいではないか。よりスポーティーに磨き上げられた2015年型「ボルボV40 T5 R-DESIGN」で、いざ京の峠を越えてゆかん!
京の奥座敷へ
細かな予定に縛られることのない、あてなき旅。それはそれは贅沢(ぜいたく)なことだ。贅沢だからこそ、テレビでもそういう番組がもてはやされるのではないだろうか。
そういうブラリ系の旅を思い立てば、即座に実行に移すことができる。これこそがクルマが人を惹(ひ)きつける魅力の原点であり核心であり、最上のラグジュアリー性でもある……と、僕はそう思っている。
が、残念ながらいくら手元にクルマがあれど、思い立ったらすぐ出発進行とはいかないのがわれわれの現実だ。そういう時は目の前に具体的動機をぶら下げて、自らを奮い立たせてもいいかもしれない。目的地を決めるより先に目的を決める。金はなくとも時間ばかりは売るほど余っていた若かりし頃は、そんな旅をよくやったものだ。
では、目的地より先に決める目的とは一体なんなのか。
そりゃあ、メシに決まってる。
まずうまいもんが大前提にあり、副菜に美味(おい)しい景色のみえる道がある。そこが目的地となれば、往復の数時間はたとえ淡々とステアリングを握っているだけだとしても、自分を振り返り、改める時であればいい。少なくとも僕の場合、そういう行状が十分旅になりうる。
とりあえず、なにを食おうか。
クルマを走らせてまで味わいたくなるもの。そこに編集長が持ちかけてくれた提案が強力だった。一日3組のみが口にできる、完全予約制の鶏料理。それは京都の街中ではなく、奥座敷といわれる貴船(きぶね)や鞍馬(くらま)に近い側にあるという。
例えば東京からなら片道およそ500km。週末ドライブの達成感としてはおあつらえ向きな距離である。昼時をちょっと外した時間帯に予約を入れれば途端に気分はブラリ旅モード。やっぱり目の前に具体的なにんじんをぶら下げたほうが仕事がはかどることを、この週は思い知った。
V40で行く理由
旅のお供がボルボV40である理由はいくつかある。まず、ボルボの先進安全デバイスはその実効性もさることながら、制御が実地に適していて扱いにストレスがたまらない。アダプティブ・クルーズコントロールが大好物な僕は、体験値としてボルボのそれに掛け値ない好印象を抱いている。
そして刷新されたT5 R-DESIGNに採用された、新型の2リッター4気筒直噴ターボエンジンと8段トルコンATとの組み合わせにも大きな期待があった。燃費への好影響はある程度察しはつくが、果たして走りはどうなのかと。
鶏以外の目的がはっきりしない行き当たりばったりの旅も、スマートフォンが傍らにあれば鬼に金棒。便利な時代になったものだ。手持ちのiPhoneをUSBポートでつなぎ、充電しながら好きな音楽を鳴らしつつ、V40は淡々と距離を刻む。
件(くだん)のアダプティブ・クルーズコントロールはドライブの気疲れを和らげてくれるうえ、直近のV40には、カメラで車線逸脱を認識し、アクティブに修正するアシストも加えられた。こういうデバイスの過信は禁物だが、移動のひと時をいかにリラックスするかにおいてありがたい仕事をしてくれるのもまた確かだ。
途中、高速道路で出くわした工事渋滞はかなり頑固で、歩いたほうが早いと思うような速度でじりじりと前進を繰り返したかと思えば停車寸前に急に流れがよくなるなど、アダプティブ・クルーズコントロールにとっては最もつらいだろう曖昧な状況が数kmにわたって続いた。
が、V40が備えるそれの制御は実にきめ細かく、車間や速度の調整も機械的な違和感をほとんど感じさせない。この辺りの熟度をみても、ボルボの先進安全デバイスが最先端にいることがうかがい知れる。余計な緊張を強いられないおかげで、まだ見ぬ鶏への期待値は上がりっ放しだ。
究極の鶏料理に出会う
そのお店「とり料理 瀬戸」は、意外なシチュエーションにあった。営業を始めた31年前は一帯には畑しかなかったそうだが、近年の宅地化で農家の面影を残す店舗の周囲は住宅に囲まれつつある。こんなところに……というその意外性に、さらに期待値が押し上げられるのだから自分の卑しさに辟易(へきえき)する。
案内されたのは広大な敷地の一角にある離れだ。大人4人が囲炉裏(いろり)を囲んでゆったりできる適度な広さのそこからは、今も耕し続けているという畑や背後の山並みを望むことができる。オシの強い絶景ではなく、どこか懐かしく心に染み入る景色。日本人ならば誰もが抱く郷愁感に満ちている。
裏庭に放たれた鶏は、客の来訪に合わせて都度最適な鮮度で供される。それがゆえの一日3組完全予約制であり、時間厳守。そして鶏の周りを彩るのは、目の前の畑で育てられる季節の野菜や、庭先に芽を出した山菜などだ。卓に並ぶものに、外から仕入れられたものは数えるほどしかない。
お店の側は、地元の農家の昔からのもてなし方をもって、新鮮な地のもの、自然のものを食べてもらうことに注力しているとおっしゃる。客の口に入るのは、半径数十mの敷地内にある採れたてのものというのだから、これ以上の産直もオーガニックもないだろう。東京ではかなえられない贅沢の裏面には、食とは本来、そういうものだったという示唆がある。
もちろんこの日、僕の卑しい脳内メモリーにある鶏部門のバッケンレコードは更新された。かつてないガッチリした歯ごたえと噛(か)むほどに湧き上がるうま味。こんな鶏に出会ってしまい、明日から何を軸足に生きていけばいいのか。喜びを通り越し、どんよりと後悔の念に晒(さら)されたくらいだ。
膨れ上がった期待値をも上回る最上の満足度で目的が満たされた僕は、京の旅情を増強するために、市街を見渡す場所へとクルマを走らせた。
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乗るほどにわかるその力量
行きしなに散々楽をさせてもらったぶん、ワインディングロードではハンドルを握る手のひらにも力がちょっとこもる。V40 T5 R-DESIGNは245psのパワーを確実に旋回へと変えるライントレース性もさることながら、4気筒化で得られたノーズの軽さが印象的だ。
ノーズの入りが軽やかでコーナー途中での切り増しにもしっかり応じてくれる辺りは、走り慣れない山道での扱いやすさにも大きくつながっている。こういう場面での8段ATの変速レスポンスは、クラッチタイプのそれと寸分違わぬとはいわずとも十分に素早く、駆動力もダイレクトに路面に伝えてくれた。一方で、街中を低速で取り回す際の滑らかさなどは、決して飛ばすだけが能ではないクルマの性格にはよく見合っている。
おのずと使用域が低回転となる高速巡航時の燃費は14km/リッターに迫るところだったが、そこから追い越し等で十分な加速を得たい際のキックダウンなども実にスムーズだ。効率の向上が著しいトルコンATはドライバビリティー面の長所で直近は見直される傾向にあるが、このクルマもそのトレンドをいち早く汲(く)んだものといえる。
またまたアダプティブ・クルーズコントロールの恩恵を享受しながらの帰路、現行世代のボルボの多様性を思い知らされたのはシートの出来だ。V40のラインナップ中でも屈指のスポーティーグレードでありながら、そのシートはしっとりと体を包み込み、強く姿勢を規制することなく優しく保持してくれる。結果的に疲れないという実利もさることながら、座っただけでそれとわかる掛け心地は彼らにとって死守すべき個性だろう。
それもまた、ボルボが旅へと誘うクルマであることを支えているものといえる。
(文=渡辺敏史/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
ボルボV40 T5 R-DESIGN
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4370×1800×1440mm
ホイールベース:2645mm
車重:1520kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:245ps(180kW)/5500rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1500-4800rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92W/(後)225/40ZR18 92W(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:15.1km/リッター(JC08モード)
価格:436万円
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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