第280回:これは現代のスペシャルティーカーだ!
開発陣に聞く「マツダCX-3」の見どころ
2015.02.20
エディターから一言
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マツダの新型コンパクトクロスオーバーSUV「マツダCX-3」の正式発表日が近づいている。それに先立ち、デザインから車両パッケージ、そしてディーゼルエンジンのノック音を抑える世界初の“秘策”まで、開発陣にじっくり聞く機会を得た。
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「デミオSUV」でも「ミニCX-5」でもない
2月末に発売されるマツダCX-3の商品概要説明会に参加した。CX-3は、はやりのコンパクトクロスオーバーだ。ここのところ、世界中のメーカーがこぞって自社のコンパクトカーのプラットフォームを用いて、コンパクトクロスオーバーを開発、市販している。CX-3もその文法にのっとって、「デミオ」のプラットフォームを使って開発された。
CX-3のサイズは全長4275mm、全幅1765mm、全高1550mm、ホイールベース2570mm。デミオのSUV版であり、「CX-5」の小型版のような位置づけだが、マツダによるとそれはあくまで結果であり、サイズ、スタイル、ユーティリティーのいずれも自由な発想で開発されたという。「既存モデルのモデルチェンジではなく、新しいモデルをゼロからデザインできることに喜びを感じながらつくった」とチーフデザイナーの松田陽一さん。
大径タイヤ&ホイール(黒い樹脂のアーチモールもタイヤをより大きく見せる効果がある)、タイトなキャビン、ショートオーバーハングなどの手法を用いて、デミオと同じホイールベースでありながらより伸びやかなデザインを目指したという。Aピラーを可能な限り後方へ引き、ロングノーズとし、ボディーの後方にボリュームをもたせることで、動物が飛びかかる直前の躍動感を表現したデザインは、新世代のマツダ車に共通するやり方だ。水平フィンのフロントグリルは、先日マイナーチェンジした「アテンザ」と共通するイメージだ。リアはナンバープレートの上端がリアゲートで隠れるような配置が面白い。この段差にリアカメラなどのデザイン上、邪魔な装備をうまく隠している。
全高はタワーパーキングに収まる1550mmに
インテリアのデザインはデミオに近い。デミオもコンパクトカーの割には素材に凝った高評価のインテリアだが、CX-3は全体的にもう少し質感が高い。というのも、CX-3の価格はざっと230万~300万円と明かされている。つまり一番高いグレードで比べると同じエンジンのデミオよりも80万円程度高い。その価格差をユーザーに納得させるべく、細部がより丁寧に作りこまれている。
ちなみに、CX-3のデザインを成立させるために不可欠だという大径タイヤ。グレードによって、215/60R16か215/50R18サイズが装着されるのだが、このサイズのクルマにしては大きい。特に18インチタイヤは重量がかさむこともあってハンドリングや乗り心地の面では不利となるが、このクルマの場合、デザインは何よりも優先されたようで、車両開発セクションの皆さんは涙をのんで大径タイヤを受け入れたそうだ。高いレベルのダイナミック性能を求められるマツダ車だけに、どうやって成立させているのか、早く試乗してみたい。
ただ、いくらデザイン重視とはいえ、クロスオーバーがクロスオーバーたるために、乗降性のよさや運転しやすい高いアイポイントを確保すべく工夫されている。車高が高いことで得られる見晴らしのよさや乗降性のよさと、車高が低いことで得られる低重心やハンドリングのよさを考慮したうえで、機械式駐車場への対応も踏まえ、車高は1550mmに決まった。また、人間工学に基づく検証からアイポイントの高さを1250mmに設定したという。マツダの特徴であるドライビングポジションへのこだわりはこのクルマでも発揮されていて、デミオ同様、前輪をできるだけ前へ配置することで、左右の足を自然に伸ばした位置にペダルをレイアウトした。オルガン式のアクセルペダルは、個人的には好みではないが、マツダはこっちのほうがよいと考えているようだ。
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1.5ディーゼルに“ノック音”を抑える新技術を投入
デミオに初めて採用され、CX-3にも載る1.5リッター直4 DOHCターボのスカイアクティブ-Dエンジンは、圧縮比が14.8と低いため、ディーゼルエンジンとしては振動が少なく、静粛性が高い部類に入る。ほか、2.2リッター版も含めガソリンエンジン搭載車とは別次元の遮音対策を施しているため、マツダのディーゼル車は静かで低振動を誇る。「すでにスカイアクティブ-Dは4気筒ディーゼルのなかでは最も静かなエンジンじゃないですか」と尋ねると、パワートレイン開発本部の新畑耕一さんは「クルマに詳しい方から『ディーゼルにしては静かだ』という評価はいただいているんですが、日本ではガソリン車やハイブリッド車から乗り換えを検討される方が多くて、それらと比べても遜色ないところまでもっていきたいんです」と目標を語る。
そして広島のエンジニアは、遮音対策ではなくエンジンが発する音や振動そのものを低減する源流対策として、まったく新しい仕組みの実用化に成功した。その名は「ナチュラル・サウンド・スムーザー」。発進時や緩やかな加速時に生じるディーゼルノック音(いわゆるカラカラ音)を低減すれば、全体としてもっと静かなエンジンになることを突き詰めた。「不快な音の原因がコンロッドが伸縮して発する音だとわかったので、それを低減すべく、ピストンピン内部(通常は中空状態)にダイナミックダンパーを仕込み、共振を打ち消すことができたんです」と新畑さん。
録音したナチュラル・サウンド・スムーザーあり/なしの音を聞き比べたところ、明らかにありのほうが音が小さい。新畑さんは、この仕組みは主に振動よりも音対策だというが、音が小さければ振動も減っているのだろう。早く運転中に聞こえる音を確かめてみたい。世界初の仕組みで、特許取得済みだという。マツダらしいのは、せっかく世界初の仕組みなのに標準装備せず、オプション設定としたこと。新畑さんはその理由について「迫力があってディーゼルのあの音や振動が結構いいというお客さんもいらっしゃいますから」と言うのだが、そう考えているのはマツダのエンジニアたちなんじゃないのか! そう心の中でツッコミを入れた。
開発に携わったエンジニアは皆、口では「まだまだです」と謙遜するが、表情が自信満々なのが印象的。CX-3は、12年発売のCX-5発売以降、アテンザ、「アクセラ」、デミオと立て続けにヒットを続け、自信をつけたマツダ渾身(こんしん)のプロダクトなのだろう。230万~300万円とはなかなか強気の値付けだが、もともとマツダ車は他の何かと比べて得だからと選ばれる銘柄ではない。走らせてみないことには何も断言できないが、このクルマもきっと買った人を満足させるんじゃないかと思う。
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コンパクトクロスオーバーはこれからが旬
最後に、コンパクトクロスオーバーというジャンルを日本でいち早く展開したのは「日産ジューク」だ。ユニークなスタイリングが受けて話題となった。続いてホンダの「ヴェゼル」。ハイブリッドもあって、度重なるリコールをものともせず、2014年の年間販売ランキングで堂々7位にランクインした。海外メーカーもここ数年、このジャンルに目をつけていて、日本市場に導入されているモデルでは、「プジョー2008」や「ルノー・キャプチャー」などがそれに当たる。出てきたのはブームよりも前だが、フォルクスワーゲンの「クロスポロ」もこの部類に入るだろう。日本には入ってきていないが、欧州では「オペル・モッカ」というモデルが人気のようだ。
コンパクトカーほどサイズの制限が厳しくなく、また本格的なSUVほどの走破性やユーティリティーも求められないため、コンパクトクロスオーバーはメーカーにとって自由な発想で開発することができるジャンルなのではないだろうか。おまけにベースとなるプラットフォームはすでに存在するので、お手軽に……とは言わないが、開発の時間は短縮、コストは圧縮できる。
思うに、このコンパクトクロスオーバーは現代のスペシャルティーカーなのではないだろうか。かつて「シルビア」「プレリュード」「セリカ」などは、それぞれ各社のセダンをベースに開発され、ほぼスタイリング勝負で激しい販売競争を繰り広げた。現代はあの頃ほど背伸びして二枚目を気取るのははやらない。けれど、お母さんが乗ってるコンパクトカー、お父さんが乗っているミニバンやSUVと同じじゃイヤという若者のために、こうしたスタイリング優先のモデルが求められているのではないだろうか。そして、若者をターゲットに開発したクルマがおじさん、おばさんにもウケるというのは当時のスペシャルティーカーとて同じこと。この先もコンパクトクロスオーバー・ジャンルはもっと充実するはずだ。
(文=塩見 智/写真=webCG)
