第277回:これぞスリーダイヤの真骨頂
三菱自慢の4WD技術を雪上で試す
2015.02.18
エディターから一言
「ウイリス・ジープ」のノックダウン生産以来、長年にわたり4WD技術を培ってきた三菱自動車。現行ラインナップを雪上で試乗し、その実力を確かめた。
ランエボは日本人の誇りだった
人によるだろうが、現在42歳の僕の場合、三菱自動車といえば、まっ先にラリーシーンでの活躍を思い出す。ランチア、プジョー、トヨタ、そしてスバルとの激闘を繰り広げた歴代「ランサー エボリューション」の活躍を忘れられない。三菱の絶対的エースだったトミ・マキネンは、ランエボで1996年から4年連続でドライバーズチャンピオンに輝いた。当時はWRCで勝つためにほぼ毎年ランエボが進化していったし、それに応えるようにライバルの「スバル・インプレッサWRX STI」も進化を重ねた。あのころ、最大トルク40kgm級の2リッター4気筒ターボエンジンを搭載した300万円前後のクルマなんて、ランエボとインプレッサを除けば世界に存在しなかった。両者は海外のクルマ好きからも憧れられ、そのことは日本人のプライドをくすぐった。
また、ラリーレイドでの活躍も忘れられない。「パジェロ」はパリ~ダカール・ラリー(現在のダカール・ラリー)で、2001~07年の7年連続を含む通算12回の総合優勝を飾った。長年、三菱の日本人エースとして活躍し、02、03年に総合優勝(01年もほぼ優勝間違いなしだったのに最終盤にライバルの不正がまかり通って2位に甘んじた!)を飾った増岡 浩さんは、現在では三菱の社員。車両開発に携わるほか、テレビCMでおなじみの、パジェロと「デリカD:5」が角度の付いたキャリアカーを登坂する実演を全国で披露しているという。
そうした三菱の技術力の象徴的な部分は、なんといっても4WD技術だ。地理的に降雪地帯が多いことから日本は4WDを得意とするメーカーが多数存在する国だが、50年代に警察予備隊(自衛隊の前身)に納入するために「ウイリス・ジープ」をノックダウン生産し始めた三菱には、4WDに関するノウハウが多数蓄積され、一日の長がある。
現在、三菱には細かく分けて8種類の4WDシステムが存在する。このうち日本で販売する現行モデルに使われているのは7種類。今回の試乗会では、主要な4種類のシステムを採用するモデルに雪上で試乗することができた。
最新のテクノロジーを誇るアウトランダーPHEV
「アウトランダーPHEV」は、主に発電に用いる2リッター直4エンジンと、フロントモーター、リアモーター、それに駆動用のリチウムイオンバッテリーを搭載し、コントロールユニットで制御するプラグインハイブリッド車だ。第一義的にはガソリン消費をなるべく減らすためのPHEVシステム採用だが、駆動に用いるモーターを1つではなく前後に採用したのは、それぞれに独立した動きをさせることが、悪路走破性向上にも、オンロードでの走行性能向上にも寄与するからだ。「うちは次世代車も4WDを辞めません」という三菱の決意表明のようなモデルといえる。
搭載する「ツインモーター式4WDシステム」は、ランエボや非PHEVの「アウトランダー」が採用するS-AWC(車両運動統合制御システム)コンセプトをモーター駆動用にアレンジして採用する。通常はフルタイム4WD(前後トルク配分は45対55)で走行し、前輪か後輪かどちらかがスリップすると、瞬時に駆動力を失っていないほうの車輪(モーター)にトルクを重点配分する。コーナーでは内輪のみにブレーキをかけて旋回性を高める。ランエボはエンジンが発するトルクを振り分けるのに、前後のトルク配分をアクティブ・センター・デフが担い、左右のトルク配分をリアデフに仕込まれたアクティブ・ヨー・コントロールが担う。これに対し、前後で独立したモーターを持つアウトランダーPHEVにはプロペラシャフトがないからセンターデフもないため、純粋に電子制御で配分をコントロールする。
このため、理論的にはよりシンプルに、より素早く理想的な前後および左右重量配分を実現できる。実際にはどうか? 雪上での振る舞いはさすがだ。ドライバーはノーマルモードを選び、直線ではアクセルとブレーキを操作し、コーナーではそれにステアリング操作を加えるだけで、思い通りのラインをトレースしていくことができる。制御がきめ細かく、瞬時に行われるため「前輪がスリップしたから後輪にトルクが移動したな」とか「内輪をブレーキでコントロールして曲がりやすくしたな」などとドライバーが体感することはできない。ただ「あれっ結構なペースで曲がれちゃったな」と感じるのみ。
クルマの運動性能は絶対的な車両重量や前後重量配分、それにタイヤの性能にも大きく左右されるため、アウトランダーPHEVが低ミュー路で最高の走破性を誇るとは限らないが、トルクを前後左右輪へ最適配分する能力という意味では、ツインモーター式4WDは最高レベルのシステムだ。特にドライバーに特別な操作をさせることなく、フールプルーフに高い次元の挙動を提供するという意味においては、これまで試乗した4WDの中で最も感心した。まずPHEV部分に注目が集まるのはしかたないことだが、アウトランダーPHEVは4WDシステムにおいてもっと注目されていいクルマだ。念のために書き添えておくが、いかに優れたシステムであろうと、タイヤのグリップ限界が上がるわけではないから、オーバーペースでコーナーへ進入すれば膨らんで雪壁に衝突することもある。
雪上での振る舞いが印象的なRVR
このほか、PHEVではないアウトランダー、デリカD:5、「RVR」にも試乗した。これらはいずれもエンジン横置きの前輪駆動(FWD)ベースの4WD車に多い電子制御システムを採用する。つまり通常はFWDで走行し、前輪のスリップを検知すると、センターデフの代わりに備わる電子制御カップリングによって後輪にもトルクが振り分けられる仕組み。いわゆるオンデマンド4WDだ。
三菱に限らず、世の中の大部分の4WD車が採用する仕組みであることからわかるように、わざわざ悪路へ分け入って走行そのものを楽しむのではなく、圧雪された雪道や部分的に凍結した路面を生活のために走行する使い方であれば、シンプルなこのシステムで問題ない。実際には前輪がスリップした時だけではなく、力強い発進や加速を必要とする時などにも後輪へトルクが配分され、その配分量はアクセル開度、エンジン回転数、車輪速などをもとに決められる。センターデフ式のように、常に4WDで走行しないのは、一にも二にも燃費を稼ぐため。4WDのメリットと低燃費のメリットの両立を目指す現代的なシステムといえる。
このうち、アウトランダーのみにS-AWCコンセプトを取り入れたアクティブ・フロント・デフが備わる。この結果、内輪にのみブレーキをかけて旋回性を高める簡易的なトルクベクタリングだけではなく、フロントデフの差動を能動的に電子制御することによる外輪増速的な機能が備わり、より速く、力強く旋回することができる。
どのモデルも雪上で十分なトラクション能力があり、生活4WDとしては十分以上の走破性を備えていた。中でも、絶対的な車重が1430kgと最も軽量で、かつ重心の低いRVRは軽快で、勢いよく加速でき、減速の安心感も高かったのが印象的。1.8リッター直4エンジンとCVTを組み合わせたパワートレインに見るべき部分がないため、今流行中の小型クロスオーバージャンルにあって先駆け的存在でありながら埋没してしまっているが、雪上での振る舞いだけで買ってもよいと思わせるモデルだ。
また、デリカD:5は国産車では貴重な直4ディーゼルターボを搭載するモデルを選ぶことができるのが大きな価値。エンジンは動力性能の面でも振動や静粛性の面でもマツダのSKYACTIV-Dエンジンに一歩及ばないが、同種のミニバンが積むガソリンエンジンでは得られない経済性がある。雪国に住む多人数乗車と長距離走行の機会が多い人の選択肢としては魅力的だろう。
伝統的な4WD機構を使い続けるパジェロ
最後はパジェロ。このクルマには、三菱が1991年発売の2代目から現行型にまで四半世紀にわたって進化を加えながら使う伝統的なセンターデフ式4WDが用いられている。同社の4WDは50年代にジープ生産を始めた頃から80年代前半に発売された初代パジェロまでは、RWDで走るか4WDで走るかをドライバー自身が選ぶパートタイム式4WDが採用されていた。この方式では4WD時に前後トルク配分が前後50対50で固定されていたため、乾燥路面での旋回時などに前後で回転差が生じると、タイヤがギシギシとよじれて不快だった。
その後、前後の回転差を吸収することができるセンターデフを備えたいわゆるフルタイム式4WDとなったのが、2代目以降のパジェロであり、後輪駆動(RWD)ベースかFWDベースかの違いはあれども「ギャラン」や「ランサー」などだった。加えて、2代目パジェロには、燃費を稼ぐためのRWDモードや本格的な悪路走破性を高める副変速機、直結機構などを備え、フルタイム式(快適性)とパートタイム式(走破性)のよさを併せもったスーパーセレクト式4WDシステムが採用された。ちなみに、この方式は94年に登場した「デリカ スペースギア」にも採用され、当時のデリカは間違いなく最強の悪路走破性をもったミニバンで、一部マニアから絶大な支持を得た。
その後、99年発売の3代目パジェロでは基本の前後トルク配分を33対67とし、オンロードでの素直なハンドリングを身につけた。06年に登場した現行の4代目にも基本的にそのシステムが踏襲されている。つまり、三菱はアウトランダーPHEVに最も先進的なハイテク4WDを採用し、一方でパジェロに極めて伝統的なメカニカル4WDを採用している。どちらの走破性も高く、限られたシチュエーションで短時間試乗した程度では優劣をつけられるほどの違いは感じられなかった。
パジェロの方式は、効率や重量のことを考えるとあまり将来性のある方式とはいえないかもしれない。けれども、このクルマがさまざまな市場で本格的なクロスカントリー・ヴィークルとしてヘビーデューティーな用途で使われていることを考えると、日本で販売し続けるかどうかは別にして、簡単にこの方式をやめることはできないだろう。
このところの三菱は、従来のフルラインナップメーカーから軽自動車を含むコンパクトとSUVを中心とするメーカーへ、また先進国に工場をもって先進国を中心に販売する戦略から新興国に工場をもって新興国を中心に販売する戦略へと、選択と集中を推し進めている最中だという。ただし、この先時代は安全の面でもスポーツ走行の面でも4輪を独立してコントロールする方向へ進んでいくと思われる。となると、三菱が長年培ってきた4WDに関するノウハウは強みになるだろう。アウトランダーPHEVに続く、テクノロジーの塊のようなモデルを早く見せてほしい。
(文=塩見 智/写真=三菱自動車)

塩見 智
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