第281回:タイヤの進化は日進月歩
ブリヂストンの新製品「レグノGR-XI/GRV II」を試す
2015.02.26
エディターから一言
ブリヂストンの乗用車用プレミアムタイヤブランド「REGNO(レグノ)」から2つの新製品が登場。従来品との比較試乗を通し、その実力と日進月歩のタイヤの進化をリポートする。
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ラインナップの頂点に立つブランド
タイヤなんてただ丸くて黒いだけのゴム製品といってしまえばそれまでの存在である。けれども、新製品の技術説明を聞くたびに、「こんなにシンプルな形状で、しかも見た目はどれも大差がないタイヤという製品に、よくもこれだけたくさんの新技術を盛り込めるものだ」とつくづく感心してしまう。
もちろん、なにかひとつの新技術を投入するだけでさまざまな性能が劇的に改善されるというようなことは、もはやありえない。なぜなら、現在販売されているタイヤはどれも20年、30年の歴史を経て磨かれてきたものばかりで、そもそもの完成度がかなり高いからだ。けれども、そうした製品の性能をさらに引き上げようとしてエンジニアたちは日夜努力を続けているわけだから、新製品が発売されるたびに山のように新技術が登場するのは当然のことかもしれない。そして、そうした地道な努力が、昨日よりも今日、今日よりも明日と、タイヤを着実な進歩へと導いているのである。
ブリヂストンのプレミアムブランド、レグノの最新作である「REGNO GR-XI(レグノ ジーアール・クロスアイ)」と「REGNO GRV II(レグノ ジーアールブイ ツー)」にも新技術がどっさりと盛り込まれているが、個々の技術解説をする前に、まずはレグノの立ち位置を簡単におさらいしておきたい。
同社のツートップが「POTENZA(ポテンザ)」とレグノであることは誰もが認めるところ。そしてポテンザがスポーツ性能を、レグノがコンフォート性能を追求したモデルであることも、いまさら説明は不要だろう。その意味において、ポテンザとレグノは方向性の違いこそあれ、同じような高みにある製品だと思っていたが、今回配布された資料に、付加価値、いわゆる製品のバリューという観点ではレグノがポテンザを上回る位置にあるとの説明があって驚いた。そして、そこには「最も総合価値が高いのがレグノブランド」という文字が躍っていたのである。
実は、この「総合位置」という言葉に2モデルのポジショニングの秘密が隠されている。ポテンザのバリューももちろん高いが、あくまでも優先されるのはスポーツ性能であって、静粛性、乗り心地、ライフ、低燃費といった性能へのプライオリティーは必然的に低くなる。ところが、レグノではこれら4つの性能が重視されるのはもちろんのこと、直進安定性、ドライ性能やウエット性能といった運動性能も妥協なく追求されているのだ。だからこそ、ブリヂストンは胸を張って「総合価値ならレグノ」と主張できるのである。
性能の向上を支える独自技術の数々
今回試乗したGR-XIとGRV IIは、前者がコンパクトカーを含めたセダン系統のモデル向け、後者がミニバン向けという対象車種の違いがあるものの、どちらも静粛性を主軸とする総合性能を追求したという意味では極めて近い関係にある。このうち静粛性に関しては、単に“静か”というだけでなく、人間の心理にまで踏み込んだ官能評価を行い「上質な静粛性能」を実現したという。
いくつかの技術を紹介すると、トレッド面に施された消音のための気室部については、前作「GR-XT」では「3Dヘルムホルツ型」と呼ばれる形状だったものを、新製品では左右のグルーブをつなぐ形状の「ダブルブランチ型」に改良(詳しくは写真を参照)。この結果、気柱管共鳴を抑える効果を損なうことなくパターン剛性を高めることができたそうだ。
さらに「ULTIMAT EYE(アルティメット アイ)」と呼ばれるシミュレーション技術でトレッドパターンやタイヤ形状の最適化設計を行い、応答性のよいハンドリングと優雅な乗り心地を実現。その上で、トレッドゴムに、素材の配合をナノレベルでコントロールする独自技術「ナノプロ・テック」、および「ウエット向上ポリマー」などの素材を採用することで、転がり抵抗をGR-XTと同じAグレードに保ったまま、ウエットブレーキ性能を7%も改善したのである。
一方、GRV IIではイン側トレッドにディンプルのようなラウンドスロットパターンを、そしてサイドウォールにミニバン専用のチューニングを施すことにより、ミニバンで問題になりがちなふらつきの抑制に取り組むとともに、転がり抵抗を18%、ウエットブレーキ性能を14%も向上させたという(いずれも対GRV比)。
今回はGR-XIを装着した「トヨタ・クラウン」(比較対象タイヤはGR-XT)と「ホンダ・フィット」(比較対象タイヤは「NEXTRY」)をテストコースで走らせてその進化の度合いを確認するとともに、GR-XIを装着した「メルセデス・ベンツE300」とトヨタ・クラウン、そしてGRV IIを装着した「トヨタ・アルファード」(先代モデル)の3台を公道で試乗し、その感触を確かめるというプログラムが用意されていたので、順に紹介していこう。
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優れた製品をさらに進化させるために
まず、GR-XTを履いたクラウンで乗り心地比較用の荒れた路面とスラローム走行を体験する。正直、これでも十分に静かだし、スラローム時のハンドリングもしっかりしている。おそらく、この試乗だけだったら何の不満も抱くことなく、なかなかよくできた製品だと感じていたことだろう。
けれども、GR-XIを履いたクラウンで同じコースを走ると、GR-XTの弱点が少しずつ見えてくる。例えば、段差のある路面を通過したときのノイズは、ドスッという低周波側の騒音が中心で、この低周波側の音量だけを取り上げればGR-XIもGR-XTもそう大きな違いはないものの、GR-XIはその上に乗る高周波側のノイズが低く抑えられていて耳障りな感じがしない。たとえていえば、よくできた高級車のドアを閉めたときのような、低くて引き締まった音だったのである。
いっぽうスラローム走行ではダンピングの利いた安定感あふれるハンドリングが印象的だった。とりわけフィットではその差が激しく、比較対象タイヤのNEXTRYではトレッド面からの入力が大きいせいか、段差を乗り越える際にボディーからギシギシというきしみ音が聞こえていたのに対し、GR-XIでは何事もなかったかのように段差を乗り越え、まるでボディー剛性が上がったかのような錯覚にとらわれることとなった。
また、クラウンもフィットも直進時のスタビリティーは十分に高いのに、少しステアリングを切り始めたときの反応が正確かつ機敏であるように感じられた。これだったら、高速道路をリラックスして走れるいっぽうで、ワインディングロードでは意のままに操ることができそうだ。
続く公道試乗では、E300の豹変(ひょうへん)ぶりに驚かされた。というのも、今回の試乗車は、E300のなかでもNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)に関してはあまり高い評価が得られなかった初期型。ビッグマイナーチェンジが施された現行型に比べると、この初期型はロードノイズや乗り心地の洗練さがはっきりと劣ると記憶していたが、GR-XIを履くとそれらの弱点が面白いくらいカバーされ、現行型とほとんど遜色のないレベルに到達していたのである。
いっぽう、GRV IIを履いたアルファードは低速域での滑らかな乗り心地と直進性の良さが、クラウンではやはり低速域での滑らかな乗り心地とロードノイズの小ささが印象に残った。
今回の試乗で前作との劇的な違いが体感できたわけではない。けれども、もともと完成度が高い製品をさらに改良するため、日々黙々と開発に取り組む技術者たちの秘めたる情熱が今回の試乗を通じて強く感じられたことは大きな収穫だった。
(文=大谷達也/写真=向後一宏)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。