フォルクスワーゲン・ポロGTI(FF/7AT)
新しいスポーツドライビングの提案 2015.03.11 試乗記 1.8リッター直噴ターボエンジンを搭載した「フォルクスワーゲン・ポロGTI」に試乗。フォルクスワーゲンが提案する、新しい「走る喜び」に触れた。この乗り心地は確信犯
「ぐはぁ!」
これが、マイナーチェンジを果たしたポロGTIに乗っての第一声。その乗り心地が、いくらGTIとはいえ大胆なほどに硬いのだ。もしかしたらそのスパルタンさは、フォルクスワーゲン一族の中にあって一番かもしれない。
試乗コースであるワインディングロードに車両を持ち込んでくれた担当H君も「高速道路はキツいッス…」と特徴のある眉毛をハの字にしていた。トレッドが狭くて背の高いポロのボディーに、これだけ硬い足まわりを組み合わせていたら、ホットコーヒーは飲めないだろうなぁ……。先代「ホンダ・シビック タイプR」を思い出した。
とはいえその硬さは、ガチガチとかガツンガツンという粗野な硬さじゃない。段差を乗り越えても、路面からの入力は角が丸く抑え込まれ、きちんと減衰されているのがわかる。また真っ平らな路面であれば、むしろ乗り心地はフワフワなアシよりも素晴らしい。ただしうねりを越えると、車体が上下左右に細かく揺さぶられる。そしてこの振幅が速いのだ。ドライバーの目線も定まりにくい。正確には硬いのではなく、“常用域では”不快なのだ。
装着タイヤは215/40R17サイズのコンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト2。ホイールクリアランスも意外なほど十分に取られているから、この乗り心地はタイヤやシャコタン・スプリングによる悪影響の結果じゃない。ダンパーの減衰力を引き上げることで得られた結果だ(もちろんそれに付随してスプリングレートも上がっているだろうが)。
ただしこれは、フォルクスワーゲンの確信犯的な行為。正直ロードスポーツとしてはやり過ぎな乗り心地には、そうするだけの理由がある。言うまでもなく、走りを研ぎ澄ますためである。
懐疑派の言い分を実力で黙らせる
変わったのは足まわりだけではない。1.4リッターだったTSIツインチャージャーは、ダウンサイジングの流れに逆らってまで1.8TSIシングルチャージャー(直噴ターボ)へとスイッチした。これによってパワーは179psから192psへと向上。最大トルクは25.5kgmと変わりがないが、その発生ポイントは2000rpmから1250rpmへと引き下げられた(後から来る6MT仕様は32.7kgmらしい)。
ただし筆者はこの改良に少々懐疑的だ。低速ではスーパーチャージャーを利かせ、高回転ではターボチャージャーによる過給で空気を強制的に送り込むツインチャージャー時代の方が、エンジンの切れ味は鋭かった気がする。エンジンをロングストローク化し、ECUによる直噴制御を発展させたことでパワー&トルクが向上したのは確かだが、何より小排気量でパワー&トルク、そして燃費を稼ぎ出した先代の方が、技術的な革新にときめいた。結局はコストとの兼ね合いで、シングルターボに落ち着いたのではないか。
そうはいいつつ、排気量にものを言わせて低速からトルクで押し切る後期型ポロGTIは速い。そのまま踏み切っても、ターボチャージャーの加速がきっちりレッドゾーンの6500rpm+までエンジンを回しきる。結局は、現行型が勝つ。グズグズと文句をこぼす美女を(筆者は美女じゃないけれど)、無理やり黙らせるジゴロのような、少々野蛮だけれど強引なヨーロッパ的手法である。
このスピードを受け止める足まわり、そう、常用域では苦々しい足まわりも、GTIが求めるスピードレンジに乗った途端にトロけた。エンジンで言えば“カムに乗った”領域だ。ここに入ると、予想されたことだが、その硬さがシッカリ感に変わるのである。前期型に見られたトルクステアもまったくない。
どんな曲率のコーナーも得意
ストレートで稼ぎ出されたスピードをブレーキが熱量に変換する感触が最高に心地いい。ブレーキングを終了し、ターンインするときのロールのつながりは、その高いスピードレンジにあって恐ろしく素直でスイートだ。そのときリアタイヤは、フォルクスワーゲンの常として絶対に路面を離さない。
その矛盾を解決するために内輪のブレーキをつまんで機械的にフロントノーズをイン側へグイッと入れるわけだが、後期型ポロGTIではその電子制御の介入も、一段と自然になっていた。とにかくフロントノーズが入る。コーナーで曲がる。大抵のドライバーは、意図したよりも曲がり過ぎて戸惑うはずだ。そのときはアクセルを踏み込むべし。
逆に多少オーバースピードで入っても(このあんばいは経験次第なのだが)、フロントタイヤが逃げ始めたくらいからアクセルを踏み込めば、横滑りが収束し進行方向へとトラクションがかかっていくのがわかる。そして見事にコーナーを立ち上がる。
曲率の大きなコーナーでは、スピードレンジこそ高いが、その素晴らしい制御ぶりをじっくりと味わうことができる。逆にタイトなコーナーでは、電子制御をストック代わりに、スキーのスラロームを気取れる。7段DSGのギアチェンジは相変わらずパーフェクト。2ペダルは若干だが、左足ブレーキがアクセルと重なることに寛容になった気がする。
パワフルなエンジンと、それを受け止める強靱(きょうじん)なシャシー、これを調整するブレーキ&トランスミッション。この4つが混然一体となったとき、新しいスポーツドライビングを感じた。唯一重心を高めるサンルーフ(オプション)が残念だった。
今までとは違う対話の形
こうした運転を筆者は以前「ランエボ的」とやゆしていたが(「ランサー」は競技車両だからよいのだ)、後期型ポロGTIは、そのサイボーグ的な走りをさらにひとつ進化させていた。機械的なアシストを人間が理解してやるだけで、それは知的なドライビングとなる。それでもそこには相変わらずGが存在するし、タイヤとの対話も求められるから、やっぱりそれはゲームとは違って、スポーツドライビングである。物理の法則を、機械と人間の両方でねじふせる運転に、汗もかけるし楽しさも感じてしまうのだ。……正直まだ複雑な気持ちだけれど。
こうした走りを完成させるには、割り切りが必要だったのだろう。それにしても、どうしてフォルクスワーゲンが、ここまで思い切った走りを提案したのかはわからない。ポロが末期モデルだからか? 「アウディS1」のようなサスペンションでは実現できなかったのだろうか?
新生ポロGTIの走りは極めてアスリート的である。知的かつ安全に、コーナーを攻略するまさにGTIだ。リアにスリップアングルを付けてスノーボードのように乗りこなす「ルノー・ルーテシア ルノースポール」とは対極のキャラクター。……あ、ジュネーブではルーテシアに「トロフィー」が追加されたんだっけ。
普通に走るならポロには「ブルーGT」がある。ならばGTIは、もっとスポーツを極めよう! ということなのだろう。どんどんクルマが高性能化し、ドライバーの手を離れていく傾向にある中で、実際に買えて、乗りこなせるサイズのセグメントを磨き上げ、クルマ本来の楽しさをもう一度提案しているのではないか。
でも……この乗り心地はちょっとキツイよなぁ。「ゴルフGTI」のような可変ダンパー、付けてくれないかしら。
(文=山田弘樹/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ポロGTI
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1685×1445mm
ホイールベース:2470mm
車重:1260kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:192ps(141kW)/5400-6200rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1250-5300rpm
タイヤ:(前)215/40R17 87V/(後)215/40R17 87V(コンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト2)
燃費:17.2km/リッター(JC08モード)
価格:334万2000円/テスト車=363万3600円
オプション装備:LEDヘッドライトパッケージ(16万2000円)/電動パノラマスライディングルーフパッケージ(12万9600円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2087km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:346.0km
使用燃料:31.0リッター
参考燃費:11.2km/リッター(満タン法)/10.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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