第389回:大矢アキオのジュネーブショー2015 デザインの都よ永遠に! カロッツェリア最新事情
2015.03.13 マッキナ あらモーダ!電動アシスト自転車から高層住宅まで
ジュネーブモーターショーは、歴史的にイタリア・トリノのカロッツェリアがモンブランを越えて最新作を持ち寄り、競い合う舞台だった。過去数年間にわたり怒涛(どとう)の再編を乗り越えた彼らが、今年2015年にジュネーブで展開するスタンドをのぞいてみた。
まずは創業85周年を迎えたピニンファリーナである。同社は2013年のジュネーブで公開したコンセプトカー「セルジオ」をベースにしたプロダクションモデル「フェラーリ・セルジオ」を展示した。多くの読者がご存じと思うが、「Sergio」とは、2012年にこの世を去った2代目社主、セルジオ・ピニンファリーナにちなんだものである。
プロダクションモデルは限定6台で、「フェラーリ458スパイダー」をベースにしている。コンセプト段階で提案されていた、気流を巧みに制御する代わりにフロントウィンドウを取り去る案や、ドア背後のエアインテークは実現されなかった。だが全体的には、ピニンファリーナらしい上品かつ流麗なオリジナルモデルのプロポーションが保たれている。
最初の一台は、ショー開幕前の2014年12月に、早くもアラブ首長国連邦のロイヤルコレクションに納入された。パオロ・ピニンファリーナCEOは「父へのオマージュとして企画されたクルマが形となり、世界の道を走り始めることは、夢の実現です」と語る。
ピニンファリーナは、今後フォーリ・セリエ(一品もしくは少数生産)の強化を明らかにしている。
同社の展示は自動車だけにとどまらなかった。スタンドの一角には、ミラノの高級サイクル工房「43ミラノ」とのコラボレーションで、30台限定で製作する自転車も展示されていた。往年のピニンファリーナ作品である1936年「ランチア・アストゥラ ボッカ」の内装にインスピレーションを得たというレザー使いをサドルに再現して、伝統を強調している。
価格はベースモデルの場合6000ユーロ(約77万8000円)だが、電動アシストや多彩なオプションを選択した場合、9000ユーロ(約116万円)にまで上昇する。
さらにビルの模型も展示されていた。こちらは、ピニンファリーナが外装を手がけたサンパウロの高層住宅だ。近年ピニンファリーナがデザインに参画したレジデンスビルとしてはマイアミ、シンガポールに続くものとなる。「建築界のフォーリ・セリエ」と、ピニンファリーナは説明する。
アウディ出身のジウジアーロ新ダイレクターに聞く
次にフォルクスワーゲン(VW)グループの傘下入りしてから、今年で早くも5年目となったイタルデザイン・ジウジアーロのスタンドを訪ねる。
同社が展示したのは「GEA」と名付けられた近未来のラグジュアリー電気自動車(EV)の提案である。ワイヤレス操作で左右とも90度まで開くピラーレスドアをオープンすると、ドアシルに内蔵されたLEDによって、バーチャルなレッドカーペットが投影される。
自動操縦を想定し、室内の主役はドライバーからリアシートのパッセンジャーに移されている。さらに自動操縦モードに切り替えると、ガラスにはスモークがかかってボディー色と同一になる。
それにしても、このクルマは2014年のコンセプトカー「クリッパー」と作風が違う。広報担当者に聞くと、2013年12月にアウディのデザイン部長からイタルデザイン・ジウジアーロのスタイリングエリア部長に就任したヴォルフガング・エッガー氏の指揮下による最初のコンセプトカーであるためという。ちなみに前作「クリッパー」は、エッガー氏がやってきたときには、仕事はほぼ終了していたらしい。
そのエッガー氏に直接会って、彼の姿勢について話を聞いた。まずイタルデザインで変えてゆくべきことは? と質問すると、
「VWグループにおける、デザインパートナーとしての位置付けを明確にしてゆくことです」という答えが返ってきた。
参考までに、今日のイタルデザイン・ジウジアーロは、VWグループの組織図的にはランボルギーニやドゥカティとともに、アウディのコントロール下に置かれている。
いっぽう、イタルデザインで守りたいことは? との質問には、
「カーデザインの世界で唯一、スケッチから車両完成まで一貫して自社内でできる高度な能力と、技術水準です」と即座に語った。
それでふと思い出したのは「BMW M1」である。1970年代末、当時のイタルデザインがボディーアッセンブリーの一端を担った。
VWグループの中で、再びイタルデザイン・ジウジアーロが、少量生産高級モデルの組み立てを担当することがあるのだろうか?
それに対して、エッガー氏は「それはありません。私たちのビジネスではありませんから」と否定した。
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トリノのアメリカ人
一方で、かつてトリノの老舗カロッツェリアがブースを連ねていたあたりに、新しい出展社を見つけた。その名を「EDデザイン」という。
コンセプトカーの向こうから派手なアクションで手招きしていたのは、マイケル・ロビンソン氏だった。かつてランチアデザインを導き、その後ベルトーネのデザイン部長を務めた米国出身のデザイナーである。
EDデザインの母体であるEDグループは、イタルデザインに籍を置いていたダヴィデ・ピッツォルノ氏が1998年に設立したエンジニアリング会社である。
2013年、グループはデザインセンターを創設。翌2014年にベルトーネを去ったロビンソン氏が、社長兼ダイレクターに就任した、というわけだった。
「私がデザインをし、ダヴィデがエンジニアリングを担当する。往年のイタルデザインにおけるジョルジェット・ジウジアーロ氏と故アルド・マントヴァーニ氏のコンビのようなものです」とロビンソン氏は語る。
ベルトーネでのキャリアをもつロビンソン氏ゆえ、前述のフォーリ・セリエも手がけるのかと思いきや、EDデザインの場合、一に取引先企業のための仕事、二に研究、余力が生じたところでフォーリ・セリエに挑みたい、と話す。なお、EDグループは、すでに中国および日本市場にも積極的なアプローチを行っている。
次に目の前にある、彼らの作品について聞く。
「トルク(TORQ)」はフルエレクトリックの完全自動運転レーシングカーの提案である。ウィンドウを一切持たず、代わりにパイロットは360度全周囲をカバーするラップアラウンドモニターで外界を把握する。
トルクと名付けたのは、4基のモーターで、現在のF1マシン(1000Nm)を上回る1800Nmを発生するというプロジェクトだからだ。ステアリングを持たないレースカーで、どうやってレースをするのか? それに対するEDデザインの答えは「単なるクルマのアーキテクチャーだけでなく、人とクルマの関わり方のイノベーション」だ。明確な答えを今後2年かけて模索するという。
ロビンソン氏は筆者に「かつて6輪のフォーミュラカーがあったのを覚えているでしょう? 20世紀初頭から1970年代まで、レースカーのレギュレーションは、もっと自由なものでした。私たちは、この世界に再び変革の可能性を持ち込みたいのです」と熱く語る。
そこに、ふらりとやってきたのは、クリス・バングル氏だった。
フィアットで「クーペ・フィアット」などを手がけたのち、BMWに移籍。やがてロールス・ロイス、MINIを含むグループデザイン全体を率いた彼は、2009年に同社を退社した。現在はトリノ郊外を拠点に、デザインコンサルタントとマネジメントだけでなく、後進の育成にも積極的に取り組んでいる。
かくして、その昔カーデザインの都に憧れてイタリアの土を踏み、今や最も輝く「トリノのアメリカ人」になった2名がそろったところで撮影したのが、本ページの写真である。
もはやトリノには、大メーカーの受託生産を行えるようなカロッツェリアはない。しかし、そのあふれるアイデアと人材の豊かさから、間違いなく永遠にカーデザインの都であり続けるであろう。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA/Mari OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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