ポルシェ911 GT3(RR/7AT)
「どこでもニュル」な911 2015.04.16 試乗記 フラットシックスが直噴化され、PDKやリアホイールステア機構が採用されるなど、メカニズム的に大きな飛躍を遂げた現行「911 GT3」。あのサーキット直系のヒリヒリするようなGT3らしさは、どう再定義されたのだろうか。MT廃止もやむなし
991世代の新型GT3は、いつものwebCGパーキングに止められなかった。ペタペタに低い車高が、車道からの段差をクリアできそうになかったからだ。やればできたかもしれないが、1900万円オーバーのクルマでそんな冒険ははばかられた。編集部Tさんに「パンダ」で送ってもらい、数km離れたコインパーキングへ行く。
白日の下で見る真っ赤なGT3は、やはりサーキットの狼である。センターロックの20インチ鍛造ホイールからは巨大なブレーキキャリパーがのぞく。フロントの低いリップスポイラーも、取って付けたようなリアウイングも、ただごとではない迫力だ。ただ、その空力武装は、前日まる一日、「BMW i8」と過ごしていた筆者の目には、正直、“竹ヤリ出っ歯”のように見えた。
左側の運転席に乗り込むと、中はフツーである。センターパネルにはPDKのセレクターが生えている。これまでのレーシング911ユニットとは完全に決別した直噴3.8リッターフラットシックスや、新たな後輪ステア機構などとともに、新型GT3の大きなニュースはPDKの採用だ。GT3もついに2ペダルか! というノスタルジアもあるだろうが、ラップタイム至上主義者なら、MTが落とされたことに異議を唱える人はいないはずだ。どんなポルシェも、スピードでPDKをしのぐMTモデルはないのだから。
ニュル7分25秒の“予感”がそこかしこに
混んだ都内を走りだしても、新型GT3はやはりサーキットの狼である。
現行のどの911よりステアリングは重い。シフトパドルの引きも重い、というか硬い。乗り心地も硬い。手動のスライド機構しかないシートの座面は思いのほか柔らかめで、路面からの突き上げを丸めてくれる。ただ、筆者にはポジションが低すぎて、塹壕(ざんごう)から外を見ているようである。マイカーにするなら、オプションの電動調整機構付きシートを選びたい。
カレラS用の直噴3.8リッターユニットにGT3専用チューンを施したエンジンは、450ps。いわゆるハンス・メツガー・ユニットの最終世代になった先代GT3を15psしのぎ、0-100km/hは4.1秒から3.5秒へと大幅に向上した。ニュルブルクリンク旧コースでは15秒短縮の7分25秒をマークしたとされる。
そんな動力性能を昼ひなかの都心で味わうことはできないが、十分すぎるほどの“予感”を与えてくれるのがGT3の真骨頂だ。リッター当たり125psに達するハイチューンのせいか、快適性よりも速さを優先させたPDKのせいか、エンジンや駆動系はときにガチャガチャ、ときにワサワサしたメカノイズを隠そうとしない。アイドリングストップ機構はないから、そうした機械の存在感が絶えることはない。リアタイヤの拾った砂や細かい石がホイールハウス内でチリチリはぜる、その音が低速域では耳に届く。遮音対策もフツーの911ほど手厚くない。
速く、しかも芸術的でもある
翌朝、まだ暗いうちにスタートして、GT3体験を続ける。
混んだ都内だと、正直あまりいいところはなかったが、ちょっとでもドライビングフリーダムが味わえるステージへ出ると、GT3の印象は激変する。
この3.8リッター自然吸気ユニットは9000rpmまで回る。7段PDKをホールドのMTモードで使うと、1速で早くも79km/hに達する。試しに一度、回しきったら、無口になった。
なんて言うと、人を疎外するパワフルなだけのエンジンみたいだが、そうではない。この特製フラットシックスは音がイイ。シフトアップしてストンと回転が落ちた時の音質の変化もカッコイイ。シフトアップが官能的なのだ。思い切り走らせると、パワーや速さだけでなく、アーティスティックポイントも高いエンジンである。
スリリングな操縦性を予想したが、ボクのウデと公道の組み合わせでは肩すかしを食らうほどセーフである。テールがズルッときても、すぐに自ら勝手に安定を取り戻して、豪快なトラクションを回復する。
ニュルブルクリンクのラップタイム更新に寄与したであろうと思われる後輪操舵(そうだ)機構も、実感としてはまったくわからなかった。幅2cmのタイヤを履くロードバイク(自転車)ならいざ知らず、幅30cm以上もある極太タイヤが1.5度角度を変えたって、わかんないだろうと思った通りだった。
“GT3性”は守られた
「ポルシェ911 GT3は、一般道のみでなくレース・サーキットでも並外れた性能を発揮するよう開発されたスポーツ・カーです。開発段階でスポーツ性と快適性との間で譲歩が必要となった場合、スポーツ性を重視して設計されています」(原文のまま)
分厚い専用オーナーズマニュアルの冒頭には開発コンセプトがそう明記されている。実に見事な説明文だと思う。なぜなら、乗ってみると、まさにGT3はそういうクルマだから。
二者択一を迫られたら、快適性よりもスポーツ性をとる。重きはまずスポーツ性に置く。そうしてつくられた結果が、フツーの911では味わえない「どこでもニュル」な個性である。2ペダルの新型に切り替わっても、その“GT3性”を失わなかったのはあっぱれだ。
と思ったら、これよりもっとスゴイ「GT3 RS」も出た。GT3って、そもそも空冷時代の「カレラRS」の後継じゃなかったっけ。それがこんどはGT3でRSですか。GT3よ、どこまで行くんだあ。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
ポルシェ911 GT3
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1870×1270mm
ホイールベース:2455mm
車重:1450kg
駆動方式:RR
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:475ps(350kW)/8250rpm
最大トルク:44.9kgm(440Nm)/6250rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR20 103Y(ミシュラン・パイロットスポーツカップ2)
燃費:7.2km/リッター(JC08モード)
価格:1912万円/テスト車=2201万7000円
オプション装備:LEDヘッドライト(PDLS付き)(51万5000円)/ポルシェ・セラミックコンポジットブレーキ(PCCB)(166万8000円)/スポーツ・バケットシート(60万3000円)/アルミニウムペダル(9万1000円)/フロアマット(2万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1万1519km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:388.8km
使用燃料:57.5リッター
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)/6.9km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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