ランドローバー・ディスカバリー スポーツSE(4WD/9AT)
どんどん垢抜けていく 2015.04.23 試乗記 車名は「ディスカバリー」で、プラットフォームは「イヴォーク」と共通、そしてボディーサイズは「フリーランダー2」に近い。しかして、その実体は? ランドローバーの新しいSUV「ディスカバリー スポーツ」、そのベーシックグレード「SE」に試乗した。ディスカバリーの弟分? フリーランダー2の後継?
ランドローバーにまたカッコいい新顔が加わった。ディスカバリー スポーツである。ただし、そのネーミングとポジショニングがちょっと紛らわしいのでまずは簡単に解説する。
もともとディスカバリーは、今から25年前に「ディフェンダー」と「レンジローバー」の2車種しかなかったランドローバーのラインナップに加えられた第3のモデル。レンジローバーほど豪華ではないが、ディフェンダー(この名前もディスカバリーが登場したことによって区別するために生まれた)ほど硬派のプロユースモデルではないという位置づけで、ランドローバーの顧客層を広げることに貢献した立役者である。
一時は300万円を切る価格で日本の輸入車業界を驚かせたこともあったし、ホンダが「クロスロード」という名前で国内販売していたこともあった。モデルチェンジするたびに洗練されて豪華になってきたが、それでもレンジローバーに比べればずっと廉価でボディーサイズも小さいおかげで、“ディスコ”というあだ名で呼ぶクロスカントリー愛好家の間では根強い人気を誇っている。
現行モデルは3世代目のディスカバリー3のマイナーチェンジ版(ディスカバリー4と呼ぶこともある)で、日本仕様は3リッターV6スーパーチャージャーと8ATを搭載、本格的なオフロード走行性能はもちろん、「これならレンジじゃなくても」と思わせる快適なオンロード性能を併せ持つ本格派のSUVである。
そんなディスカバリーに“スポーツ”と付けば当然その弟分と思いがちだが、実際には「レンジローバー イヴォーク」との共通点が多く、またランドローバーで最もコンパクトなエントリーモデルである現行「フリーランダー2」が間もなく生産終了することが発表されていることもあり、メーカー側はそうは認めていないものの、事実上フリーランダー2の後継モデルと目されている。
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イヴォーク・ベースながら7座もあり
とはいえ、フリーランダー2と比べると、確かにディスカバリー スポーツのボディーサイズはひとまわり大きい。そのディメンションは全長×全幅×全高=4610×1895×1725mm、ホイールベースは2740mmというもの。フリーランダー2のその名も「ファイナル・エディション」は4515×1910×1765mm、ホイールベースはイヴォークと同じ2660mmであり、いっぽう兄貴分に当たる現行ディスカバリー3は4850×1920×1890mm、ホイールベース2885mmとなる。
ディスカバリーよりは全長が200mm以上短いボディーではあるが、イヴォークに比べれば250mm長く、背が高いせいもあってルーミーだ。またディスカバリーの特徴のひとつである3列7人乗り仕様も設定されている。7座仕様はSEの場合33万7000円のオプションとなるが、使わない時は倒せばピタリと床下に収まり、フラットな荷室フロアが現れるのはさすがである。ただしもちろんこのサイズだから、3列目シートは緊急用という扱いで、メーカー側も13歳以下の子供向けを想定しているという。
イヴォークをベースにしているものの、ディスカバリー スポーツは新しいリア・マルチリンクサスペンションを含めてボディー後半部を仕立て直しているが、それは格納式3列目シートを実現するためにも必要だったというわけだ。ちなみに7人乗りはスペースセーバーのスペアタイヤだが、5座仕様はフロア下に標準サイズのスペアが余裕で収まっている。
ちょっとオンロード寄り
ディスカバリー スポーツのパワーユニットは4気筒2リッター直噴ガソリンターボと同2.2リッターディーゼルターボが設定されているが、日本向けは今のところイヴォークと同様、240ps(177kW)/5500rpmと34.7kgm(340Nm)/1750pmを生み出す2リッターガソリンターボだけ、トランスミッションも同じく最新の9段ATとなる。そのおかげで1920kgという2トン近い車重(7人乗りは70kg増し)をまったく苦にしない。もっとも、狭いワインディングロードを積極的に飛ばす場合などでは、ターボラグというよりDレンジでのキックダウンの反応がちょっとだけ鈍い感じでまだるっこしい。車重を考えれば敏しょうと言ってもいいレベルだが、そんな時はSレンジを選ぶか、シフトパドルを使えばわずかなじれったさも感じないで済むはずだ。
オンロードでは良い意味で鷹揚(おうよう)なディスカバリーとは異なり、十分に軽快で扱いやすく乗り心地もフラットでイヴォークとの共通性を感じさせる。さらに可変ダンパー(マグネライド)付きアダプティブ・ダイナミクスもオプションで選択可能だ。
その分、オフロード性能は若干簡略化されているようで、自慢のテレインレスポンスはディスカバリー同様もはやダイヤルではなく、空調操作ダイヤル下の小さなスイッチを押して選択する。ドライブプログラムもノーマルを含めて4種類(岩場モードなし)と、よりオンロード寄りである。通常ならATセレクターレバーが生えるセンターコンソールにはジャガーのような変速ダイヤルのみというシンプルさ、その整理整頓ぶりは良しとしても、ランドローバーであるからには、駆動モードの切り替えも即座に操作できるようにすべきではないか、と昔のランドローバーを知るオジサンには感じられるのだが、この辺も常時使わないものと割り切っていることがうかがえる。
なおさらディーゼルが欲しい
とは言ってもランドローバーであるからには、例えば渡河水深は600mmとフリーランダー2より100mm増し、さらに渡れるかどうかをセンサーが警告するウェイドセンシングなる機能も備わっている。ちなみにディスカバリー3は700mm、新型レンジローバーは900mmである。
私もかつてアフリカやアイスランドで深い水を渡ったことがあるが、ランドローバーのオフロードスペシャリストに水がボンネットを越えないように速度に注意して進めと教わった。ただし、そういう場合は万一のためにあらかじめトーワイヤーを水面上に出しておいたり、流れや川底の状態をチェックするという事前の準備は怠りない。
ニュースなどで水が溢(あふ)れた路上に立ち往生している車を時折見かけるので念のために付け加えておくと、形だけSUV風の普通の車はタイヤの半分以上の水深があったら基本的に進入してはいけない。ランドローバーはそういう風に作られているのである。
ディスカバリー スポーツは、レンジローバーの派生モデルでよりオンロードでのダイナミック性能を重視した弟分であるレンジローバー スポーツと同じような位置関係になる。
価格を見ても3グレードの中で一番ベーシックなSEでも492万円、オプション満載だったこの試乗車は650万円を超えている。フリーランダー2はベーシックな標準型で410万円、装備が充実した特別仕様のファイナル・エディションでも457万6000円だから、それだけでも直接的な後継モデルとは言い難いことがわかる。現在のプレミアムSUV市場を考えれば、いずれよりコンパクトなモデルを投入することになるだろう。
それにつけても思うのは、この車に最新のディーゼルターボユニットが積まれていれば、ということだ。そうすればランドローバーの新顔の魅力がいっそう際立つはずである。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
ランドローバー・ディスカバリー スポーツSE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4610×1895×1725mm
ホイールベース:2740mm
車重:1940kg*
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:240ps(177kW)/5500rpm
最大トルク:34.7kgm(340Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)235/55R19 105V M+S/(後)235/55R19 105V M+S(コンチネンタル・コンチクロスコンタクトLXスポーツ)
燃費:10.3km/リッター(JC08モード)
価格:492万円/テスト車=661万7000円
オプション装備:メタリックペイント(8万2000円)/アドバンスド・パークアシスト(17万2000円)/キーレスエントリー(9万8000円)/パワーテールゲート(7万7000円)/左右独立式・オートエアコンディショナー(13万9000円)/電動調整式フロント・シート(8×8)(7万6000円)/サンブラインド付き電動パノラミック・サンルーフ(固定式)(16万5000円)/メリディアン・サラウンド・サウンドシステム(825W、17スピーカー)(23万円)/19インチ・スタイル521アロイホイール(12万3000円)/コールドクライメイトパック(17万2000円)/ドライバーアシスト・プラスパック(13万8000円)/スタイルパック1(22万5000円)
*=パノラミック・サンルーフ付きのため標準車(1920kg)の20kg増しとなる。
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1278km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
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