ランドローバー・ディスカバリー スポーツHSEラグジュアリー(4WD/9AT)
その先を目指す人へ 2015.06.23 試乗記 ランドローバーの新型SUV「ディスカバリー スポーツ」に試乗。街乗り性能が洗練されても、オフロードの走破性を決して忘れないランドローバー。意外と骨っぽい“ディスコ”だが、だからこそ始まる恋(?)だってあるのだ。比べるのは愚と知りつつ……
これは冒険家のクルマである。温かい羽毛ベッドを拒否し、極寒の地でテントを張ってシュラフで寝るような男の日常生活道具。フツウの乗用車ではない、ということを前提に語らなければならない。
正直に申し上げて、第一印象は最悪だった。ラブコメの始まりのように、『なんだ、コイツ?』と思った。ステアリングフィールにデリカシィっつーもんがない。電動パワーアシストは路面のフィールを伝えない。乗り心地は硬すぎ、2リッター直噴4気筒ターボは低速トルクがスカスカ。カッコは『スター・ウォーズ』のストーム・トルーパーみたいでいいんだけどなぁ……。
直前に世界で最も贅沢(ぜいたく)な一台である「メルセデス・マイバッハS600」に乗っていたこともある。ひとは、否、私は直前に親しんでいたクルマに影響されやすい。6リッターV12ツインターボのビーフステーキィなトルク、セミアニリンレザーに囲まれた極上空間と来たら、「柔肌の熱き血潮に触れまくり」という感じ。
2600万円の超高級車と、「ラグジュアリー」と名のつく高級版とはいえ、692万円のコンパクトSUVとを比べるのは、2600万円と692万円のダイヤモンドを比べて、こっちは小さいわねぇ、と呟(つぶや)くようなもので、愚なことである。
すがすがしくも若々しい
『なんだ、コイツ?』と思ったまま、試乗を終えていたら、恋の予感すら抱かなかったろう。もうちょっとコイツのことを知りたい、という好奇心が幸いにもいずこから湧いてきた。この日は一般道を走って家まで乗って帰り、翌日、主に首都高速を中心に試乗した。そこで、ディスカバリー スポーツHSEラグジュアリーは最良の面を見せた。青竹を割ったようなすがすがしくも若々しい走りっぷり。何に似ているかといえば、「メルセデス・ベンツA180」の名前が浮かんだ。
2リッター直噴ターボは、カタログ上、最高出力240psを5500rpmで、最大トルク34.7kgm(340Nm)を1750rpmで発生する。自然吸気だと3.5リッター並みの大トルクをかような低回転から!
う~む。エンジン単体ではそうなのかもしれない。でも、車重が1940kgと意外にある。全長4610mmというサイズの割に重い。同クラスの「アウディQ5」も1910kgに達するから、SUVというのは重いものではある。
にしても、この重さが燃費も勘案した高効率ターボチャージャーの効かせ具合とのマッチングにおいて、エンジンのメリハリ感をいや増している。私の感覚だと、ターボが効き始める前の極低速トルクのか細さと効き始めてからの力強さに、北海道と沖縄ぐらいの、何の差かということはさておき、差がある。その差が3000rpmぐらい、日本列島でいえば、関ヶ原あたりで一気にパッと変わる。100km/h巡航はDレンジだと2000rpmちょっと。エコモードだと1800rpm近辺にまで下がる。
ちなみにエコモードだと、アクセルを踏んでもなかなか反応しない。だって、ガソリンを節約しているから。エコボタンを解除すると、9段オートマチックがほとんどショックを伝えることなく瞬時にギアを落とす。タコメーターの針が3000を超えると、右足に対するレスポンスががぜんよくなる。5000を超えると、快活な、ジャガーもかくやのサウンドを発する。
なるほどこれは「スポーツ」だ
積極的にアクセルを踏み込むタイプのドライバーにとって、ディスカバリー スポーツは大いなる歓びを与えてくれる。34.7kgmの大トルクの発射準備さえ整えば、2トン近い車重を軽々と加速させる。町中では不満だったステアリングは、速度が増すにつれて実は極めて機敏かつ正確であることに気づく。「スポーツ」を名乗るゆえんがふに落ちる。
高速道路というのはそもそも路面が一般道より平滑である。ということもあって、硬めの乗り心地もまったく気にならなくなる。中速コーナーでは、場合によってはロールする。バネは硬めだけれど、足まわりのストローク量は十分確保されているのだろう。だって、これはランドローバーである。オフロードを走破する実力がなければ、グリーンの楕円(だえん)バッジはつけてもらえないはずだ。
そうなのである。私はこのクルマのことを半分も理解していなかった、ということにハタと気づいた。あくまでオンロードで、フツウの使い方をしてみただけなのだ。想像してみよう、ランドローバー・ディスカバリー スポーツにアウトドア用品を積み込み、海や山や高原に行く自分の姿を。目的地に向かって積極的にアクセルを踏み込んだときの爽快さを。室内はイギリス車らしく静謐(せいひつ)が保たれている。これも、積極的に選ぶ理由のひとつになる。
理解できるかどうか
なお、ランドローバー・ディスカバリー スポーツは、「ディスカバリー」と名乗っているけれど、現行ディスカバリーとはメカニズム上、縁もゆかりもない。いわゆるプラットフォームは「レンジローバー イヴォーク」を下敷きにしている。ということは、エンジン横置きベースの4WDを持つ「ランドローバー・フリーランダー2」を下敷きにしているということである。おかげで、「ランクルプラド」より10cm短いボディーに7人乗り3列シート(「5+2シート」は全グレードにオプション)を可能にした。そのためにリアに新しいマルチリンクサスペンションを採用してもいる。
日本仕様のパワートレインは2リッター直噴ターボ+9段ATのみで、4WDはオンデマンド式だ。装備の違いによって3つのグレードが設けられている。492万円の「SE」、582万円の「HSE」、そして今回試乗した692万円の「HSEラグジュアリー」である。自動緊急ブレーキなど、最新ドライバー支援システムの用意もある。クラス初の歩行者用エアバッグも話題だ。
ランドローバー・ディスカバリー スポーツは比較的ファミリーカー寄り、女性寄りのプロダクトであるとはいえ、基本はある種の好き者のためのSUVなのだ。しつこいようだけれど、ランドローバーは万人向けではない。そこに山があるから登る、というようなタイプの男の世界にスポッとハマるギア(道具)だ。『オレだけがコイツを理解してやれる』と思うほどにいとおしくなる。そのとき、あなたは恋に落ちている。
(文=今尾直樹/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
ランドローバー・ディスカバリー スポーツHSEラグジュアリー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4610×1895×1725mm
ホイールベース:2740mm
車重:1940kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:240ps(177kW)/5500rpm
最大トルク:34.7kgm(340Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)245/45R20 99V/(後)245/45R20 99V(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ)
燃費:10.3km/リッター(JC08モード)
価格:692万円/テスト車=755万4000円
オプション装備:コントラスト・ルーフ<サントリーニ・ブラック>(7万7000円)/ラゲッジスペース・レール(2万3000円)/シート・クーラー&ヒーター<フロント>およびリアシートヒーター(5万7000円)/エンターテインメントパック(35万4000円)/20インチ・スタイル511アロイホイール(12万3000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:6296km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:206.0km
使用燃料:32.9リッター
参考燃費:6.3km/リッター(満タン法)/7.2km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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