第396回:上海ショー2015(前編) これが中国式の最高級SUVだ!
2015.05.01 マッキナ あらモーダ!一生帰れないかと思った
カースコープでもお伝えしたとおり、上海モーターショー2015は、西郊に建設された新メッセ「国家会展中心」に会場を移して開催された。40万平方メートルという、その会場面積はあまりに巨大だった。東京ドームのグラウンド部分約30個分といえば、その大きさを想像していただけるだろう。
会場直結の地下鉄駅があるものの、そこからお目当てのパビリオンにたどり着くだけでひと苦労だ。帰りも同様で、初日などは迷って一生帰れないかと思った。翌日会ったイタリア人は「次回の上海ショーでは、歩き回るのにGPSが必要だな」と笑っていた。
あふれる中国テイスト
それでも、長年のモーターショー巡りで身についた動物的勘なのか、見たいブランドのパビリオンに自然とたどり着くのが不思議である。
その見たいブランドのひとつは「クオロス」だ。以前も紹介したが、奇瑞汽車とイスラエル系投資企業によって設立されたクオロスオートモーティブ社が、2013年に販売を開始した上海の新興プレミアムブランドである。デザインチームを率いるのは、かつてBMW MINIを成功に導いたことで知られるゲルト・ヒルデブラントだ。
今回彼らが展示したのは「クオロス2 SUV PHEVコンセプト」と名付けられたシティーSUVである。エンジニアのアレッサンドロ・タッローネ氏によると、ホイールベースは2600mmで、既に発売されている同社製セダン「クオロス3」より90mm短い。「MINIカントリーマン」とほぼ同じだ。クオロスにとっては、初のBセグメントである。
プラグインハイブリッドの4WDを想定したモックアップを前に、タッローネ氏は、「エクステリアは同社のミュンヘンスタジオで、インテリアは上海スタジオでデザインし、8週間で仕上げた」と、欧州と中国の連携を誇らしげに振り返った。
面白いのは、ディテールにちりばめられた中国テイストだ。国旗「五星紅旗」をイメージさせる赤と黄色い星がアクセントとして配置されているほか、篆刻(てんこく)を模したロゴも貼られている。最高なのはガラスルーフだ。中国風の格子がはめ込まれている。
コンセプトカーの透明ルーフにおける遊びといえば、2013年のパリサロンで展示されたルノーのコンセプトカー「イニシアル・パリ」に、パリの市街地図が刻まれていたのを思い出す。だが、それを通した光が室内にエキゾチックな影を落とす点では、今回のクオロスによるコンセプトカーのほうが、より演出効果が高い。
プレスリリースには、「流行に敏感でクリエイティブな若い中国人世代にアピールする」とある。自国のトラディションをポップ感覚として遊ぶところまで、この国の自動車カルチャーが成長しているのか、それとも時期尚早か。同様のテイストをもつ次回作が出るかがその結論となろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
紅旗もハイテク化
ところで中国ショーといえば、忘れてはいけないのが、2014年の北京モーターショーリポートで詳しく紹介した、中国第一汽車が製造する「紅旗」である。
今回ブースの最前線で迎えてくれたのは、2リッター直列4気筒エンジンとモーターを組み合わせたプラグインハイブリッド車(PHV)だった。設定されるのは、紅旗ラインナップにおける普及モデル「H7」である。
H7自体は、合弁会社「一汽トヨタ」のご縁で「トヨタ・クラウンマジェスタ」のプラットフォームを用いているが、プラグインハイブリッドシステムは独自のものとされている。
この「紅旗H7 PHEV」は2012年の北京ショーで参考出品されたのが最初だが、ここにきて中国各都市の環境保護政策が本格化されたのを受けて、いよいよメーカーが本腰を入れ始めたというのが事実だろう。また昨年あたりから「BLUE WAY」というサブネームがつけられた。
さらにH7には、同じく2リッター直列4気筒エンジンと組み合わせた四駆仕様も展示されていた。またブースの一角には、2013年のフランクフルトショーでメルセデス・ベンツが設置していたのに似た実車シミュレーターを用いて、紅旗流インテリジェントドライブのデモンストレーションを行っていた。中国を代表する伝統的高級車もハイテク化が進んでいる。
ロールス・ロイス&ベントレーよりも一足先に?
しかしながら今回、紅旗における最大の話題は、ずばりSUV仕様であろう。
過去を振り返れば、実は2008年の北京ショーでプロトタイプを展示している。だが、今回「LS5」と名付けられた展示車は、より伝統的な紅旗のデザインを取り入れて、重みのあるムードに仕上がっている。一部中国メディアの報道によると、ホイールベースは3mに達し、搭載される4リッターエンジンは、最高出力280kW(380ps)を発生する。
前回の北京でもそうだったが、プレスデイといえど、会場で壇上の展示車に近づけるのは1回に1人のみだ。アップルウオッチ並みである。そのグリルは遠目に往年の日産製パイクカー「ラシーン」をほうふつとさせるが、よく見ると、細かい彫りが施されている。同様のパターンは、アルミホイールにも反復されている。芸が細かい。
この紅旗LS5、かねて話題のベントレーやロールス・ロイスによるSUV計画が、中国第一汽車の開発陣を刺激したことは間違いなかろう。時折、シボレー製SUV「サバーバン」を公用車として用いるオバマ米大統領のごとく、習近平国家主席がこの最高級SUVで現れる日が近いのではないか。それもベントレーやロールス・ロイスのSUVよりも早かったら面白いのに……と今からひそかに期待を抱いている紅旗ファンのボクである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第944回:こんな自動車生活は最後かもしれない ―ある修理工場で考えたこと― 2026.1.15 いつもお世話になっている“街のクルマ屋さん”で、「シトロエン・メアリ」をさかなにクルマ談議に花が咲く。そんな生活を楽しめるのも、今が最後かもしれない。クルマを取り巻く環境の変化に感じた一抹の寂しさを、イタリア在住の大矢アキオが語る。
-
第943回:スバルとマツダ、イタリアでの意外なステータス感 2026.1.8 日本では、数ある自動車メーカーのひとつといった感覚のスバルとマツダだが、実はイタリアでは、根強いファンを抱える“ひとつ上のブランド”となっていた! 現地在住の大矢アキオが、イタリアにおけるスバルとマツダのブランド力を語る。
-
第942回:「デメオ劇場」は続いていた! 前ルノーCEOの功績と近況 2025.12.25 長年にわたり欧州の自動車メーカーで辣腕(らつわん)を振るい、2025年9月に高級ブランドグループのCEOに転身したルカ・デメオ氏。読者諸氏のあいだでも親しまれていたであろう重鎮の近況を、ルノー時代の功績とともに、欧州在住の大矢アキオ氏が解説する。
-
第941回:イタルデザインが米企業の傘下に! トリノ激動の一年を振り返る 2025.12.18 デザイン開発会社のイタルデザインが、米IT企業の傘下に! 歴史ある企業やブランドの売却・買収に、フィアットによるミラフィオーリの改修開始と、2025年も大いに揺れ動いたトリノ。“自動車の街”の今と未来を、イタリア在住の大矢アキオが語る。
-
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達― 2025.12.11 イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。
