第297回:アジア担当に聞く フェラーリにとっての日本、そしてアジア市場とは?
2015.05.21 エディターから一言 拡大 |
フェラーリ・ジャパンのリノ・デパオリ社長は、自身の新婚旅行先として日本を選んだほどの日本好きだ。日本に着任する前には中国市場を担当した経験もある。そして、今年4月に就任したばかりのフェラーリ極東エリア統括のディーター・クネヒテル氏も、以前は日本に住んでいたこともあるだけに、日本やアジアへの造詣は深い。
そんな“アジア通”の2人が考える日本とアジア市場の現在、そして今後について、「フェラーリ488GTB」の発表を機にうかがった。
本題に入る前に、フェラーリファンにとっては衝撃的だった半年前(2014年9月)のニュース、ルカ・モンテゼーモロ氏辞任以降のフェラーリの話から。
フェラーリの内情
―― 昨年秋にモンテゼーモロ会長が辞任しました。それから半年たって、フェラーリ社内では何か変化はありましたか。
デパオリ氏:創立者のエンツォ・フェラーリの時代からの長い歴史があります。その間、根本的な企業方針や文化というものは変わっていません。また、日本のみならず世界市場への取り組みについても、サービス、商品、プロダクトそれぞれの面でも大きな変更はありません。
―― つまり、フェラーリというスーパースポーツカーを作る会社は(トップが変わっても)変わらないということですね。そうすると、モンテゼーモロさんが、年間4000台程度から年数をかけて7000台を超えるくらいまでに成長させた結果、やはり7000台くらいがちょうどいいバランスだと言っていました。それについては今後も全体の数を7000台前後に保つということも変わらないのでしょうか。
デパオリ氏:フェラーリのエクスクルーシブ性を維持するという考えに変わりはありません。常にフェラーリはニーズよりも1台少ない台数を供給するということが根幹にありますので、そこは変わらないのです。
もちろん市場によっては多少の変動があったりもしますし、供給できる生産台数も変化することはあります。ただし、そこはグローバルの市場間での台数調整でクリアできる問題です。
いずれにせよ、基本的にフェラーリのブランドとしてのバリュー、価値というものを維持していきますので、エクスクルーシブ性を保っていくという戦略が変わるということはないのです。
日本市場の特徴と重要性
―― クネヒテルさんは4月に極東エリア統括として就任されました。そのアジア市場では、中国市場の減速感が見え始めているのに対し、インド市場は上向きです。そこで、今のアジア市場をどうご覧になりますか。
クネヒテル氏:実は私は、これまで約12年間、アジアでクルマ業界に携わってきました。アジア全体で見たときに特徴的なのは、それぞれの市場に非常に特徴があるということです。それはビジネスのアプローチの面、文化的側面、経済状況からもそう感じます。例えば、日本と中国をとってもかなり大きな違いがあると思います。
また、ブランド自体の知名度、認知度もそれぞれかなり異なりますので、“カラフル”な環境です。従って、ビジネストレンドを常にきちんと把握することが必要だと感じています。
日本では、過去数十年間を振り返ってみても、モータースポーツの文化は非常に根強いものがありますし、また、ハイエンドな商品への関心と理解は非常に高い市場です。つまり、日本市場の成熟ぶりは非常に明確だといえるでしょう。
では、フェラーリセグメントとして見るとどうか。安定している市場だといえます。アジアの他の国の市場と比べると、他のアジアの市場の方が変動が大きいのです。つまり、日本と比べたときには、日本ほどベースとなる市場の強さというものがまだないということです。従って、日本はフェラーリにとって、極東エリアでは非常に重要な位置づけなのです。
新しい顧客層に訴求するために
―― おっしゃる通り日本市場は成熟しており、フェラーリというブランドはとても良いイメージで捉えられていると思います。しかし日本の社会構造は高齢化が進んでいるのが現状です。そこで、これまでフェラーリに乗っていなかった新規顧客を獲得するために、どのようなことを考えていますか。
デパオリ氏:世界でも高齢化という現象はありますし、日本は特に社会的にも懸念されています。われわれが新しいユーザーを獲得していくうえで、重要に考えているのは、デジタル化されている情報の取り扱いです。若い世代の方たちはデジタルメディアを通して情報収集することが多いのです。そこにどのようにしてプロダクトを発信していけるかがわれわれにとって非常に重要だと思います。
フェラーリ自体はエモーショナルでコンテンツも非常に多いブランドですから、伝えられることはたくさんあります。あとは伝え方が今後の課題であると認識しています。
今回発表した488GTBは、「308GTB」から始まった40年の歴史を経たうえで生まれた、最新モデルです。このプロダクトレンジが非常に幅広く、かつ長きにわたって展開されていることも、われわれの取り組みとして伝えられることだと思います。
さらに、フェラーリオーナーに向けてさまざまなフェラーリを提供できるようにと、GTと同時に、レース、モータースポーツ寄りの車両も展開しています。いかに幅広いユーザーに満足ができるプロダクトを提供できているか。そこを通してフェラーリのDNAである、デザイン、パッション、パフォーマンス、サウンドをどのように情報発信し、提供できるかということがわれわれにとって非常に重要な課題になるのです。
もちろん新規のユーザーだけではなく、従来のユーザーもわれわれとしてはきちんと大切にお付き合いしていきたいと思っています。
フェラーリにとってアジア市場とは
―― 日本でのフェラーリの状況は分かりました。では、アジア全体で見ると、フェラーリは、どこの国でも誰もが知っているブランドに既になっているのでしょうか。
クネヒテル氏:フェラーリというブランド自体の知名度は非常に高いです。これは日本だけではなく、いずれの国でも共通です。例えばオーストラリアをとってみてもフェラーリのヘリテージというものは大切にされていることがいえると思います。
しかし、東南アジアの新興国においては、ブランド自体の知名度は高いのですが、ユーザーと実際に触れ合う機会が、まだまだ少ない。そこで、若い世代の方が、実際にフェラーリに座って、乗って、体験してもらうというチャンスをもっと作れるようにしたいと思っています。
―― では、主に新興国で具体的に行っている取り組みで、日本とは全く違うような具体的な例があれば教えてください。
クネヒテル氏:戦略としてはもう少し基本的なところからスタートする必要があると思っています。中国や東南アジアのエリアでは、すぐに携帯から情報が取り出せて、いろいろな情報を比較することができます。そのソーシャルメディアのポテンシャルをいかにうまく活用して情報発信をしてくことが極めて重要です。
日本の場合は、プロダクトやブランドへの知識が高いので、実はそういったニーズはさほど多くないのです。その理由は、フェラーリを買うお客さまは、既にそのフェラーリのことを知っており、パフォーマンスのこともよくご存じです。さらには過去のモデルがどうだったかということも知ったうえで、新しいモデルを購入される方が多いのです。
それに対して、新興国になると、ブランド自体を買うという感覚はあるのですが、日本のようにブランドへの理解という面はまだまだ浅い部分がありますので、(そうしたコミュニケーションツールを使い)お客さまをトレーニング、教育していくことから始まります。そして、実際に経験してもらうチャンスを作り出していくことがすごく重要なのです。
ブランドへのロイヤルティーの高さでは、日本特有の部分もあります。他の国ではすぐにアストンマーティンやベントレーに買い替えてしまうお客さまも多いのです。そこは日本市場と大きく違うところですね(笑)。
ポルシェからフェラーリへ
―― クネヒテルさんの経歴を教えてください。
クネヒテル氏:オーストリアとフランスの大学を卒業後、キャリアとしてはずっとクルマ業界にどっぷり浸っています。最初の11年間はフランスのルノーやプジョーにおり、そして日産ともかかわってきました。その後の約9年間はポルシェ・ホールディングにて、中国を中心にアジア諸国のマーケットを見ていました。ディーラーネットワークの構築等にも携わってきており、そこでは、BMW、ポルシェ、ベントレーなどのブランドに関わっていました。
私自身はこの経歴でも分かるようにクルマが大好きです。
―― フェラーリに来る前はポルシェにいらしたわけですが、フェラーリとポルシェのカルチャーの違いや、会社としての文化の違いなどはありますか。
クネヒテル氏:ポルシェとフェラーリは、長い歴史があるということでは非常に共通点が多いと思います。それから、ファミリーとして、密にお客さまとの関わりがあるという部分や、モータースポーツへの完璧さを求める点というのも、共通点といえるのではないかと思います。
ただし、フェラーリに関してはF1があるので、ブランドの知名度が世界的に高く、また、ブランドのポジションも高いと思います。
ポルシェは、同じモータースポーツでもF1以外をかなり強化していますので、そこはフェラーリとの違いがあるのかもしれません。
それから現行のプロダクトレンジもポルシェの場合は非常に広いですから、ユーザー層の幅が広い。そういった面でもフェラーリとも差別化されている部分は大きいと思います。
いずれにせよ、フェラーリは本当に情熱的なブランドで、ブランドとしてのパワーが非常に強いと思います。これだけの知名度があるブランドはなかなかないでしょう。ポルシェももちろん知名度はありますので、今後はよりフェラーリのコンペティターとしてグングン成長してくる可能性も秘めていると思います。
乗りやすくなっても、楽しさは忘れない
―― さて、最近フェラーリは運転しやすくなったという声をよく聞きます。今後はもっと、一般の人たちに乗ってもらいたいということがあるのでしょうか。
デパオリ氏:488GTBはすごくいい例だと思います。クルマ自体もすごく運転しやすくなっていますし、いままで蓄積してきたモータースポーツでの経験、例えばXXプログラムや、F1クリエンティーであるとか、フェラーリが今まで培ってきたレース技術を一般のロードカーに採用しているということが大きな特徴です。
もちろん488GTBのパフォーマンスや数値は非常にレベルの高いものですが、最も重要なのは、どれだけ楽しく運転できるかということなのです。お客さまにいかに楽しんでもらえるか。例えばマネッティーノのセッティングを1つ変えるだけでレーシングモードのコンディションが作れるなど、デバイスシステムをお客さまのスキルに合わせてオフにすることも可能なので、スキルの高いドライバーにはサーキットでのドライビングをより楽しんでもらえると思います。
ユーザーのロイヤルティーが高く、成熟しており、フェラーリ本社としても期待値の高い日本市場。その日本をリーダー役として、周辺諸国をけん引していきたいというのが、フェラーリの考えのようだ。
そしてプロダクトにおいては、優れたパフォーマンスをドライバーのスキルに応じて楽しめることが重要だとした。
(まとめ=内田俊一/写真=内田俊一、フェラーリ、フェラーリ・ジャパン、webCG)

内田 俊一
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