スズキ・アルトラパン 開発者インタビュー
大事な判断は女性メンバーと共に 2015.06.30 試乗記 スズキ第一カーライン
チーフエンジニア
課長
河村恭博(かわむら やすひろ)さん
「ガチガチのエンジン屋」(本人談)が、若い女性に人気を博す軽乗用車の開発に挑戦! 3代目となる新型「スズキ・アルトラパン」のチーフエンジニアに、開発の狙いを聞いた。
「なんで私が『ラパン』のチーフエンジニアに?」
――河村さんは、入社から約20年にわたってエンジン開発に携わってこられたそうですね。チーフエンジニアという立場になられて約1年。女性向けの「アルトラパン」(以下、ラパン)を担当することになったときは、どんなお気持ちでしたか?
「なんで私が『ラパン』なんだ?」って思いましたよ(笑)。もう、ガチガチのエンジン屋ですし、ファッションにも疎いですしね。エンジンっていうのは重要な部分ではあるんですが、クルマ全体からすると本当に小さな部品なんですよね。「このクルマはエンジンがいい!」といって買うお客さんも、あまりいないのが現実です。3年前に軽自動車の商品開発チームに来たときは、それこそ(それまでのエンジン開発とは)まったく正反対の世界だと感じました。
でも、人と話すのは結構好きなほうなので、意外と楽しくやらせてもらいました。それに私にファッションセンスがなかったとしても、当然、その専門の責任者が下におりますから、大丈夫なんです。現物を見ていただければ分かりますよね?(笑)
――今回、新型「アルトラパン」を開発するにあたっては、「女性ワーキンググループ」(以下、WG)が活躍したそうですね。
WGは、ラパンに限らず「女性のためのクルマ」を企画するために、市場調査やグループインタビューなどを行う調査チームです。スズキでは5年ほど前からWGが日々集めた情報をストックしておくような体制になりました。今回はラパンのコンセプトづくりにも大きく関わっていますし、デザインやカラー、装備といった部分まで一緒に開発を進めてきました。
以前は、開発の前に調査会社からラパンのための情報を取り、その情報をもとに開発グループがいろんな解釈のなかでコンセプトに当てはめていくという形でものごとを進めていました。ところが、このやり方だと男性陣が咀嚼(そしゃく)することによって、女性メンバーが当初イメージしていたものからズレが生じてしまうのではないか、という不安が出てきました。
そこで今回は、あらゆる決断をする場にWGをはじめとした女性のスタッフに参加してもらって、当初のコンセプトやイメージからズレていないか、開発終了まで彼女たちの意見を強く確認していくことにしたんです。
私の意見がバンバン通っていたら、きっとおかしなクルマになっていたでしょう。結果的に満足のいくクルマにできたのは、いろいろなスタッフの意見を聞こうという体制があったからだと思いますね。
――河村さんに、女性の意見もソフトに受け止める素地(そじ)がおありになるからでは?
全然ソフトじゃないですよっ! 現場では、それはもう悪態つきながら、ギャンギャン言い合ってますよ! ただ、自分が分からない部分については詳しいスタッフに任そうと、そこの線引きだけはしっかりしてきました。分からないのに、分かったふりをするのは一番ダメですよね。私に女心を聞かれたところで、分かるわけないですし(笑)。
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「ラパンマーク」はつつましやかに
――エンブレムをはじめ、車両のあちこちでその存在を主張するウサギ型の「ラパンマーク」。先代モデルは1台につき50カ所もこのマークが入っていたり、またドアの内側にはウサギのフォトフレームが付いていたりと、かなりファンシー度の高い作りでした。ターゲットユーザーは20~30代となっていますが、40代以上のユーザーも気恥ずかしい思いをせずに乗ることができるでしょうか?
たしかに、あのフォトフレームを見たときは「なんじゃコレ?」と思いました(笑)。ただ、先代はこのラパンマークをしっかり認知してもらおうという意図を持って作っていたんですよね。その結果、64万1000台という累計販売台数に結びついたと思っています。
そこで新型では、ある程度このクルマが認知されたという判断から、ラパンマークの数を控え、「隠れラパン」という形でつつましやかに主張することにしました。普段は見えない場所にマークを隠すことで、オーナーさんには所有する喜びを持ってもらえるようにしつつ、40代、50代はもちろん、よりご年配の方にも選んでいただけるよう配慮しています。
――ラパンマーク以外で、年配層に配慮された部分はありますか?
お年を召したお客さまに限った話ではないのですが、女性の意見を聞くと若い方でも皆さんしっかりしていて、「買ったら長く乗りたい」という方が多く、“シンプルであること”をとても重視しているということが分かったんです。
そこで、カラーには幅を持たせながらも、全体ではシンプルなデザインにこだわりました。ベージュ系など落ち着いたトーンのカラーも用意していますので、年配の方や、男性にも乗っていただけるのではないかと思っています。基本的にはシンプルなデザインで、少しかわいいエッセンスも入っているという風なイメージですね。
――インテリアは木目調のテーブルに引き出し式の収納など、すっきりと見せる工夫がされていて、いい雰囲気ですね。特にライトをつけると文字盤が白く浮かびあがるメーターには立体感と奥行きが感じられ、女心をグッとつかまれました!
それを聞いたら、みんな喜びますよ! あれは相当大変だったんです。私に「いつまで開発しているんだよ!」とか言われながらも、スタッフは最後の最後までやっていましたから。スピードメーターは、盤面とガラス面との2層で構成されるのが一般的なんですが、今回は盤面の上に数値を入れたガラス面を1枚挟んで、3層にすることによって数字に立体感を持たせるようにしたんです。さらに盤面は白くキラキラ光るようにしたり、中間のガラスに湾曲をつけたりと、とことんこだわった部分なんですよね。
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走りの味付けで実感、女心は分からない
――「5AGS」(5段オートギアシフト)の味付けも“ラパンセッティング”にしてあるそうですね。「アルト」と比べ、乗り味や走りはどう変化しているのですか?
初めに女性たちの話を聞いたときは、「とにかくスムーズであればいい」といった意見が多かったので、変速のタイミングをゆっくりに、ダルな感じにする方向でセッティングしたんです。ところが、試作車に乗ってもらうと、「ダメですね! こんなに変速に時間がかかるんなら、多少のショックがあってもスパッと短い時間で変速したほうがいいです」と言われたんです。やっぱり女心って分からないですよね(笑)。
結果的には、「これから少しトルク抜けが来ますよ」というイメージを出すために、クラッチの切り方を滑らかにするようチューニングしました。マニュアル車に近い操作感を持つアルトと比べると、変速ショックの角を丸くしたという感じですね。この5AGSなら、女性の皆さんにもご理解いただけるんじゃないかなと思っています。
――最後に、河村さんの所有されているおクルマを教えてください!
ウチは小学生の子供が3人いますので、家族のクルマとしてミニバンの「ランディ」と、妻のクルマとして「ハスラー」を選びました。親バカですが、下が双子の女の子で、超カワイイんですよ! 彼女たちは学校で「ラパン、ラパン」といって、宣伝マンをやってくれています。きっと、私の知らないところで売れていると思いますね(笑)。
(インタビューとまとめ=スーザン史子/写真=荒川正幸)

スーザン史子
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