第22回:これぞ世界に通用する最先端レトロデザインだ!
「スズキ・アルトラパン」に見る日本デザイン辺境進化論(笑)
2015.07.05
小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ
日本発のレトロデザインがまたまた進化?
「日本人には欧米人にはない未完成のモノを愛(め)でる感性があるんです。日光東照宮の“逆柱(さかばしら)”なんかそのいい例でしょう」
不躾オザワ、やっと合点がいった気がしましたぜ。そう、今まで漠然と感じていた日本人のデザイン観に対する疑問にだ。というのも、先日久々に出たキュート系の軽こと3代目「スズキ・アルトラパン」(以下、ラパン)。最初、ふとそのデザインに微妙に引っかかったわけですよ。今までにない独特のユルさに。
思い返せば2002年デビューの初代ラパンは、1990年前後に日本で生まれたいわゆる「レトロデザイン」の馴れの果てで、それがウケて女性を中心に爆発的に支持された。今もラパンのオーナーの約9割は女性だそうで、これはこれで大変オモシロすごいことだと思う。
そもそも“レトロデザイン”というのは、源流をたどると古くは1987年登場の「日産Be-1」に端を発しており、角の取れたユルい古典的フォルムなど、あえて現代に蘇らせた60年代風テイストが支持された。
そして今回の3代目ラパンだが、相変わらずユルいことはユルいし、かわいいことはかわいい。だけど、オザワの目にはなんか違う、正直少し足りないんだよなぁ……と思っていたら、チーフデザイナーの松島久記さんがこっそり耳打ちしてくれたのだ。「今回はいつもと違うアプローチをしているんですよ」と。
目指すは世界に通用するジャパニーズデザイン
「ユーザー調査をしてみたら、お客さまが感じている“レトロ”とわれわれが考えている“レトロ”は少し違うんじゃないかという話になったんです。われわれが考えるレトロはグリルやライトが大きくて、メッキもキラキラですけど、今のユーザーは違う見方をしているのかもしれないと」
確かに、われわれバブル世代やそれ以前の人は、レトロというと「ローバー・ミニ」や昔の「バンテン・プラ・プリンセス」のようなものを短絡的に想像しがちだ。しかし、イマドキの若い女性には予備知識はない。全く違う感性に突き動かされている可能性は多分にある。
「そこで今回は、手作り感や温かみを出すべく、角のR(曲線)をちょっと考えられないくらいに大きくしてみました。本当に鉄板の手たたきでしか出ないくらいの丸さですね。それとあえてグリルやバンパーのバランスを整えてみました。キャビンとボディーの比率もヨーロッパでも通用するようなものにしようと。というのも、今の女性は『かわいいのは好きだけど子供っぽいのは嫌い』という方が多い。あえて言うと、世界に通用するジャパニーズデザインを目指したんです」
なるほど! そうだったんかい……オザワはここでひとつポン! とヒザをたたきました。3代目ラパンになくて、旧型にあるもの。少し足りないな、と思った要素。それはある種意図的なアンバランスであり“毒”だったのだ。
今までのレトロデザインはサイズの割にグリルが不自然にデカかったり、角が立っていたり、ある種の違和感をパワーに変えていた。
いわばおもちゃの「チョロQ」であり、2、3頭身のアニメキャラのようにあえて全体をデフォルメすることにより、奇妙な色気を醸し出していたのだ。
日本人はすでにクルマに飽きている!
だが3代目ラパンは違う。冷静に見ればディテールそのものや、角が取れた「まる しかくい」フォルムは今まで以上にレトロかもしれない。だが、一つ一つの要素のバランスは端正で美しく、今回は“毒”ではなく“品”で勝負しているのであーる。ま、テールランプだけは若干デカすぎる気もしますが(笑)。
「これが進化といえるかどうかはわかりません。ただ、バランスを崩すことの面白さを我慢し、軽とはいえプロポーションの確かさで勝負しようとしてみたんです」
そして松島さんは続ける。なぜ日本だけがこのような独特のデザイン境地に達したかということを。
「僕は『スイフト』のデザインをしていたからわかりますが、ヨーロッパで大事にされるのは、なんだかんだで“様式”なんです。インパネなどは特にそうですけど、クルマらしいデザインであることが前提になっている。ところがラパンのモチーフは“家具”です。こんなことはヨーロッパでは許されません」
よく分かります。ある意味、頭が固いんですよね?
「それは考え方次第ですが(笑)、とにかく彼らには確固とした美意識がある。それは欧米人はもちろん、クルマの歴史が浅い中国人やアジア人もそう。まだまだ経験が少ないし、クルマらしいデザインを好む。一方、日本人は全く逆なんです。クルマを使った歴史が長いから大抵のモノを知っているし、長いこと買い換えサイクルが異様に短かったからいろいろなデザインをものすごいスピードで消費してしまってきている。早い話、既にクルマに飽きてるんです(笑)」
まさにその通り。昔から言われていることだが、レトロデザインの最大の成功者とも言える、BMWの「MINI」はある意味、1980~1990年代の日産パイクカーの後追いといえなくもない。イマドキのボディーサイズに、クラシックなグリルデザインにキラキラなディテール。ところが、日本はそこからドンドン先に行って、次のステージに進んでしまっているのだ。
「今のSUVもそうです。日本は2000年代に派生したRVブームですっかりSUVを消費し、ブームは過ぎ去ってしまった。もっとキチンと育てていれば今につながったのかもしれないのですが」
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世界に類を見ないトレンド消費大国、ニッポン
見ようによっては日本は、非常にもったいないカーデザインのスピード消費国なのだ。大事に育てれば長く愛されたかもしれないものも、すぐにブームとして消化し、捨て去ってしまう。Be-1、「パオ」「フィガロ」のような日産パイクカーはもちろん、初代ラパンやトヨタの初代「bB」、ホンダの「S-MX」やウナギ犬のような「オデッセイ」……。ユニークなデザインが次々と生まれ、次々と消え去っていく。
さらにオザワは思うのだ。そこには日本人独特の“卒業”の概念も加わっているのかもしれないと。よくヤンキー兄ちゃんが「もうバイクは卒業だ」とか渋谷・原宿あたりのギャルが「こんな色、もう無理……」とか言うように、独特のデザインや文化に関するタイムスパンがある。
「そうかもしれません。クルマのお客さまも『こんな色、乗れない』とかよく仰(おっしゃ)るけど、例えばブラジルの女性なんて子供からお年寄りまで悩殺ファッションですよね(笑)」
コンビニの清涼飲料水もそうだが、日本はトレンド消費スピードがトンでもなく速く、すぐに消えてなくなる。中にはもっとやり続ければ定着する“第2のコーラ”になり得た味もあるかもしれないのに、新製品の波に押し出されてあっさり捨て去る。
日本人独特の“卒業観”と飽きっぽい性格とコンビニ文化。これはカーデザインしかり、非常にもったいないことかもしれない。今回生まれた、もしかすると“最先端レトロデザイン”の新ラパンデザインもちゃんと育てた方がいいのかもしれない……などと、ふと思う小沢コージなのでありました。
(文=小沢コージ/写真=小沢コージ、スズキ、日産自動車、本田技研工業)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』