ランボルギーニ・ウラカンLP610-4(4WD/7AT)
柔よく剛を制す 2015.07.10 試乗記 ランボルギーニのミドルクラス・スーパースポーツカー「ウラカン」に富士スピードウェイで試乗。5.2リッターV10エンジンが610psを解き放った時、“猛牛”はいかなる走りを見せるのだろうか。電子制御の進化に注目
ランボルギーニ・ジャパンが顧客向けに開催するサーキットプログラムに参加した。試乗車であるウラカンそのものに特別な変更は見られないが、富士スピードウェイという国際レーシングコースでその動力性能を経験できる貴重な機会であった。
プログラムのメニューは、パイロンを用いたハンドリングチェックと、レーシングコースの通常走行からなる2部構成となっていた。
まずは2コーナーからの直線を使ったパイロンスラローム。ここではノーマルモードである「ストラーダ」とレースモードの「コルサ」(スタビリティーシステムはオン)の違いを見た。その後、コカコーラ・コーナーから100Rまで並べられたパイロンをトレースしながら、旋回ブレーキでウラカンのスタビリティーチェックをしてヘアピンに入るという、マニアックなハンドリングチェックセクションが用意されていた。もっとも、これは先導車の速度が遅く、テストとしては“不発”に終わってしまったが……。安全のためには致し方なしである。
その後は、先導車に従いながらレーシングコースを2周(ストレート1本)する通常走行が2本という内容である。この走行と、筆者の経験を踏まえて今回はウラカンを分析してみようと思う。
前身である「ガヤルド」から、このウラカンが一番大きく進化した部分は、何といっても電子制御技術だろう。ガヤルドの登場は今から10年以上前のことであり、この間に進んだ制御技術は驚くべきものである。というよりも、ランボルギーニは脈々と開発してきた新しい技術を、ガヤルドに少しずつでも投入してこなかったことの方が不思議というべきかもしれない。
確かにガヤルドは、そうせずとも10年という歳月を乗り切れるだけ、基本骨格がしっかりした一台だったと思うが、ここにきてランボルギーニは、一気にウラカンで進化を爆発させてきたのである。
意外や足まわりは柔らかい
ANIMA(アダプティブ・ネットワーク・インテリジェント・マネジメント)を軸としたスタビリティー制御と、それに伴う4WDのトルク配分連携、あるいは電動ステアリング(ランボルギーニ・ダイナミック・ステアリング)のタッチなど、ウラカンにおける進化のポイントを数え上げればキリがない。しかし、それを最もわかりやすく体感させてくれたのは、ショックアブソーバーのダンピングレート制御だ。
ウラカンには「マグネト・レオロジック・サスペンション」と名付けられた、次世代の主流となるであろう磁性流体フルードが封入されたダンパーが装着されている。技術を共にするアウディでいうところの「マグネティックライド」である。
これはフルードの中にある磁性体を磁気に反応させることで減衰力を随時調整するシステムだが、オーソドックスなダンパーシステムのように、オリフィスやポートの開閉でオイル流量を機械的に調整するよりも、圧倒的に動きがスムーズなのが特徴だ。これはストラーダモードとコルサモードを比べたパイロンスラロームではっきりと体感することができた。
ただこの滑らかさこそが、ウラカンを“やさ男”に見せる原因でもあると思う。たとえ制御をコルサモードにしても、あのガヤルドのようにおとこ気のある、古典的な引き締まり方はしないのだ。
さらにいえば、アルミとカーボンによるシャシーの剛性がとびきり高いため、足まわりが素直に動きすぎてしまい(実はすごいことなのだけれど)、今回のようにGが高いコースではドライバーはその足まわりを柔らかいと感じてしまうのである。
“ミスマッチ”に戸惑う
それに加えて、エンジンの性能が極端に高い。「イニエツィオーネ・ディレッタ・ストラティフィカータ(IDS)」と、これまた舌をかみそうな名前を持つ、直噴とポート噴射を使い分ける新開発の5.2リッターV10エンジンは、「フェラーリ458イタリア」のような華やかさとはまた違う重厚さと、最大で57.1kgm(560Nm)に及ぶ分厚いトルクをきっちりとレッドゾーン付近まで維持する高い完成度を持っている。
直噴制御の恩恵を直接受けるのは燃費だろうが(アイドルストップを含む走行で燃料消費は100kmあたり12.5リッター。これは8km/リッターに相当する。一方、CO2排出量は290g/kmという)、その高効率ぶりはもちろん速く走る上でも有効なはずで、ウラカンを走らせていると、いたずらにガソリンを垂れ流しているような気はあまりしない。むしろ最後まできっちりとエンジンを回し切ったときには、乗り手には嵐のような速さに対する驚きと、エンジンの精緻さに対する感服の念が残る。
車内に反響する、一糸乱れぬエンジンサウンド。そのパワーを途切れることなく伝え続ける7段デュアルクラッチトランスミッション「ランボルギーニ・ドッピア・フリッツィオーネ(LDF)」の反応速度と剛性感。ライバルが直噴ターボを選択した今、エンジンだけでもランボルギーニを選ぶ価値がある。
ともかく、この驚くべき速さと、ソフィスティケートされたサスペンションのある種の“ミスマッチ”が、乗り手を戸惑わせてしまうのだと思う。
試乗では200km/hに到達した時点でアクセルオフを強要されたが、別の機会で得たメインストレートでの終速は、メーター読みだが300km/h近い速度を記録していたと記憶している。
そしてこの猛烈なスピードを殺すべくフルブレーキングを行い、最大荷重を乗せた状態でステアリングを切り込むと、ロール剛性は確かに足りない。一番速く走れるコルサモードでは前後トルク配分がスタビリティー重視となり(基本は30:70。これが必要に応じて0:100~50:50まで変化する)、フロントタイヤが駆動している時点で、タイヤのグリップが少なからず失われている、ということもあるだろう。それでも、この速さをウラカンの基本とするならば、もっとロール剛性は高くてもよいと感じてしまうのだ。
もっとも、タイムにこだわらず運転を楽しむだけなら、前後トルク配分が15:85の「スポルトモード」を選べばいいという意見もあるだろう。今回これは残念ながら試せなかったのだが、少なくとも“速さ”を売りにするコルサでこうだと、物足りなさが残ってしまう。
これはあくまで“ストラダーレ”なのである
ただランボルギーニ自身も、これについてはわかっているはずである。というのも、同社のストラダーレモデル(レーシングモデルに対する公道仕様車の意味)は、このソフトライドが新しいスタンダードなのだ。それは、トップモデルである「アヴェンタドール」でも同じである。
彼らはストラダーレモデルにおいて、オープンロードでの優雅さを第一としている(はずだ)。一級品のエンジン、誰が見てもスーパーカーとわかるシルエット。これを涼しく乗りこなすことこそが、3000万円級スポーツカーの顧客が望むことであり、ガヤルドではなし得なかった次のステップなのだから……。
だからこれ以上のハンドリングを望むなら、いつの日か登場するであろう「SV(スーパーヴェローチェ)」の登場を待つべきだろう。それはポルシェでいうところの「GT3」に相当するモデルである。
そうとわかっていながらも、素のウラカンに全てを求めてしまうのは、その発揮しうるスピードとシャシー性能のレベルがあまりに高く、価格も高価だからである。しかし、それはあまりにぜいたくな話だが、このウラカンはコルサモードが用意されていようとも、あくまで“ストラダーレ”なのだ。ポルシェでいうところの素の「911」であり、“プレミアム”たるべき一台なのである。
ただし、いくら乗りやすいとはいっても、それはソファのように安楽なサルーンの乗り味ではない。オープンロードで乗る限りはこれ以上ないほど速く、快適で、狙った通りにコントロールが利くスーパーカーである。その常軌を逸した速さを試すには、サーキットという場所を選ばざるを得なかった、というだけの話である。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウラカンLP610-4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4459×1924×1165mm
ホイールベース:2620mm
車重:1422kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:610ps(449kW)/8250rpm
最大トルク:57.1kgm(560Nm)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.5リッター/100km(8.0km/リッター)(1999/100/EC 複合モード)
価格:2970万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。