第301回:アルファ・ロメオ復興なるか!?
~新生「ジュリア」発表会の会場から(前編)
2015.07.06
エディターから一言
2015年6月、510hpを発生するアルファ・ロメオの高性能セダン「ジュリア」が、イタリア国内で披露された。メーカー首脳陣の気合と期待に満ちあふれた発表会の様子や、現地で得られた同モデルの関連情報を、前後編2回に分けて報告する。
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気持ち高ぶる発表会
「新型車発表。2015年6月24日、アレーゼに参集せよ」
アルファ・ロメオから久しぶりに届いた、バロッコとは異なる“もうひとつの聖地”への招集状である。ジャーナリストとしてはもちろんのこと、ひとりのアルファ・ロメオ好きとしては、なにはさておき、駆けつけねばなるまい。
アメリカのセントルイスからサンタモニカまで、ヒストリックルート66を楽しみながら横断する“ザ・グレートレース”に参戦中であったにも関わらず、ラリーを途中で抜け出して、飛行機を10時間以上乗り継ぎ、ミラノへと降り立った。
ミラノからクルマで移動すること半時間ほど。マルペンサ空港へ向かう途中にアレーゼの街はある。すでに高速道路上から、アルファレッドのユニークな造作が見えてきた。そう、ムゼオ・ストリコ・アルファ・ロメオ(アルファ・ロメオ歴史博物館)だ。2009年に一度閉鎖されたが、今回、新型車のお披露目に合わせてリニューアルオープンする。それもまた、アレーゼ参りの大きな目的となった。
インターを降り、ものの5分でムゼオへ。鮮やかな赤があしらわれたファザードをたどって、レストアされた建物へ。世界中から招かれたジャーナリストの数は、わずか100名。これにフィアット クライスラー オートモービルズ(FCA)関係者の200名を合わせた、総勢300人限りの発表会がいよいよ始まるのだ。アルファ・ロメオの、世界的に愛されている歴代のエンブレムが壁に飾られている。一番右端には白いカバーがかぶせられていた。エンブレムも変わるらしい。
意気込みが伝わってくる
ターンテーブルを組み込んだステージのまわりに、席は用意されていた。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、中国語、韓国語、日本語。招かれた全ての主要マーケット言語で同時通訳される発表会など、久しぶりのことだ。もちろん、メインスピーチはイタリア語で。つまり、これから見せるものが最高の自信作ということだろう。
FCA会長のジョン・エルカーン、そして同CEOのセルジオ・マルキオンネが会場最前列に陣取った。いよいよ、始まる……。
照明が落とされると、会場は一気に静まり返った。ブランドボスのハラルド・ヴェスターが、モダンにリファインされたニューエンブレムを披露。「これから世界市場に向けて、再定義されたアルファ・ロメオのブランド性を新たなエンブレムとともにアピールする」と宣言すれば、チーフデザイナーのロレンツォ・ラマチョッティが続けざまに登壇し、アルファ・ロメオブランドの“デザイン精神”を熱く語りかける。まだ、新型車の姿は見られそうにない。
トップがアルファ復興宣言
ふたりの後に現れたのは、なんと、オペラ歌手のアンドレア・ボチェッリだった。歌い上げるは、プッチーニ作曲の『Nessun Dorma(ネッスン ドルマ)』。そう、言わずと知れたトゥーランドットのアリア。
会場に響き渡るその美しくも劇的な歌声は、人々の体の隅々に行き渡り、体を震わせる。そして、自らの意思とは無関係の、衝動的な涙を誘う。興奮さめやらぬ会場の、盛大な拍手で迎えられたセルジオ・マルキオンネが、新生アルファ・ロメオに賭ける意気込みを、この人にしては珍しく熱のこもった話ぶりで、集まったメディアに訴えかけた。
彼が最もアピールしたかったのは、ここ30年にわたって不完全燃焼を続けてきたこの名門ブランドを、イタリアの伝統的な情熱と今や世界第7位のグローバルメーカーとなったFCAの、総力を結集して立て直していくということ。「自身のヘリテージに忠実になれば、アルファ・ロメオには無限の可能性があり、ただクルマを売るというビジネス以上の価値がある」と、彼は力強く断言した。そして、それが彼らの道徳的責任であるとも……。
そう、アルファ・ロメオは、FCAにとってのアリア、トゥーランドットである、と。
そこで、フェラーリとも、マセラティとも異なる、太く熱く力強いエグゾーストノートが、ボチェッリの余韻をかき消した。背景に映し出された、骨太な車名ロゴ。その名も、「GIULIA(ジュリア)」。「ジュリエッタ」に続く、懐かしい、そして大切なネーミングの復活である。
(後編につづく)
(文=西川 淳/写真=FCA、FCAジャパン)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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