ホンダS660 無限パーツ装着車(MR/6MT)/ステップワゴン スパーダ 無限パーツ装着車(FF/CVT)
レース屋の本領発揮 2015.08.03 試乗記 NISMO/無限/STI/TRDという自動車メーカー直系の4ブランドが箱根で合同試乗会を開催。今回は無限が持ち込んだ2台、「S660」と「ステップワゴン スパーダ」をリポートする。ホンダのワークスとして培ってきた経験は、市販パーツの開発やセッティングにどのように生かされているのだろうか?俺たちがやらなきゃだめだろう!
ホンダワークスである無限の目玉は、今年デビューしたばかりのS660。エンジン内部こそフルノーマルながら、これをいち早く足まわりからフルエアロまでラインナップしたのは、彼らにとってもちょっとした自慢だったようで、「ホンダ久々のスポーツモデルの登場には、社内でも、俺たちがやらなきゃだめだろう! という雰囲気が自然と高まりました」と、若手広報担当氏が、熱く語ってくれた。
ノーマルのS660に対して最も大きく変わっていたのは、その身のこなし。その中核をなすのはスポーツサスペンションで、無限いわくスプリングレートとダンパー減衰力の最適化によりコーナリングスピードを向上させたとのことだったが、そうしたパフォーマンスアップ以上に印象的だったのは、操舵(そうだ)に対するフロントサスペンションの、驚くほどフリクションを感じさせないスムーズさであった。
というのも、純正S660のハンドリングは「アドバン・ネオバAD08R」の強力なグリップ力が支配的で、タイヤが発生させたGによってクルマがロールを開始する。だから通常はどっしりとした乗り味で、コーナーではじわりと姿勢が変化する安定型の印象があった。対して無限S660のハンドリングは、最初からタイヤのグリップ力と操舵、そしてクルマのロールに一体感がある。スッとハンドルを切ると、タメを置かずにロールが始まるコーナリングには、むしろロール剛性を下げたかのような軽やかさを感じた。
無限だからこそ徹底的に
またブレーキのタッチも素晴らしく、この素早い姿勢変化を微妙なつま先の操作でコントロールできる。フロント荷重が少ないミドシップレイアウトにもかかわらず、ブレーキペダルを奥まで踏み込んでもカツッとロックするようなことがないから、安心して制動をかけられる。これはパッドの磨材配分や前後の摩擦係数バランスを、無限がかなり入念にチューニングした結果だろう。
ただしこの素早いステア応答性については、もう少しだけハンドルの“座り感”が欲しいとも感じた。今のままではその驚くほど速いコーナリングスピードに対して、クルマの反応がやや過敏になってしまう。ちょっとハンドルを切っただけで、ノーズが動いてしまうのだ。
ちなみに、一番手っ取り早いのはフロントダンパーの縮み側減衰力をもう少し上げることだが、そうするとどうしてもフリクションが大きくなって、乗り心地が悪化してしまうのだという。これこそが、フロント荷重が極端に少ない軽量ミドシップ車に、ハイグリップタイヤを履かせた影響なのだ。だとすれば、電動パワステの操舵力を変更するのも一つの手だろう。この軽やかなハンドリングに対して、エアバッグ付きステアリングのイナーシャ(慣性重量)がやや大きいからである。無限がやるのなら、そこまで徹底的にS660を鍛えてもいいのではないか。そうしたらきっと、無限S660は、最高に楽しくて速いコーナリングマシンとなるだろう。
ミニバンにもレースの技術が
無限の言い分を、見事に証明していたのは、ステップワゴン スパーダだった。フロントにエンジンがあり、車重もS660よりはるかに重いFFのミニバンに、S660と同質のしなやかなロール特性を持たせていたのはさすが。車高を20mm下げ(この下げすぎない数値も絶妙だ)、18インチの大径ホイールを履かせたにもかかわらず、バネ下でタイヤがバタつく様子もない。試乗車は静粛性を狙ったタイヤを履かせていたが、もう少しグリップ重視のプレミアムスポーツタイヤを履かせても、いやその方がむしろ無限のステップワゴンとしては正しい評価が得られるだろう。重心の高いミニバンがロールしても怖くないのは、そのサスペンションによってロール過程がゆっくりとスピードコントロールされているから。その荷重がかかりきった最後の踏ん張りとしては、ある程度のグリップは必要だ。
エアロに関しては好みの分かれるところだが、ステップワゴンのフロントバンパーやサイドステップは、上手にその迫力を上乗せしていた。派手になりすぎずに厚みを増し、1クラス上のミニバン並みのボリューム感を実現しているのは、オラオラ系(?)のNISMOとはまた違うアプローチだ。
またウィンドウを少し開けたときに、車内から排出される空気の逆流を防ぎ、なおかつ車体側面の負圧にこれをしむけて積極的に空気を排出させる「ベンチレーテッドバイザー」などは、スーパーGTをはじめとしたレース活動で培った空力エンジニアリングのたまものなのだろう。こうした快適装備にレースエンジニアリングが活用される様子を見ると、少しおかしく思いながらも感心し、うれしくなってしまう筆者であった。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
ホンダS660 無限パーツ装着車
(ベース車:S660 α)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1180mm
ホイールベース:2285mm
車重:830kg
駆動方式:MR
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:10.6kgm(104Nm)/2600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)195/45R16 80W(ヨコハマ・アドバンネオバAD08R)
燃費:21.2km/リッター(JC08モード)
価格:218万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
装着部品:フロントアンダースポイラー(5万5080円)/サイドスポイラー&リアエアフロフェンダー(19万4400円、塗装費別)/リアアンダースポイラー(5万760円)/フロントスポーツグリル(6万2640円)/リアウイング<ドライカーボン製>(16万2000円)/フロントエアロフェンダー(8万6400円、塗装費別)/エアロエンジンフード(13万8240円、塗装費別)/エアロボンネット(12万7440円、塗装費別)/ハードトップ(23万5440円)/スポーツサイレンサー<カーボンフィニッシャータイプ>(17万640円)/ハイパフォーマンスオイルエレメント(2808円)/エンジントリートメントオイルMT105(5184円)/ヘキサゴンオイルフィラーキャップ(9180円)/スポーツサスペンション(17万640円)/アルミホイール「MD8」<フロント用、15×5 1/2Jインセット45>(3万1320円/1本)/アルミホイール「MD8」<リア用、16×6 1/2Jインセット50>(3万2400円/1本)/ホイールナット&ロックセット(7020円)/ブレーキパッド「タイプ スポーツ」<フロント左右セット>(2万520円)/ブレーキパッド「タイプ スポーツ」<リア左右セット>(1万9440円)/ブレーキローター<フロント左右セット>(3万3480円)/ブレーキローター<リア左右セット>(3万3480円)/ミクロメッシュブレーキライン<1台分4本セット>(3万2400円)/ハイパフォーマンスブレーキフルード(3240円)/クイックシフター(2万4840円)/カーボンシフトノブ(1万2960円)/スポーツマット<フロント2枚セット>(1万7280円)/カーボンルームミラーカバー<ドライカーボン製>(1万1880円)/ハイドロフィリックミラー(2万520円)/カーボンナンバープレートガーニッシュ<ドライカーボン製>(1万584円)/ナンバープレートボルト<2本セット>(2484円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:4227km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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ホンダ・ステップワゴン スパーダ 無限パーツ装着車
(ベース車:ステップワゴン スパーダ クールスピリット)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4735×1695×1840mm
ホイールベース:2890mm
車重:1700kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:150ps(110kW)/5500rpm
最大トルク:20.7kgm(203Nm)/1600-5000rpm
タイヤ:(前)225/45R18 95W/(後)225/45R18 95W(ダンロップ・ルマンLM704)
燃費:15.4km/リッター(JC08モード)
価格:288万7000円/テスト車=--円
オプション装備:--
装着部品:フロントアンダースポイラー(5万9400円)/エアロイルミネーション(3万6720円)/サイドガーニッシュ(12万7440円)/リアアンダースポイラー(4万8600円)/LEDフォグライト(4万3200円)/LEDフォグライトアタッチメント(8640円)/フロントスポーツグリル(8万6400円)/ベンチレーテッドバイザー(2万2680円)/スポーツサイレンサー(13万5000円)/ハイパフォーマンスオイルエレメント(2808円)/エンジントリートメントオイルMT105(5184円)/ヘキサゴンオイルフィラーキャップ(9180円)/スポーツサスペンション(17万640円)/アルミホイール「MDW」<18×7 1/2Jインセット55>(4万5360円/1本)/ホイールナット&ロックセット(8100円)/ブレーキパッド「タイプ ツーリング」<フロント左右セット>(1万9440円)/ブレーキパッド「タイプ ツーリング」<リア左右セット>(1万4040円)/ハイパフォーマンスブレーキフルード(3240円)/スポーツマット(5万4000円)/スポーツラゲッジマット(2万2840円)/スポーツペダル(1万4580円)/カーボンルームミラーカバー<ドライカーボン製>(1万1880円)/カーボンナンバープレートガーニッシュ<ドライカーボン製、フロント用>(1万584円)/カーボンナンバープレートガーニッシュ<ドライカーボン製、リア用>(1万584円)/ナンバープレートボルト<2本セット>(2484円)/無限メタルロゴエンブレム(7344円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2927km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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