ホンダN-ONE Premium Tourer・LOWDOWN(FF/CVT)
立駐派に朗報 2015.08.24 試乗記 「ホンダN-ONE」がマイナーチェンジを受け、新たに「LOWDOWN(ローダウン)」仕様が加わった。スポーティーな外観を得て、立体駐車場を味方につけたローダウンだが、逆に失ったものはないのか? 試乗を通じてその日常性能をチェックした。ブームが終わる気配なし
2011年に登場した「ホンダN-BOX」に始まるNシリーズは、昨年をピークとする現在の軽自動車ブームを盛り上げたモデル群といえる。ここ数年繰り広げられてきた「ワゴンR」対「ムーヴ」、「スペーシア」対「タント」といったスズキ対ダイハツの激しい販売競争に、ホンダがNシリーズをひっさげて割って入ったことで、軽自動車全体の販売競争が激化した。この動きに対し、4社ある軽自動車生産メーカーの残る1社である三菱は、日産と組んで合弁会社を設立。2モデルを共同開発し、それぞれのブランドを冠して販売することで対抗した。
こうやって軽自動車業界全体が年々盛り上がり、14年、とうとう国内新車販売シェアの4割を超える227万2790台が売れた。大ざっぱな内訳は、スズキが70万9000台、ダイハツが70万6000台、ホンダが40万2000台、三菱・日産連合が32万2000台といったところ。
ただし、14年の競争が各社大規模な「自社登録」も辞さないほど激しいものだったのと、4月に軽自動車税が引き上げられたこともあって、15年は上半期で104万5456台と前年同期の84.6%しか売れていない。
とはいえ、各社とも販売面で中心となるハイトワゴン(ワゴンR、ムーヴなど)とスーパーハイトワゴン(スペーシア、タントなど)に加え、さまざまなオルタナティブをラインナップすることで、多様な需要に応えている。「ハスラー」、「ウェイク」、いろんな顔の「コペン」、「アルト ターボRS」、「S660」、それに昔からある「ジムニー」など、今や軽自動車のなかでフルラインナップが完成しそうな勢い。軽自動車ブームはまったく終わる気配がない。ブームというより、税制に大きな変化でもない限り、この流れは続くのだろう。
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全高を65mm下げる
マイナーチェンジしたN-ONE。フロントグリルにメッキパーツが付け加えられるなどのちょっとした外観上の変更があり、新色が追加されたのだが、最大のポイントは、これまでよりも全高が65mm低い低全高タイプ(ローダウン)が加わったことだ。
どうやってローダウンしたかというと、ルーフのデザイン変更によって33mm、サスペンション(スプリングとダンパー)のセッティング変更によって10mm、アンテナのベース部分のデザイン変更によって22mm、それぞれ下げている。クルマを眺めてすぐにわかるのはルーフのデザインの違い。これまでのN-ONEのルーフは全体的にふっくらとしていたが、ローダウン仕様ではフラットに近い形をしている。まったく新しい別のパネルが用いられた。
この結果、全高がこれまでの1610mmから1545mmとなった。室内高は1240mmから1200mmと40mm減少したが、ルーフライニングの形状を工夫することで、リアシート頭上部分の高さはこれまでの915mmから920mmと逆にわずかながら増えている。開発陣に質問したところ、フロアやシートは一切変えていないそうで、スプリングレートなど、サスペンションのセッティングをどう変更したかについては「適正化した」としか教えてもらえなかった。
狙いは、見た目のスポーティーさを獲得することと、都市部に多い立体駐車場に入る全高とすること。マイナーチェンジのタイミングで、すべてをこのローダウン仕様とするのではなく、N-ONEの自然吸気エンジン仕様とN-ONE Premium(プレミアム)のターボエンジン仕様に1モデルずつローダウン仕様を設定していることからわかるとおり、実験的な試みで、売れ行きがよければ拡大するかすべてをローダウン仕様とし、よくなければまた考えるといったところだろう。
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品質向上のけん引役
今回は「Premium Tourer・LOWDOWN(プレミアム ツアラー・ローダウン)」という仕様をテスト。室内高に変化があったということで、走りだす前にまずは前後シートに腰を掛けてみた。とはいうものの、室内高1200mmというのはほとんどのセダンを上回る数値であり、乗用車としては十分以上。リアシートに座っても、これまで同様に窮屈さを感じることはない。
インテリア全体に目を転じれば、新しく採用された「プライムスムース×ジャージ」シートは見た目の上質さがあり、手で触ってみても安っぽさとは無縁。プライムスムースというのはレザー調の素材で、それがシートの縁部分に使われ、背中と尻を支える部分にざっくりとしたジャージ生地が使われている。クッションは硬すぎず柔らかすぎず、街乗りや高速道路巡航時の掛け心地は良好だ。形状を見てもわかるとおり、サイドサポートはほとんどないが、それが求められるクルマではない。ジャージ生地が滑りにくいので、それで十分だろう。
インパネまわりはオーソドックスなデザインで、小物入れが多く、操作系も適切な位置に配置され、視界もよく、全体として使いやすく、運転しやすい。Nシリーズ全体に言えることだが、プラスチックパーツをはじめとするインテリアの各パーツの質感が高いので、安っぽく見えない。ここのところ、軽自動車といえばスズキとダイハツの販売競争がとにかく激しかった。その2社が消費者に一にも二にも損得勘定でクルマを選ばせようとしてきたところへ、ホンダはNシリーズで、少し価格は高めだが、品質の高さや充実した安全装備など、満足感の得られる軽自動車を提案した。
Nシリーズが売れ始めると、スズキとダイハツも燃費のよさ、スペースの広さといった日常的に得られるお得感だけでなく、目に見える品質の高さと安全装備を充実させるようになった。この競争の結果、軽自動車全体の品質がここ数年で飛躍的に向上したのだ。すると、今度はハイブリッド以外にもう何年もトピックがなかったコンパクトカーも、軽自動車に乗り換えられるばかりではたまらんと、品質向上に力を入れるようになった。Nシリーズは小型車全体を面白くしてくれた。
乗り心地は悪化せず
パワートレインには手が加えられていない。話題のスポーツカー、S660と同じ0.66リッター直3ターボエンジンは、最高出力64ps/6000rpm、最大トルク10.6kgm/2600rpmと、軽自動車の自主規制いっぱいのパワーを発生させる。トランスミッションはCVT。車重は870kg。
大人2名乗車で高速道路を中心に走らせたが、登坂路を含めパワー不足を感じたことは一度もなかった。100km/h巡航の状態から一瞬アクセルを踏み増してみると、回転数が上がるとともに勢いよく加速するそぶりを見せた。法律さえ許せば130~140km/h巡航も楽々可能だろう。また、軽自動車で高速道路を走行すると、エンジンの回転数は4000~5000rpmを多用することになるので、大きなエンジンのクルマよりは音と振動を感じることになるが、納得できるレベルの静粛性が確保されていて、振動対策にも不足は感じない。ワインディングロードも少し走ってみたが、ローダウンによる足まわりの変化を走りから感じることはできなかった。
JC08モード23.6km/リッターに対し、さまざまなシチュエーションを286km走っての車載燃費計の数値は15.3km/リッターだった。カタログ燃費に対して6割5分の達成率となったが、CVTを搭載する軽自動車の場合、だいたいどれもこんなもんだろう。
ローダウン化によって、走りに変化はなく、乗り心地も悪化していない。室内空間は数値上はともかく体感上はまったく悪化していない。テスト中、幸運にもサービスエリアで従来のN-ONEの隣に駐車することができたので見比べてみたのだが、65mmも低くなっているようには見えなかった。もしも「スポーティーか?」と問われれば「若干そうかもね」と答えたい。ただ、立体駐車場に入るようになったというのは売れ筋の軽自動車の多くがもたない性能のひとつだ。マンションにお住まいの方など、これで購入対象となったという人もいるだろう。
ノーマルとカスタムなど、各モデルに複数の仕様が用意されるのをはじめ、N-BOXのリアセクションを少し変え、リアに大きな荷物を積みやすくした「N-BOX+」、背高が売りのN-BOXのルーフを大胆に低めた「N-BOXスラッシュ」、そして今回のN-ONEローダウンなど、多様なニーズに応えるべく、ホンダの軽自動車プラットフォームからはどんどん派生モデルが生み出されていく。いま軽自動車が一番ホンダらしいと感じるんだよな。
(文=塩見 智/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
ホンダN-ONE Premium Tourer・LOWDOWN
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1545mm
ホイールベース:2520mm
車重:870kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:10.6kgm(104Nm)/2600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストンB250)
燃費:23.6km/リッター(JC08モード)
価格:169万8000円/テスト車=175万9560円
オプション装備:あんしんパッケージ(6万1560円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:725km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:286.3km
使用燃料:18.5リッター
参考燃費:15.5km/リッター(満タン法)/15.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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塩見 智
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