第319回:凍結路で真価を発揮するスタッドレスタイヤ
トーヨータイヤの「オブザーブ ガリットGIZ」を試す
2015.10.20
エディターから一言
拡大 |
“クルミ殻”でおなじみのトーヨータイヤのスタッドレスタイヤ、その最新作である「オブザーブ ガリットGIZ」を同社の北海道サロマテストコースで試した。凍結路でのブレーキングやハンドリングを強化したとうたわれるスタッドレスタイヤは多いが、ガリットGIZは“銀盤”でいかなるパフォーマンスを見せるのだろうか。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
凍結路重視のユーザーは8割
スタッドレス購入時、皆さんは何を重視するだろうか。夏タイヤとは別に買うわけだから、お財布に優しいほうがいいし、アイスバーンで滑ったら怖いからグリップは高いほうがいいなぁ……なんて考える人が多数派か。
トーヨータイヤのユーザー調査では「凍結路性能」を重視する人が79.7%で群を抜いて多く、次いで「雪路性能」が67%、「シャーベット路の性能」が62%だという。他の調査でも同様の回答を見ることが多く、やはり依然として凍結路グリップの強化を求める声が圧倒的だ。
では、アイスバーンで滑りにくいのはどんなタイヤなのか? 凍結路は気温0度あたりが最も滑りやすく、マイナス10度以下になるとグリップが高まる。0度付近では氷が融(と)け出してミクロの水膜が発生し、タイヤと氷の接触を妨げるのだ。つまり凍結路が滑るのは氷表面の水膜が原因で、いかに水膜を効果的に除去し、タイヤを氷に接地させるかという点に技術が求められる。
他社では発泡ゴムや吸水ゴムといったものを開発しているが、トーヨータイヤが長年こだわっているのがクルミ殻によるスパイク効果。実にユニークな技術だ。
天然素材のクルミ殻は氷より硬く、アスファルトより柔らかいので舗装を傷つけず環境にも良い。クルミ殻が抜け落ちた穴は水膜を吸収する効果も得られる。
吸水性をさらに高め、クルミ殻で引っかく
乗用車用の最新スタッドレス、ガリットGIZはクルミ殻のスパイク効果を最大限に高めるため、氷表面に発生する水膜の吸水性能を徹底的に高めた。旧型の「ガリットG5」はカーボニックパウダーという多孔質の吸水素材を混合していたが、これを約25倍の大きさのネオ吸水カーボニックセルに置き換えた。これで水膜に邪魔されず凍結路面に密着してクルミ殻がしっかり氷を引っかき、グリップを高める仕組みだ。
凍結路の水膜除去にはコンパウンドだけでなくサイプや接地面の細かい部分も相乗的な影響を与える。ガリットGIZは一見して従来とは異なる力強いブロック構成が特徴だ。センターの縦長ブロックは、前後力がかかったときサイプが閉じて吸水性が損なわれる現象を防ぐよう工夫を凝らす。これはブロック剛性を抑える方向。一方、ショルダーや中間ブロックは小振幅サイプで剛性を高めた。力のかかり方に応じてサイプをきめ細かく分け、徹底して水膜除去を追求した点は注目ポイントといえる。
剛性とグリップの高さが印象的
新旧ガリットを乗り比べると、今回からタイヤの作り、基本コンセプトが大きく変わった印象を受ける。旧型ガリットG5はブロックやサイド剛性を低くまとめ、変形を感じながら走るイメージ。これは歴代ガリット共通の特徴でもあった。凹凸が多い路面や深雪は得意だが、滑り始めが把握しにくい点が気になる。
新型は剛性とグリップがともに高く、走り始めからスリップが少ない。コーナリングもキビキビ感が増す。滑り出し挙動は把握しやすく、固い凍結が露出した部分でもよく粘り、速度を高めても安定していた。
大きめのブロックに見合う内部剛性を確保したことで、しっかりした足まわりのクルマとのマッチングが良好だ。「スバル・インプレッサ」「マツダ・アテンザ」「アウディA3」で試乗したが、いずれもスポーティーな走りが楽しめた。
ツルツルのアイス路面でブレーキをかけると、ABSの作動に合わせてギュッギューッといった接地音が聞こえながら巧みにグリップしている様子がわかる。アイス路面のコーナリングでも、アウト側にスリップアウトしやすい旧型に比べてグリップが高まり、狙ったラインを維持、トレースしやすい。試乗した数多くのスタッドレスの中でも、とくに凍結路グリップは間違いなくトップレベルにあるように感じた。
降雪地区でよく見られる、水気の多いツルツルの凍結路で真価を発揮する特性といえそうだ。剛性アップはドライ路面の走りやすさ、操縦安定性にもつながる。生まれ変わったガリットに好印象を抱くユーザーは多いはずだ。
(文=竹内龍男/写真=東洋ゴム工業)

竹内 龍男
-
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末 2025.11.26 「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。
-
第854回:ハーレーダビッドソンでライディングを学べ! 「スキルライダートレーニング」体験記 2025.11.21 アメリカの名門バイクメーカー、ハーレーダビッドソンが、日本でライディングレッスンを開講! その体験取材を通し、ハーレーに特化したプログラムと少人数による講習のありがたみを実感した。これでアナタも、アメリカンクルーザーを自由自在に操れる!?
-
第853回:ホンダが、スズキが、中・印メーカーが覇を競う! 世界最大のバイクの祭典「EICMA 2025」見聞録 2025.11.18 世界最大級の規模を誇る、モーターサイクルと関連商品の展示会「EICMA(エイクマ/ミラノモーターサイクルショー)」。会場の話題をさらった日本メーカーのバイクとは? 伸長を続ける中国/インド勢の勢いとは? ライターの河野正士がリポートする。
-
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート 2025.11.18 「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ?
-
第851回:「シティ ターボII」の現代版!? ホンダの「スーパーONE」(プロトタイプ)を試す 2025.11.6 ホンダが内外のジャーナリスト向けに技術ワークショップを開催。ジャパンモビリティショー2025で披露したばかりの「スーパーONE」(プロトタイプ)に加えて、次世代の「シビック」等に使う車台のテスト車両をドライブできた。その模様をリポートする。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。
