フィアット500Xポップスタープラス(FF/6AT)
“初めての共同作業”の成果 2015.10.13 試乗記 「フィアット500」ゆずりのスタイリングが特徴の新型コンパクトSUV「フィアット500X」が、いよいよ日本に導入された。フィアットとクライスラーのジョイントベンチャーが送り出した“最初のクルマ”の出来栄えはいかなるものか。FFの上級グレードを借り出し、その実力を試した。出典はあのクルマ、競合するのはこのクルマ
昨2014年に開催された、2年に一度のパリのモーターショー、通称“パリサロン”と呼ばれる場を晴れの舞台に選んだフィアット発のブランニューモデル、500Xが、デビューからちょうど丸1年の時を経ていよいよ日本へ上陸した。
フィアットブランドとしては、“コンパクトSUV”と呼ばれるカテゴリーへの初参入となるこの5ドアハッチバックは、全長は4.2m台半ばにして全幅は1.8mまであと5mmという寸法。全高が1.6mをオーバーするので、「残念ながらNG!」というパレット式立体駐車場も現れそうだが、5.5mという最小回転半径を勘案しても、何とか「身の丈サイズのSUV」というフレーズで、日本の環境下でも紹介をできる一台ではありそうだ。
正式呼称として“チンクエチェントエックス”とルビが振られるこの500Xでまず筆頭に挙げられるセールスポイントは、“例のモデル”をモチーフとしたそのエクステリアのデザイン。車名にヒントを求めるまでもなく明らかなその出典とは、言うまでもなく1957年に発売された往年のフィアット500。
すなわちこれは、初のコンパクトSUVであると同時に、2007年に登場した“復刻版500”の兄貴分として位置づけられたモデル。そんな一連のバリエーション展開を見るに、BMW MINIファミリー同様の「ちょっとプレミアムなモデル群」を意識していることは明らかだ。
魅力はデザインだけにあらず
誰もがその愛らしさに思わず目を細めてしまう、現行の復刻版500シリーズ。それに比べれば、キュートさという点で500Xが見劣りするのは、まぁやむを得ないことではあるだろう。
そもそも、キュートさというのは「ずうたいが小さいからこそ醸し出される雰囲気」でもあるはず。MINIの場合もそうだし、例えばルノーの「カングー」だって、新旧どちらがキュートか? と問われれば、大方の人が「小さかった旧型」と答えるに違いない。
……と、弟分と比べられてしまえば愛らしさではかなわない500Xが手に入れたのは、より大きなサイズと4枚ドアのボディーを採用したことによる実用性の高さだ。
地上からおよそ670mmというちょっと高めのヒップポイントの設定で、なるほどフロントシートではSUV風味のちょっとした見下ろし感覚も得られる一方で、降車時の地面への“足つき性”は今ひとつ。それでも、ひとたび乗り込んでしまえば後席でも大人が長時間を快適に過ごせる空間が得られるのは、こちらならではの特権。リアのシートバックを前倒しするだけでフロア面が“ツラいち”となるラゲッジスペースも、弟分を一蹴する容量だ。
ボディー同色が映えるダッシュボードをはじめ、インテリアの各部は“500ファミリー”の一員であることを主張するポップなデザイン。そんな中、せっかくのセンターディスプレイ内にナビゲーション機能を入れ込むことができないのは残念。一方で、上下2段のグローブボックスにATセレクターレバー前方のポケット、センターコンソール部のカップホルダーに大容量のドアポケット……と、収納スペースが多数用意され、実は“ルックスへのこだわり”のみではない実用性の高さもインテリアデザインの見どころだ。
ベースグレードを試してみたい
テストドライブを行った「ポップスタープラス」グレードは、日本に導入される3タイプの中では中間モデルの位置づけ。286万2000円と、気になる300万円切りの価格をアピールする下位の「ポップスター」に対しては、フロントがヒーター付きで電動化されたレザーシートや、1インチ大径化された18インチのシューズ、レーダーを用いたドライバーアシストシステムなどが、21万6000円の価格差で上乗せされることになる。
スロットルバルブに依存しない高効率な運転を可能とする独自の電動油圧式バルブ駆動システム“マルチエア”を採用し、140ps/23.5kgmの最高出力/最大トルクを発生させる1.4リッターのターボ付きエンジンを、6段DCTとの組み合わせで搭載した結果の動力性能は、発進時に多少の“しゃくり感”が現れるなど、微低速領域でDCT特有のややピーキーな動きを示す場面があるものの、絶対的には十分満足のいく加速力が得られる水準だ。
むしろちょっと気になったのは、踏力(とうりょく)の増減に対してややコントロールのリニアさに欠ける感のあるブレーキに関してである。これは、異なる2台で同様に感じられたので、個体差ではないはずだ。
もうひとつ惜しいのは、フットワークのテイストだ。端的に言えばその乗り味は、路面の状態に関係なく常にいささか揺すられ感が強く、今ひとつしなやかさに欠けている。
さしたるロールも許さずコーナーをクリアする感覚は、スポーティーといえばスポーティー。が、このモデルの狙いどころを思えば、そうしたテイストを多少失ってでも、もう少し穏やかで優しい乗り味が望ましいと思う。未確認だが、あるいはこの点では17インチのシューズを履くベーシックグレードの方が上手かもしれない。
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両ブランドの相性のよさを感じさせる
……と、ここまで読み進んで来た読者の中には、そこに搭載されるパワーパックやボディーのサイズなどから、その出自を読み解いた人もいるかもしれない。
そう、実はこのモデルはひと足先に発売された「ジープ・レネゲード」と、多くのランニングコンポーネンツを共有する兄弟車なのだ。同じイタリアの工場で生産されるこれら2台のモデルは、フィアットがクライスラーを傘下に収めたことによる、ジョイントベンチャーの初めての成果ともいえるものであるわけだ。
あらためてそうした生い立ちを振り返ってみれば、それぞれがなかなか巧みに、歴史も文化も異なる自らのブランドのテイストを、思いのほか器用に演じていることに感心させられる。レネゲードにフィアットの香りを意識させられる部分は皆無だし、逆に500Xにアメリカンな雰囲気を感じさせられる部分などみじんも存在しなかったということだ。
ダイムラーとの離縁に至ったクライスラーを引き取るという、正直なところ当初は無謀な賭けにも及んだように思えたフィアット。けれども、「もしかすると、これは意外に相性のいいコンビなのかもしれない」と、思わずそんなことを連想させられる500Xでもあったということだ。
(文=河村康彦/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
フィアット500Xポップスタープラス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4250×1795×1610mm
ホイールベース:2570mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:140ps(103kW)/5000rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91V/(後)225/45R18 91V(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:15.0km/リッター(JC08モード)
価格:307万8000円/テスト車=312万1632円
オプション装備:ETC車載器(1万3392円)/フロアマット(3万240円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:43km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:1270.3km
使用燃料:100.6リッター
参考燃費:12.6km/リッター(満タン法)/13.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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