スズキ・エスクード(4WD/6AT)
スズキの良心を感じる 2015.11.05 試乗記 エンジン横置きのFFベースのプラットフォームに、モノコックボディーなど、従来モデルからすべてが一新された4代目「スズキ・エスクード」。スズキがハンガリーで生産する世界戦略車の実力を試した。スズキの世界戦略を支えた立役者
エスクードが誕生したのは1988年のこと。当時の四駆といえば「ハイラックス」ベースの「トヨタ・ハイラックスサーフ」や、“ダットラ”ベースの「日産テラノ」が幅を利かせていた。そんな時代に、排気量が最小で1.6リッターという小さなモデルに隙間的なニーズを見いだすことができたのは、間違いなく「ジムニー」の経験があってのことだろう。
ラダーフレームに上屋を載せる本格的なシャシーに副変速機を備えるパートタイム4WDの組み合わせとなる初代エスクードは、バカ売れとは言わずとも、日本のみならず世界の各地で一定の支持を得て、スズキの国際的なポジションの足場固めに大きな役割を果たした。そのメカニズムは2代目にも受け継がれ、3代目では当時主流となりつつあったビルトインモノコック構造を採用。それでもセンターデフロックを備えた本格的な縦置きドライブトレインの搭載は守りつつ、今日に至った。
その3代目エスクードは、搭載されるエンジンの排気量に倣い「エスクード2.4」として販売を継続しつつ、先ほど新たに加わったのが4代目となる新型エスクードだ。話はややこしいが、完全なモノコックボディーにエンジンを横置きで搭載し、電子制御のフルタイム4WDで駆動するまったく新しいSUV……という新型の素性を思えば、前型はトーイングなどの高荷重にも適するヘビーデューティー向けのニーズを受け持つものであることはおのずと察せられる。
こう見えてBセグメント
つまり新型はあまたの同業他車と同じナンパ物件で、本質は前型にこそあり……と四駆マニアの方々は思われるかもしれない。かくいう僕もその成り立ちをみて、「併売されているうちに前型を買った方がいいんじゃないの?」と思ったクチだ。ちなみに値札はほとんど一緒。その上、新型エスクードとエンジニアリングのベースを同じくする「SX4 Sクロス」の価格も大きくは変わらない。いかに国内販売における登録車の比率向上が必達目標とはいえ、スズキも相当面倒な三択を並べたものである。
それでも新旧エスクードとSクロスのすみ分けは、スズキ的にはできていると主張している。その根拠は最低地上高が180mm以上か否かというもの。それ以下であればクロスオーバー、以上であればSUVおよびクロカンと、そういう区別になっているそうだ。ちなみに新型エスクードは185mmを確保し、オフローダーの基本性能を示す3アングルでは、アプローチこそFFベースのオーバーハング長が災いして小さいものの、ランプブレークとデパーチャーの両アングルは、従来型エスクードとほぼ同等、もしくは上回る数値を示している。
新型エスクードの車寸は、メカニズム的に兄弟といえるSクロスに対して、全長で125mm、ホイールベースで100mm短い。角張った意匠のおかげで大きくみえるが、実寸は「マツダCX-3」や「ホンダ・ヴェゼル」あたりとほぼ同じか若干小さめという、Bセグメント級の車格となる。ちなみに、生産はSクロスと同じハンガリーのマジャールスズキ。つまり輸入車扱いということだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
充実した装備と割り切られた内装の仕立て
搭載されるエンジンは「M16A」型の1.6リッター4気筒で最高出力は117ps、最大トルクは15.4kgmとこれもSクロスと同じ。前ストラット、後トーションビームというサス形式も変わらない。最大の相違点はドライブトレインで、SクロスはCVTであるのに対してエスクードはギアホールドの可能なアイシン・エィ・ダブリュ製の6段ATを採用。併せて電子制御フルタイム4WDシステムには専用のチューニングが施され、スリップ輪の制動強化により、対角輪により強い駆動力が掛かるように工夫されている。
それでもクロカン的な性能では前型エスクードに対して勝ることはないだろう。が、そのぶんを補うものとして、新型エスクードは車重が400kgほど軽く、JC08モードで1.8倍近く低燃費となっている。そして、郊外へのロングドライブの際に威力を発揮するミリ波レーダー式のアダプティブクルーズコントロールも標準装備と知れば、同じオフロード走行目的でも選ぶに迷う対象であることが伝わるのではないだろうか。
かように装備面でのコストパフォーマンスでは3代目やSクロスを上回る新型エスクードだが、そのしわ寄せは内装の仕立てに集中して表れている。必要なものは全部備わる一方で、ダッシュボード周りのシボ感や表面の光沢、ほとんどの化粧トリムが省かれた後席ドアインナーパネルなど、質感面は正直なところ同社の軽自動車のそれにも及んでいない。いかにもスズキらしい割り切りを“清廉”と受け止めるには、持つ側も強固な意思が必要だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
このクラスでは一頭地を抜く運動性能
乗り味はガチッとしたボディー剛性からくる安心を常に感じさせてくれる。タウンスピードでの乗り心地にはやや硬めな印象もつきまとうが、不快なほどではなく、大きなストロークを伴ううねりや凹凸のこなしでは、キャビンやフロアが揺すられる感覚はみじんもない。50km/hくらい出ていれば総じてアシはスムーズに動き、ライドフィールもフラットに落ち着いてくる。6段ATのしつけにも曖昧な“滑り感”は少なく、小気味よさと穏やかさがきれいにバランスしたものとなっていた。
エンジンを高回転域まで回してみれば、しっかりと6000rpm前後までパワーがついてくる感覚とともに気づくのは、「Sクロスに対して音や振動の不快要素が若干抑えられたかな」ということだ。高速域では乗り心地に不満はなく、アダプティブクルーズコントロールも加減速制御がきめ細かく、カーブでの前方車両のロストも見受けられず……と、ドライブを委ねるにイライラするようなことはなかった。となると、最も気になるのは特にキャビン周辺の風切り音だが、これはスクエアなデザインとのトレードオフと考えれば仕方ないところでもある。
重心高の高さもあって、Sクロスの劇的な身のこなしには一歩劣るものの、新型エスクードの運動性能はこの手のモデルとしては非常に高いといえるだろう。ワインディングロードでの限界域の高さやライントレースの正確さは、ともすればオンロード自慢のライバルをもねじ伏せてしまいそうなほどだ。このクルマを求めようという人が山道をギャンギャン攻めることもないだろうが、そういう基礎があるということは、とっさの危機回避でも安心してクルマに身を委ねられるということでもある。
華はないけど実がしっかり詰まっている。新型エスクードは、スズキの良心が最も迷いなく具象化されたクルマではないだろうか。残念ながらオフロードを走る機会はなかったが、実は悪路経験の豊富なスズキのノウハウが生かされていることに期待したい。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
スズキ・エスクード
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4175×1775×1610mm
ホイールベース:2500mm
車重:1210kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6AT
最高出力:117ps(86kW)/6000rpm
最大トルク:15.4kgm(151Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
燃費:17.4km/リッター(JC08モード)
価格:234万3600円/テスト車=257万616円
オプション装備:ボディーカラー<アトランティスターコイズパールメタリックブラック2トーンルーフ>(4万3200円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万142円)/ナビゲーションシステム<スタンダードメモリーナビセット>(14万4018円)/ETC車載器(1万9656円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:338km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。



































