第423回:プロレス(?)から追従走行体験まで
大矢式、東京モーターショー流し歩き
2015.11.06
マッキナ あらモーダ!
プロローグはプロレス?
第44回東京モーターショー見物に、はるばるイタリアから東京にやってきた。
開会数日前に到着したボクが、まず訪れたのは「LEXUS RX AMAZING NIGHT」だった。招待状には「RXのローンチイベント」と同時に「AMAZING BATLLE」の文字が。何のことかわからないまま会場である渋谷ヒカリエホールに向かった。導かれるまま入ったホールの中央には、なんとレスリングのリングが設営されていた。
「……?」と驚いていると、やがてケイ・グラント氏のパワフルなリングアナウンスで本当にマッチが始まってしまった。新型「レクサスRX」の告知用CMにも登場するスピンドルグリル風覆面をかぶった「レスラーRX」が「Mr.ベイダー」と戦うという設定である。
試合開始直後は、中継カメラマンを威嚇しながら登場したMr.ベイダーの相次ぐ攻撃に苦しむ。後半では脇に展示されていたレクサスRXから青いビームでパワーを受け、見事復活。得意技のクロスオーバーアタック(!)で、見事Mr.ベイダーを打ちのめした。
なお、イベント終了後に配布された英字新聞を模したリーフレットには、「レスラーRXはIT系企業の社長ではないか?」との臆測記事が記されていた。
もし悪ノリしやすいボクが企画したら、敵役は「フォーリングスQ8」「スターGLE」などとネーミングするが、レクサスはそうした品のない場外乱闘は避けたようだ。
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バスのコンセプトモデル
いっぽうショー当日、「今年の個人的ベスト・オブ・ショーは?」との質問に、欧州からやってきたデザイナーたちの口から出た答えは、即座に「マツダRX-VISION」であった。それはプレスデイの晩、六本木のAXISビルで開催された恒例の「オートモーティブ・デザイナーズナイト」でも同じだった。あるイタリア人デザイナーは「ロータリーエンジン本体のコンパクト性と、あのロングノーズが若干矛盾しているが」としながらも、「イタリアンスポーツカーを凌駕(りょうが)する出来だ」と絶賛していた。
ちなみに、イタリアやフランスの自動車電子メディアで、RX-VISIONとともに評判だったもう一台は、日産のコンセプトカー「TEATRO for DAYZ」で、「『キューブ』風ルックスのプロトタイプは、“デジタル世代”に向けて設計されている」(仏『Auto Plus』誌)、「(デジタル世代に向けた)白いキャンバス」(伊『OminiAuto』誌)などと伝えていた。
なお彼らの東京ショーに対する評価も高く、「新しい話題満載」(仏『l’autojournal』誌)「明日すぐに買える車ではないが、数年後に買えるクルマがそこにある」(伊『OmniAuto』誌) などの文字が目に飛び込む。
イタリアは、昨2014年に復活したボローニャモーターショーが出展社不足などで再び中止の危機か? という最中だけに、東京がより輝いて見えたのかもしれない。
東京ショーのコンセプトカーといえば、欧州の主要ショーで同時展示がないだけに商用車も楽しい。本欄では「路線バスのデザインのリファインを!」とたびたび叫んできたが、日野は今回、燃料電池によるコンセプトバス「FUEL CELL BUS」を展示した。そのインテリアが秀逸だ。全幅は2490mmと既存路線バスとほぼ同じながら、シートの一部に半腰掛け式を採用するなどして、広々とした客室空間を実現している。後方にはラウンジ状のシートも採用している。運賃箱が無いのは、将来タッチレスの精算システムを想定してのことという。
そのいっぽうで、ドア付近など各部に施されたイエローのラインや、ブルーのシートなど、視覚障害のある人にもきちんと対応している。一部シートには、乗客が使える電源アウトレットも装備している。「アンペア数の高い電気炊飯器なんかつないだら、やはり怒られるだろうな」とくだらん想像をしてしまったのは、ボクだけであろうか。
祝・いすゞの歴史施設、再来年オープン!
その日野自動車の担当者氏によると、一般公開日には第一線で働くトラックドライバーもたびたび訪れて、「このドライビングポジション、もう少し改善できないか」といった率直な意見がもたらされるという。ハイブリッドトラックに関しても、運送業者には日々燃費を厳しくチェックする運行管理者がいるうえ、高価な車両価格に見合う給油インターバルの長さといった燃費以上のメリットを訴求しないといけない。乗用車ではなかなか見られない、プロ対プロの、なかなかエキサイティングなブースである。
UDトラックスは、24時間態勢のコールセンターも含むテレマティクスを強調。ただし、ショータイムの間に幾度となく繰り返される「お客さまの稼働率向上」というフレーズから、単なるアクセサリーではない、プロの世界を感じさせる。
商用車といえば、忘れていけないのは、恒例となったいすゞの社内レストアによる歴史車展示である。今回の「お題」は1946年から生産され、日本の復興に貢献した「TX80型」5トン積みトラックだ。
もともと販社がお客さんから下取りとして引き取った車両を丁寧にレストアしたもので、ボディーカラーのオーシャンブルーは社内資料をもとに丹念に検証したという。
なお、いすゞは創立80周年の2017年に歴代車両の展示施設を藤沢工場内にオープンする予定だ。「ピアッツァ」の原型となったイタルデザインによる「アッソ ディ フィオーリ」をはじめ、同社が手がけた歴代乗用車も展示されるというから、今から楽しみだ。
最新技術にちょい乗り
東京モーターショー2015は、自動運転に向けたアプローチの多さも、期待どおりだった。これは世界の主要ショーのなかでも、秀逸な質と量である。
例えばトヨタは、専用の無線通信システムを活用した運転支援システム「ITS Connect」などの同乗試乗会を実施していた。車車間通信システム(CVSS)を用いた通信利用型クルーズコントロールは、先行車が対応車両の場合、その加減速情報を電波でキャッチして、よりスムーズな追従走行を実現するシステムである。
実際の搭載車両であるレクサスRXに乗せてもらった。
各国にモーターショーあれど、こうした最新技術の一般向けちょい乗りは、東京を逃すとなかなか体験できないので貴重だ。
試乗前には、指示に従い、緊急時の誓約書にサインをする。よく見ると、血液型も記入する欄がある。冒頭のプロレスで勢いづいていたボクは「RX型でーす」などと、くだらないジョークを飛ばそうとしてもウケなそうな雰囲気だったので、正直に「AB RH+」と記入した。
いよいよスタートである。レクサスRXは先行する搭載車の電波を捉えると、メーター上に受信を示すサインが点灯した。加速・制動とも従来のレーダークルーズコントロールよりスムーズだ。このシステム、もちろんCVSSの搭載車両を前方に捕捉できないといけないわけで、現段階ではその恩恵に浴する確率はかなり低いだろう。
だがボクとしては、いつの日かトヨタブランドの軽トラ「ピクシストラック」にCVSSを後付けし、後続車両のドライバーに「ま、まさか!」と焦らせることを想像して独り楽しんでしまったのであった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、Mari OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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