第327回:攻めの開発体制へ
ショーワの「塩谷プルービンググラウンド」を見学する
2015.11.12
エディターから一言
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ダンパーやパワーステアリングなどの開発・生産を行う自動車部品メーカー大手のショーワが、栃木県・塩谷に四輪車の試験もできる自社のテストコース「栃木開発センター塩谷(しおや)プルービンググラウンド」を新設した。今回完成した“第1期工事分”の概要を報告する。
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さらに力強く発展するために
株式会社ショーワが去る9月、栃木県に塩谷プルービンググラウンドを開設した。ショーワといえば老舗のダンパーメーカーであり、二輪車と四輪車の足元を支えてきたことはご存じだろう。同社は油圧制御のプロフェッショナルであり、サスペンション用ダンパーだけでなく油圧パワーステアリングや、その発展形として電動パワーステアリングの開発も行っている。駆動系の事業としてはディファレンシャルギアやプロペラシャフトも製造している。また、ボート用部品としてはパワーチルトトリム(ボートの船外機の角度を変化させる装置)も生産する。
ショーワという会社をもう少し詳しく説明すると、国内に5カ所の生産拠点を構える(関係会社を除く)。ライバルであるKYB(旧社名カヤバ工業)が本社を東京、開発実験センターを岐阜県に置くのに対して、ショーワは本社を埼玉県行田市に据え、開発と生産の拠点を関東および東海地区に集中させている。グローバルネットワークは全世界10カ国23拠点(日本を除く)。
そんなショーワが、開発体制をさらに強化するために2014年に着工したのが、今回紹介する栃木開発センター塩谷プルービンググラウンドだ。
同センターの開所式はあいにくの空模様のため、屋内で行われた。いかにも技術者らしい、素朴ながらもすがすがしい口調の役員諸氏がスピーチする壇上の両脇には、先頃商談の申し込みが始まった「ホンダ・シビック タイプR」や、ホンダの純正アクセサリーであるモデューロのパーツを装着した初代「NSX」が展示されており、ショーワとホンダの深い関係が見受けられた。
とはいえこの塩谷プルービンググラウンドは、これからショーワが独立した企業としてさらに力強く発展していくために開設された。もちろんホンダとの強い関係は今後も変わらないだろうが、同社の取引先にはほとんどの国内自動車メーカーが名を連ねている。ストレートに言ってしまえば、同社は「メーカーに言われたものを作る」だけではなく、「良いと思ったものを提案していくスタイル」も取り入れようとしているのだ。完成間もないテストコースを、新しいダンパーを装着したテスト車で走り、そんな思いを強くした。
第1期完成分の3コースを公開
今回完成したのは第1期工事分で、平地に作られた3つのコースがそれに当たる。全長約920m、最高速度設計140km/hの「直線路」はダンパーのしゅう動性能を確認するためのコース。その左サイド(南側)にはさまざまな舗装を施した「特殊路」があり、一番奥(西側)には最大半径がR45となる「旋回路」がある。ここでディファレンシャルのセッティングが煮詰められるわけだ。
ちなみに、これに続いて第2期工事が2017年6月に完了すると、北米・欧州の郊外路面を想定したワインディング路ができあがる。同プルービンググラウンドの開所式で、このワインディング路をシミュレーターで走らせてもらったが、なかなかにタイトなコースであった。「フォルクスワーゲン・ゴルフ」を減衰力設定の異なるダンパーで走らせるという設定だったが、路面のうねりで車体がフワッと浮く感覚までもが可視化できており、筆者の脳みそは「Gの抜け」をリアルに感じた。また、慣れてくると微妙なタイヤの接地性変化までもがわかってきて大変興味深かった。
一方、実際のテストコースは評価ドライバー氏が運転する「ホンダ・フィット」で回った。しかも最初はノーマルダンパー、次はショーワが開発した「S-SEES II」ダンパー装着車の比較試乗もできた。S-SEES IIは約10年の歳月を経て完成した「S-SEES」の発展版で、簡単にいうと素晴らしい乗り心地を目指したダンパーである。
ご承知のとおり、ダンパーとはショックアブソーバー(振動吸収機能)と、ロールスピードコントロール(車体安定)という二つの機能的側面を持った部品であり、近年日本でもその高い次元での両立がユーザーから求められている。“アシヲタ”の筆者としても、ダンパーの質こそがクルマのキャラクターを大きく左右すると考えている。基本的な走りはシャシーとタイヤに大きく依存するが、その味付けとしてダンパーは大変大きな役割を担うパーツであり、スープでいえばだしに当たる。
テストコースを試走
S-SEES IIで重視されたのは、微振動域における減衰力の立ち上がりである。減衰力が立ち上がる、というと硬さをイメージするかもしれないが、さにあらず。減衰力が立ち上がるということは、ダンパーが動いているということである。逆に、減衰力が働かない“不感帯領域”ではダンパーが作動していないわけだから、ツッパリ棒のようになって乗り心地と操縦安定性が悪くなるのだ。
それは直線路での微妙なうねり、特殊路での荒れた路面で効果を発揮した。ダンパーは一定方向に縮んでいる、もしくは伸びている最中でも、路面の凹凸によってさらに伸びたり、急激に縮められたりする。その短い周波数帯で減衰力を出すには、高いフリクションコントロール性能(単にフリクションをなくすだけではダメなのだ)と、伸び・縮み時の「切り返し性能」が求められる。
S-SEES IIはノーマルダンパーに比べて乗り心地が上質だった。特にリアシートの乗り心地が印象的で、筆者ひとりしか乗っていないにも関わらず、跳ねずにしっとり荷重を受け止めていた。またテストドライバー氏いわく「ハンドリングの安定感も高い」という。
ショーワはこうした自主的なダンパー開発をこれから積極的に行い、メーカーが提示するままに製品を納めるだけでなく「こちらはいかが?」とアプローチするという。そういったやりとりは欧州では当たり前なのだろうが、日本での自動車メーカーとサプライヤーとの関係にあっては革新的なことなのだろう。
例えばホンダアクセスが採用するダンパーは、純正パーツが持つ特性から逸脱しない方向性でありながら、さらに快適性と安定性が増した乗り味を実現している。「だったら最初からこのクオリティーのダンパーを付けてくださいな」と言いたいところだけれど、日本の路面は欧州ほど悪くないので、予算の関係上見送られてしまうのだろう。だからわれわれは日本の良路で欧州車に乗ると、これをベタ褒めしてしまう傾向にあるが、日本製ダンパーでも、当然そのクオリティーで作ることは可能なのである。
職人かたぎを大切に守ってきた“裏方さん”が表に出る時代。「ジャパンクオリティー!」なんて声高に叫ぶ必要はない。開所式のスピーチのときのようにちょっと恥ずかしそうにしながらも、自信を持ってショーワをブランディングしていってほしい。
(文=山田弘樹/写真=webCG、ショーワ)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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