第328回:“ヨンクの三菱”復活なるか?
オフロードイベントで感じた可能性と課題
2015.11.17
エディターから一言
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三菱自動車が、国内外で販売するSUVやピックアップトラックを集め、富士山麓のオフロードコースで試乗イベントを開催した。新型「パジェロスポーツ」をはじめとした最新モデルの“イッキ乗り”を通して、日本市場におけるスリーダイヤ復権の可能性に思いをはせる。
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ブランド再建に向けた喫緊の課題
国内外からの多数のライバル出現などもあって、相対的に薄れつつあった「パジェロ」の存在感。それと入れ替わるように“ブランドの顔”としての役割を担ってきた「ランサーエボリューション」の生産終了。三菱にとっての喫緊の課題とは、「ブランドイメージの再確立」であるはずだ。
軽の商用車にはじまり、リッターカーからミニバンまでを取りそろえるメーカーにも関わらず、「ラインナップを代表するモデルは何なのか?」と問われた時に、誰もが思い浮かべる共通の解が見当たらないのは、何とも寂しいもの。
もちろん、そんなことはわざわざ外野から言われなくても、当の三菱で職務に携わるすべての人が痛いほど感じているはず。
かくして、そんな状況に置かれた三菱が、これから向かう方向を暗示しているのではないか? と思えるイベントが開催された。
富士山麓に位置するオフロードコースに一堂に会した三菱車の中にあって、一番の注目モデルは誕生したばかりの新型パジェロスポーツ。「えっ? パジェロスポーツって何者!?」とハナシが続きそうだが、それも無理はない。この最新三菱車は、実は「今のところ、日本で販売するかどうかは全くの未定」という、海外市場向けの専用モデルであるからだ。
特徴はパジェロ譲りの悪路走破性能
全長×全幅×全高は4785×1815×1805mm。パジェロスポーツとは、ざっくり言ってしまえば「幅は『アウトランダー』と同等で、長さと高さがそれぞれおよそ10cm増し」といったサイズ感の持ち主である。
左右フロントフェンダーからグリル部分へとパネルが回り込んだフロントマスクは、最新の三菱車に共通する表情。そんなフロントマスクを筆頭に、各部に“光りもの”を多用したことを「販売マーケットでの好みを反映した高級感の表現」と説明するのは担当エンジニア氏。ベルトラインの後端をキックアップさせたのは、3列シートの持ち主ながら“ミニバン風味”から一線を画するための演出といったところだろうか。
一方、好みが分かれそう……というよりも、実際に「社内でも大きな議論をもたらした」というのが、地面に向けて流れ落ちるようなテールランプの処理。「ゲート開口部の広さを確保しつつ、少ないデザイン自由度の中で“個性化”を図った」というその仕上がりは、果たして吉と出るか凶と出るか。口さがない人々には“血の流れ”(!)とさえ言われそうに見えるルックスが、果たして世間の支持を受けるか否かは、次のマイナーチェンジを目にすれば明らかになるはずだ。
そんなパジェロスポーツのハードウエア上の大きな特徴は、フレーム式のボディーが採用されること。218mmという高くとられた最低地上高や、700mmもの渡河性能が確保される点からも明らかなように、実際に“パジェロ譲り”と表現が可能なオフロードでのタフネスぶりを備えていることも、見た目だけのSUVとは一線を画す、このモデル固有の特徴として紹介できる部分なのだ。
基本設計も電子制御も“抜かりなし”
砂塵(さじん)舞うオフロードというごく限られたシーンでのテストドライブに供されたパジェロスポーツは、右ハンドルの2.4リッター4気筒ディーゼル仕様と、左ハンドルの3リッター6気筒ガソリン仕様の2台。いずれも「三菱車として初」とされる自慢の8段ATが組み合わされるものの、いざ走り始めれば荒れた急勾配の上り下りをメインに設定されたコースゆえ、「必要となるのは1速と2速ギアのみ」と、そんな状況に終始せざるを得なかった。
それゆえ、とても試乗記といえるほどの内容をお伝えすることができないのが残念だが、少なくとも容易に確認できたのは、なるほど「これならば自慢したくもなるはずだな」と納得のゆくその悪路の踏破性。それは主に対障害角の大きさからくるもので、中でもアプローチアングルが30度、デパーチャーアングルが24度と大きいことが、確かに“パジェロ”の一員であると名乗るにふさわしい、タフな走りの原動力になっている。
「2~20km/hの範囲内で、アクセルもしくはブレーキペダルを“離した時点”が設定車速になる」というシンプルな操作法のヒルディセントコントロールも、このモデルの場合は実用機能のひとつと受け取れそう。ただし、ここまでやるなら、下り坂でなくとも悪路でアクセルを踏む足の揺れを心配する必要がないよう、一定の低車速をキープしてくれる機能を盛り込んでほしかったと思う。
目指すはSUVを軸にすえたブランドイメージの構築
ところで今回、この場に用意されたパジェロスポーツは、実はいずれもはるばるタイから運ばれて来たもの。「アセアンの各国やオーストラリア、中東、中南米、そしてロシアなどが主要なマーケット」というこのモデルは、その中でも最大市場であるタイにある三菱の工場で生産が行われるからだ。
今回このようなイベントが企画されたのも、実は第44回東京モーターショーと絡めて招待した各マーケットからのゲストに、パジェロスポーツの本格的なオフロード走行のポテンシャルを試してもらうことが主目的だった。そんなイベントに、販売計画はまだ白紙であるにもかかわらず、日本のメディアにも参加のチャンスが与えられたのは、「せっかくクルマも場所も用意したのだから」という、いうなれば“ついで”ということになるわけだ。
もっとも“白紙”という限りは導入の可能性も大いに残されている。実際、プレゼンテーションで用いられたパワーポイントや配布物など、きちんと日本語版の資料が用意されていた点を見ても、この先に“日本導入”というシナリオが存在することを予感させるに十分だった。
ミリ波レーダーを用いた自動緊急ブレーキや超音波センサーを活用した死角警報システムも設定されているので、日本の道にもジャストサイズな3列シートのSUVがそれなりにこなれた価格で提供されれば、きっとそこそこの需要を取り込むことができるはず。
今回のイベントにはそんなパジェロスポーツに加え、アウトランダーや「デリカD:5」、そして本家本元のパジェロなど、さまざまなモデルも用意されていた。現状では、それらに一貫したDNAを感じにくいところが難点。が、この先そうした既存モデルが備える資産をうまく活用していけば、「日本きってのSUVブランド」としての立ち位置をより明確にできるポテンシャルを秘めているのではないか? そんな事を感じさせてくれるイベントであった。
(文=河村康彦/写真=郡大二郎)
■三菱パジェロスポーツ 増岡 浩の走り(48秒)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。