ポルシェ911 GT3 RS(RR/7AT)
純粋に速さを求めるドライバーにささぐ 2015.11.23 試乗記 「ポルシェ911」シリーズに、ニュルブルクリンク北コースを7分20秒で駆け抜ける“走り”のトップモデル「GT3 RS」が登場。ポルシェ伝統の「RS(レンシュポルト)」の名を現代に受け継ぐ高性能モデルの実力を、富士スピードウェイの本コースで試す。「GT3」を超える911シリーズのトップモデル
「918スパイダー」をはじめとしたスーパーハイエンドモデルを除けば、ポルシェにおける“走り”の頂点に君臨するモデル、911 GT3 RSに富士スピードウェイで試乗することができた。最も注目すべき点はずばり、同じ名を掲げる「911 GT3」に対して、RSがどのようなエボリューションを果たしているかだろう。「タイプ991」のGT3は、現代のGTスポーツカーの中にあって珠玉の存在である。単にその速さだけでGT3を持ち上げているのではない。たとえアマチュアドライバーが操ったとしても、その速さの中にドライビングの奥深さをシッカリと見いだせるからこそ、このクルマは逸材といえるのだ。だからこそ、今回の“レンシュポルト”がそこに、どれほどの価値を上乗せしているのかが見ものなのである。
スペックでその違いを見てみると、まずベースとなるエンジンはGT3と同じ。これまでの、GT1クランクと空冷時代の腰下を使ったエンジンは、タイプ991からは新設計の水平対向6気筒直噴ユニットに刷新された。排気量はGT3から200ccアップした3996cc。先代「タイプ997」に設定された限定モデル「911 GT3 RS 4.0」より4リッターの大台を踏襲した形になる。
その最高出力はGT3比でプラス25psの500ps/8250rpm。最大トルクは同プラス2.0kgmの46.9kgm/6250rpm。クランク長を伸ばしピストンスピードが速まったにもかかわらず9000rpmまできっちり回る、驚くほど高回転型なユニットとなった。おそらくは、12.9という高い圧縮比と直噴技術がこれを可能としたのだろう。組み合わされるトランスミッションは、GT3同様デュアルクラッチ式の7段PDKのみである。
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各所に施された“RS専用”のチューニング
外観で目を引くのは、より下あごを突き出す形になったフロントバンパー。リップスポイラーを延長させて、タイヤハウス直前にフリップを付けているのは近代GTレースから得たノウハウだろう。タイヤハウスで生じた空気抵抗を、このフリップが巻き起こすタービュランス(空気の渦)で引き出す効果があるのではないかと思う。またカーボン製のフロントフェンダー上部後端に付けられたエアアウトレットも、車体を押し上げる揚力の低減、負圧の発生に一役買っているはずだ。ちなみにGT3 RSはGT3に対し2倍以上のダウンフォースを発生するという。ハイマウントタイプとなったGTウイングもそれに貢献するはずだ。
ベースとなるのはワイドな“ターボボディー”で、フロントと同じくリアにもカーボン製のフェンダーがかぶせられ、GT3に比べ全幅が28mmほど広げられているという。またRSの名を引き継ぐべく、ルーフもマグネシウムに交換されている。リアガラスもポリカーボネート製だ。
こうした材料置換で得られた成果はGT3マイナス10kgと泣けるほど少なく、乗り手がダイエットすれば差額より張るかに少ない金額でこれを達成できる気もする。しかし、ルーフの軽量化などはロールやピッチングの抑制にもつながるから、額面上の軽さ以上のメリットがあるはずだ。そもそも1420kg(試乗車の車検記載値は1490kg)という車重は、現代のスポーツカーとして十分に軽量である。
シャシー面ではスプリングとダンパーがRS専用となり、前後のスタビライザーもよりハードなものが装着された。足元には前20インチ、後21インチの「ミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2」タイヤを装着。電動パワーステアリングのセッティングも専用となっている。
500psを全開にできるスタビリティー
さて、満を持してコースへと繰り出したその印象は? 真っ先に伝えたいのは、ストレートでの高い安心感だ。「996」世代で登場した初代GT3以降、年々鋭さを増していくエンジンレスポンスとパワー&トルクを、フワフワとしたリフト感など一切なしに御し、それどころかフロントの高い接地性を常に保つのは並大抵のことではない。そのカギを握るのは前述した空力性能だ。ツーリングカーは一般的にフロントのダウンフォースを得るのが難しく、リアウイングで安定を図るのが常とう手段だが、前述したハンドルのシッカリ感から察するに、GT3 RSは床下でもダウンフォースを生じさせているように思われる。延長されたバンパー、2445mmのホイールベース、低められた車高による流速アップが、これに貢献しているのだろう。
500psという数字が珍しくなくなった現代だが、これをドライバーがちゅうちょなく全開にできるかどうかはまったくの別問題。クルマはまず真っすぐ走るのが基本だということを、まざまざと思い知らされた。ちなみに1コーナー手前で目視したストレートエンドの車速は、270km/hを少し割るところだったと記憶する。
ブレーキングからターンインにかけての挙動は、一般的なレベルのドライバーにはちょっとマニアックだ。挙動のスイートスポットが狭く、弱アンダーステアからニュートラルステアにかけての姿勢を維持するのが難しかった。ただし、たとえオーバーステアが出てもこれをスロットルで容易にバランスさせることができるのは見事で、普通ならそれだけで悦に入れるところだが、RSは速さにこだわるべきモデル。そこで喜んでいてはいけない。ターンインでのオーバーステアをゼロカウンターの領域でとどめられない自分の走りには、われながら少しもどかしさを感じた。
“RS”とはどういう存在なのか
PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント)のよりダンピングを固めたモードは、さらにハイレートなスプリングへの対応も想定したものだ、というウワサをチラッと聞いた。確かにPASMをオンにしたときのダンパーはツッパリ気味で、その挙動はタイヤがヒートするにつれてピーキーになる傾向があった。試乗会におけるタイヤの内圧設定が高かった(正確には温間調整をしなかった)こともその一因かもしれない。また、今回はスタビリティーコントロールを全てカットして走ったが、これを生かしておいた方が結果的に速く走れ、コントロール性も良好になる可能性は否定できない。試乗車にはPCCB(ポルシェ・セラミックコンポジット・ブレーキ)も装着されていなかったので、これが付いた場合はターンインの姿勢作りがもっと楽になるかもしれない。
ともかくもっといろいろ試してみないことには、RSの性能を断定することはできない。第一印象としてRSは笑えるほどに速く、しかも安全なクルマだった。ただし速く走らせるにはGT3よりもややスキルが必要だから、タイヤの過渡特性を楽しむような運転をしたいなら、筆者は通常のGT3をお薦めする。「トップモデルばかりがポルシェじゃないよ」という結論になる。
GT3 RSとは一体どんなスポーツカーか? いまさら説明する必要がないほどアイコン化された存在だからこそ、その意味をうっかり忘れてしまうこともある。今回は、今一度その意味を問い直すことの意義を感じた試乗だった。911 GT3 RSは、純粋な速さを求めるドライバーにお薦めしたい一台である。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
ポルシェ911 GT3 RS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1900×1290mm
ホイールベース:2455mm
車重:1420kg(DIN)
駆動方式:RR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:500ps(368kW)/8250rpm
最大トルク:46.9kgm(460Nm)/6250rpm
タイヤ:(前)265/35ZR20 99Y/(後)325/30ZR21 108Y(ミシュラン・パイロットスポーツカップ2)
燃費:12.7リッター/100km(約7.9km/リッター、NEDC複合モード)
価格:2530万円/テスト車=2731万2000円
オプション装備:ボディーカラー<ラバオレンジ>(48万2000円)/インテリアトリム<ブラック/ラバオレンジ、レザー>(55万1000円)/ポルシェ・ダイナミック・ライトシステム(12万8000円)/フロントリフトシステム(54万1000円)/スポーツクロノパッケージ(29万円)/フロアマット(2万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2407km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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