スズキ・ソリオ バンディット ハイブリッドMV(FF/CVT)
存在意義のあるクルマ 2015.11.29 試乗記 5ナンバーサイズのコンパクトカーと軽自動車の間という、絶妙なボディーサイズが特徴の「スズキ・ソリオ」。人気の軽ハイトワゴンではなく、あえてこのサイズのコンパクトワゴンを選ぶ意義とは?CMソングはラモーンズ?
前型のCMに出ていたのがKAT-TUNなら、新型のCMに出ているのはTOKIOである。「後輩からパイセンにバトンタッチってそれ事務所的にどうなわけ?」と、某芸能事務所のファンの間でソリオがちょっとした話題になったそうだ。それだけでもスズキ的には勝利であろう。
が、僕にとってはそんなことより、そのパイセン側がやっている現在のCMで流れるBGMが、ラモーンズの名曲をアレンジしたものだったことに反応してしまった。洋楽に明るい人にはよく知られたバンドなわけだが、果たしてソリオを求める客筋にそれは通じるのだろうか。
……と思いつつ聞いてみれば、ソリオの顧客層、幅広くて絞りにくいものの、ど真ん中は40~50代のファミリー層だという。残念ながらファミリーは持たずとも、年齢的には自分、ど真ん中。完全にタマ筋を広告代理店に読まれているわけだ。
新しいソリオの技術的なトピックは、先の「アルト」から展開が始まったAセグメント系のそれを応用して、プラットフォームを完全刷新したことにある。加えて、従来は「S-エネチャージ」と呼んでいたマイルドハイブリッドシステムを、登録車用に発展させて搭載したことも挙げられるだろう。ちなみに今回、くだんのラモーンズのBGMに乗せて大きくハイブリッドであることを打ち出しているのは、同様のメカニズムを積んでハイブリッドをうたう登録車が他にもあること、そして登録車の市場ではハイブリッドのキーワードがなければ来客の誘引にも苦労するからとのことらしい。販売現場的には軽には軽の、登録車には登録車の戦法があるというわけだ。
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日本の生活環境にマッチしたボディーサイズ
今回試乗したのはソリオのバリエーション中でもワイルド側に特化した意匠が与えられた「バンディット」だ。バンディットは搭載されるパワートレインがハイブリッド1本にしぼられ、グレードも1つ。選択肢はFFか4WDか、そしてステレオカメラを用いたブレーキサポートの有無ということになる。ちなみに、同級装備の普通のソリオとの価格差はないに等しい。そしてサス設定などメカニカルの側も一緒。意匠違いを主とした両車の位置づけは、さながらスズキ版の「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」といったところだろうか。
新しいAセグメント系プラットフォームを用いたこともあって、ソリオ/ソリオ バンディットはとにかく軽さが際立っている。ハイブリッドにしてFFで950kgという車重は、“コンベ車”(非ハイブリッド車)だった先代に対して100kg前後軽く、4WDでも1トンを切るところに収まっている。加えて全幅は先代比5mmプラスの1625mm。前後ウオークスルーに加えて左右スライドドアも駆使すれば、大抵の狭小住宅の駐車環境にも対応できる寸法だ。文字通り、スズキの“隙間戦略”は日本の生活環境において欠かせないものとなっているのだろう。ちなみに、ソリオは先代も月に2000~3000台をコンスタントに販売。スズキにとっては「スイフト」との2トップ態勢の片翼を担う、日本の登録車戦略において欠かせない存在となっていたそうだ。
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競合車種に対する絶妙なポジショニング
敷地10坪の達人。あるいは激狭駐車グランプリ。ソリオの車内に入るとそんな番組があったことを思い出す。ともあれ、後席広ッ……と思うが、これは軽規格の「スズキ・ワゴンR」だって「ダイハツ・ムーヴ」だってかなえていることだ。あるいは「ダイハツ・ウェイク」や「スズキ・スペーシア」なら天地方向にも敵なしである。が、ソリオは軽のモノスペース系で培った異様な前後席間距離からくるユーティリティーをそのままに、左右にもまた大きくゆとりがある。現状の軽が不自然とは言わないが、自然なのはどっちと言われれば、明らかにソリオの方だ。
でもそれだけでは軽自動車の税や保険料、高速通行料金などの優遇をかなぐり捨てての購入には至らないだろう。極端な話、ワゴンRになくてソリオにあるものはなんなのか。それは価格差を補って余りあるものなのか。僕は試乗の始終、そんなことを考えながらバンディット号に接していた。
総じて、内装の質感は悪くない。「ホンダ・フィット」や「トヨタ・アクア」あたりのBセグメントを思い浮かべても、明らかな見劣り感はないといっていいだろう。そして意外なことに、シートもよくできている。クッションストロークがしっかり感じられるのは背高パッケージゆえだろう。前席の向こう、フロントウィンドウに広がる景色を見渡せる後席の着座高が良心的だ。軽自動車に対する直感的上質感と、ライバル車に対する直感的拮抗(きっこう)感。先に試乗した新型「エスクード」の帰国子女的ぶっきらぼう感からすれば、ソリオは劇的なほどにポジショニングが器用だ。
走りの上質感で“軽”に差を付ける
スズキの登録車といえば、走りに一家言持つモデルが多い。特にハンガリーのマジャールスズキで生産されるモデル、「SX4 Sクロス」やエスクードは剛質さがしっかり感じられる乗り心地と、見た目にそぐわぬ骨太なハンドリングが印象に強く残っている。
が、ヘタな欧州車よりも欧州車っぽいというそれらのモデルと、ソリオはだいぶ走りのイメージを異にしている。足まわりの設定は基本的には柔らかめ。街乗り領域からしてふわんと優しく上屋を揺する乗り味の傾向は軽自動車、ごく普通のワゴンR辺りの延長線にあるといっていいだろう。
ただし、ごく普通に転がしてみての上質感はソリオの方がうんと高い。走行時の音や振動の類いは一段と抑え込まれており、スイフトなどにも搭載される1.2リッターエンジンの音抜けも、回してみると一段澄んだように感じられる。これらの差異は、実用重視でクルマを選ぶ人でも、すぐに感じ取れるほど明快なものだ。さすがスズキ、押さえるべきところはきっちり押さえている。
一方で、気になるのは操舵(そうだ)とゲインとの間にある位相差だ。特に微小な舵角(だかく)では操作と曲がり始めとの間に一寸の無反応が感じられるほどのクセとなっている。これはギア比やキャスターアングルの問題というよりも、操舵初期の遊びや電動パワステの設定によるところが大きいのだろう。操舵フィールも軽自動車同然とは言わないが、ユーザーが期待する負荷や速度域のことを鑑みれば、もう少し路面との接地感を濃密に伝えるリニアさが欲しい。
高速走行も快適にこなす最小サイズのクルマ
高速巡航で際立つのは、形状ゆえの空気抵抗の不利を補うほどの車重の軽さで、100km/h付近での追い越し加速にもかったるさは感じられない。そういう速度域でも、インジケーターをのぞけばハイブリッドシステムが積極的に駆動に加担しているが、モーターの容量や駆動の仕組みからみても、ここでの主役はエンジンだろう。参考までに車載の燃費計では、高速巡航で約20km/リッター、街中では14km/リッター辺りをマークしていた。劇的ではないが、燃費の改善効果はなんとか見て取ることはできるといったところか。
和風な乗り心地と引き換えにグダグダになるだろうと思われた高速域でのスタビリティーはまずまず確保されており、高速コーナーでも車体のコンタクト感は不安なく、低速コーナーでも大きなロールを伴いながら意外に踏ん張れるクチではある。が、それが気持ちいいものでないのはお察しの通り。ドライバー含め、大人4人がのびのびゆったりと高速移動できる最小寸法のクルマというところに、ソリオの登録車としての意味はある。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
スズキ・ソリオ バンディット ハイブリッドMV デュアルカメラブレーキサポート装着車
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3710×1625×1745mm
ホイールベース:2480mm
車重:950kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:91ps(67kW)/6000rpm
最大トルク:12.0kgm(118Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81S/(後)165/65R15 81S(ヨコハマ・ブルーアースAE-01)
燃費:27.8km/リッター(JC08モード)
価格:188万4600円/テスト車=215万3866円
オプション装備:全方位モニター付きメモリーナビゲーション(12万7440円)/後席右側ワンアクションパワースライドドア(4万6440円)/ファーベントレッド ブラック2トーンルーフ(4万3200円) ※以下、販売店装着オプション フロアマット(2万8782円)/ETC車載器(2万3404円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3225km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:271.4km
使用燃料:17.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:15.5km/リッター(満タン法)/16.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。