第130回:大切なのは、想像力 「三菱コンセプトPX-MiEV II」試乗会で見た自動車の未来像
2011.11.17 エディターから一言第130回:大切なのは、想像力「三菱コンセプトPX-MiEV II」試乗会で見た自動車の未来像
三菱自動車が第42回東京モーターショーに出品するプラグインハイブリッド車の取材会が愛知県岡崎市のテストコースで行われた。
概念には乗れないからアバターを用意
ちょっとややこしい試乗会だったのだ。東京モーターショーで披露される「コンセプトPX-MiEV II」に乗れるというので、愛知県岡崎市にある三菱自動車のテストコースを訪れた。でも、そこにあったのは見慣れた形の「アウトランダー」。どういうことか?
それは、PX-MiEV IIのアバターだったのだ。コンセプトカーというのは日本語に直訳すれば、概念車。概念に乗るのは無理でしょう。それで、開発中の技術をすでにクルマとしての骨格がある既存のクルマに載せ、動かすことができるようにしたというわけ。アウトランダーに乗っているようでも、実はPX-MiEV IIをテストしていることになる仕掛けである。乗る人間は、最大限に想像力を発揮しなければいけない。写真で見たコンセプトPX-MiEV IIの姿を思い浮かべつつ、心の目を開いて試乗したのだ。
三菱自動車といえば「i-MiEV」がまず頭に浮かぶほど、最近はEVのイメージが強い。日産と並び、電気自動車技術で先行していることは広く知られている。それで忘れていたのだが、ちょっと前は三菱といえば「パジェロ」であり「ランサー・エボリューション」だったのだ。コンセプトPX-MiEV IIは三菱の得意な「EV」「4WD」「SUV」の3要素を融合させたものだと説明を受けて、ようやく思い出した。
力強い60kWのツインモーター
カテゴリーとしては、プラグインハイブリッド車である。「プリウス プラグインハイブリッド」と同じだ。ただし、プリウスがハイブリッドをベースとして発展させたのに対し、PX-MiEV IIは電気自動車が出発点となっている。発想が逆なのだ。通常の走行ではバッテリーでモーター駆動するEVであり、それが基本となる。加速時や山道ではエンジンで発電するシリーズハイブリッドになり、高速走行ではエンジンも駆動力を提供するパラレルハイブリッドになる。基本がモーター駆動だから、トランスミッションは装備していない。
PX-MiEV IIは全長4660mm×全長1830mm×全高1680mmだから、アウトランダーの4640mm×1800mm×1680mmとほぼ同じだ。2リッターのエンジンに加え前後にモーターを配して4WDとするドライブトレインは、PX-MiEV IIの仕様と同じである。ただし、コントロールユニットの搭載位置、充電プラグなどは仮のものだった。センターコンソールには他の部品を流用してしつらえられたスイッチ類があり、試作車らしい雰囲気だ。メーターパネルはシステムと連動していないため、ダッシュボード中央にモニターを据え付けてすべての情報を表示するようになっていた。
アナログ式にキーをひねると、システムが始動する。最初は完全な電気駆動だから静かな発進だが、結構大きめな高周波音が耳に入ってくる。防音に関してはこれからの作業で、音質も含めて不快な要素を除いていくのだという。60kWのツインモーターによる加速は、やはり内燃機関とは別物の力強さだ。アクセルペダルを力いっぱい踏み込んでも60km/hぐらいまではエンジンはかからず、モーター音だけが響きを強めながら突き進んでいく。それを超えたあたりで、消費した電力を補うべくエンジンが始動した。
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120km/h超でパラレル走行に
モニターにはモーターとバッテリー、エンジンがどのように働いているかがリアルタイムで示される。フロントとリアで駆動力や回生の配分が移り変わる様子をグラフィックに見せるのだ。ほんの少しのアクセル操作で数値は刻々と変化し、ひとときとしてとどまることがない。速度やバッテリー残量、アクセル開度などの情報から最も効率のいいシステムのバランスを見つけ出すわけだ。瞬時に行われるそのプログラムの運用にこそ、このようなクルマの性能はかかっているのだろう。モーター2つでフロントとリアを独立して動かすのだから、自由度は高い。エンジンの駆動力が伝わるのは、フロントのみである。
モードは手動で切り替えることができ、「ECO」「ノーマル」「パワー」の3つが選べる。それに加え、「バッテリー走行モード」「バッテリー充電モード」という2つの見分けづらいボタンがあり、システムを変更できる。完全なEVとして走行したい時は「バッテリー走行モード」、後でEV走行したいからまずは電気をためたいという時は「バッテリー充電モード」にすればいい。もうちょっとスッキリした使い勝手にしてほしい気もするが、ドライバーが自分でコントロールできる余地があるのはありがたい。
EV走行をしていて極低速になると、モーターの駆動力のオン/オフがはっきりわかるのが気になったが、これも今後解消されていくのだという。エンジンがかかってシリーズ走行になっても、駆動はモーターのみなので音以外には変化はない。エンジンが駆動力を提供するパラレル走行になるのは、120km/hを超えたあたりからである。エネルギーを効率よく利用できる高速領域でのみエンジンを活用するのだ。周回路で高速走行を試してみると、確かに120km/hほどでモニターにパラレル走行に入ったことが示される。シリーズ走行でもエンジンは動いているので、モードが切り替わってもモニターを見ない限りドライバーはほとんど気づかない。現段階でも、なかなか洗練された制御ぶりなのだ。
2020年に20%を電動車にする構想
達成すべき性能として、燃費は60km/リッター以上がうたわれている。量産型プリウス プラグインハイブリッドの61km/リッターという数字を十分に意識しての設定なのだろう。そしてEV走行距離50km以上、航続可能距離800km以上が目標値である(どちらもJC08モード)。50km走行できれば日常生活ではほとんど電気自動車として使用でき、800kmの航続距離があればガソリン車と同等の使い方ができる。行動範囲を制限することなく、環境性能を高めたということなのだ。
以上はクルマとしての性能。電池を載せたクルマは、ほかにも大事な役割がある。住宅用の蓄電池として利用できるのだ。電池容量は公開されていないが、i-MiEVよりは小さなものらしい。それでも、非常用の電源として1日くらいは使用することができる。ガソリンが満タンであれば、エンジンで発電をすることにより1週間にわたって電気を供給することが可能だ。災害時を考えると、頼もしいスペックである。
三菱では、2020年に総販売台数の20%を電動車にすることを想定している。電動車とは、EVとプラグインハイブリッドのことだ。各自動車会社が将来の自動車像をそれぞれに描いていて、少しずつ違う構想を持っている。自動車開発には、技術力だけではなく構想力が必要とされる時代なのだ。見当違いの方向性では、いくら優れた技術を作り上げても使い道がないかもしれない。
2020年というのは、9年先になる。自動車を取り巻く状況を正確に予測することは難しい。9年前、現在を見通した人などいなかったのだ。あの頃は燃料電池車だけが取りざたされ、ピュアEVが実用化されるとはほとんど考えられていなかった。ヨーロッパのメーカーはハイブリッド技術に懐疑的で、プリウスには冷たい視線を送っていた。
省エネルギーや低炭素化が時代の要請であることは前提だ。その上で次世代の自動車像を考える。インフラの整備、補助金を含む政府の施策、さらにはガソリン会社や住宅会社の動向も重要なファクターになるだろう。さまざまな方向に目を配らなければならない難儀な作業である。転換期には、想像力こそが大きな武器となる。試乗する側にも想像力が要求されたのは、当然のことだったのだ。
(文=鈴木真人/写真=峰昌宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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