ロータス・エヴォーラ400(MR/6MT)/エヴォーラ400(MR/6AT)
レアもの中のレアもの 2015.12.28 試乗記 コンパクトなボディーの中央に、最高出力406psを発生するスーパーチャージャー付きの3.5リッターV6エンジンを搭載した「ロータス・エヴォーラ400」。より軽く、よりパワフルに進化したロータスの最上級モデルの実力を試す。その名の通り“400hp”にパワーアップ
2009年に登場したロータス・エヴォーラが“400”に発展した。
トヨタの2GR-FE型をベースにする3.5リッターV6スーパーチャージャーを350psから406ps、英馬力表記で400hpにパワーアップしたのがモデル名の由来である。エーデルブロック製のより充てん効率の高いスーパーチャージャーに合わせて水冷式インタークーラーを採用し、フロントグリルも一新した。バスタブのようなアルミモノコックにも手を加え、車重は22kg軽くなった。変更の詳細はニューモデルのページを読んでいただくとして、ひとことで言うと、よりパワフルに、より軽くなったのが、まる7年を迎えるハイエンドロータスである。
箱根の試乗会で乗ったのは、いずれも右ハンドルのMTとAT。それぞれ正味40分ほどのチョイ乗りだったこと、さらに筆者はこれがエヴォーラ初体験だったため、従来型との比較ができないことの2点をあらかじめお断りしておく。
そのかわり、エヴォーラを試乗する前に「エキシージS クラブレーサー」という、前菜にしては刺激的にすぎるライトウェイトロータスを試した。「エリーゼ」系のコンパクトモノコックにこれまでのエヴォーラとほぼ同じ350psユニットを搭載した人気モデルだ。武闘派なロータスを極め、そろそろちょっと落ち着きたくてエヴォーラ400をお試しに来た、という態で、まずはMTに乗る。
GTカーとしての資質を備えている
0-100km/h=4.2秒。へセルの自社テストコースで従来型のラップタイムを軽々と塗り替え、「ロータス史上最速のロードカー」とされるエヴォーラ400も、笑っちゃうほどレーシングカー的なエキシージから乗り換えると、GTカーである。
乗降性をよくするために、エヴォーラ400はボックス断面のサイドシルを6cm低く、4cm狭くした。その結果、宙に浮いた穴に体を出し入れするようなエキシージ・クーペに比べると、乗り降りはまったくフツーにできる。
レカロからスパルコに換わったシートに身を沈めれば、キャビンは広い。幅も高さもエキシージよりたっぷりしていて、振り返れば小さなリアシートもある。
ダッシュボードやドア内張りにはアルカンタラが貼られ、高級スポーツカーであることを主張する。スイッチやボタンの数もエキシージより桁違いに多い。だが、よく見ると、アルカンタラのステッチが少々荒っぽい。ミラーの調節スイッチが、ン……? たぶんトヨタ車の何かだよね、と思わせたりもする。1400万円級とはいえ、そういう点で、高度工業製品のポルシェとは違う。しかしそこに余人をもって代え難いアマチュアリズムを発見して、愛(め)でる。それが真のロータス信者というものだろう。
タイムアップで撮影場所から戻る時、初めて406psユニットをトップエンドまで使った。もちろん速いが、エキシージのような刺激はない。軽いといっても車重は1.4トンあるから、1100kg台のエキシージほどすばしっこくはない。やっぱりGTだ。そのかわり、6段MTのクラッチペダルはずっと軽く、普段使いにもなんら問題ない。
出自を感じさせないエンジンの出来栄え
現在のロータスは、すべてトヨタ製エンジンを使っている。といってもトヨタから“直”ではなく、日本の商社を介して購入している。そのため、かなりお高いらしい。
エヴォーラ400の驚きは、そのエンジンである。アルファードなどにも使われるトヨタの3.5リッターV6をよくここまでスーパーカーユニットふうに仕上げたものだと思う。
レブリミットは6500rpmと高くないが、下から分厚いトルクを発し、なによりスロットルレスポンスがすばらしい。右足のわずかな踏み込みにも倍返しのような吹け上がりを返してくれる。過給遅れのないスーパーチャージャーにこだわる理由がよくわかる。
見事に“ロータス化”が施されたエンジンは、アイシン製6段ATとの組み合わせでもまったく色あせない。そもそもこれだけトルク感に富むエンジンだと、ATのほうが相性がいいし、パドルシフトで簡単にシフトダウンができるせいか、回転に比例して高まるスーパーチャージャーの金属音もMTより頻繁に聞くことができた。ATだからといって、決して旦那っぽくならないのである。
もうひとつATを推したい理由はドライビングポジションだ。右ハンドルのMTモデルはペダルのオフセットが強く、下半身がかなり左にひねられる。これはエキシージにもエリーゼにもない難点だ。エヴォーラのモノコックのほうが大きいのに、納得がいかない。
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より軽く、よりパワフルに
2016年春からアメリカでも販売開始されるエヴォーラ400は、ロータスが満を持して送り込む対米戦略モデルである。
コーリン・チャップマンの時代から、ロータスの真価は「サーキット発」、「サーキットファースト」である。ラグジュアリーな価値も盛り込んだGTを米国市場で問うにあたって、さらに軽く、さらにパワフルにしたところが、いかにもロータスらしい。
ロータスの生産規模は、現在、年産2200~2300台。フェラーリの3分の1以下だ。2015年の日本での販売台数は約280台と見込まれ、これもフェラーリの3分の1ほどである。ロータスは“レアもの”なのだ。
それでも日本は今のところロータスにとって最大の輸出国だという。モデル別の販売比率はエリーゼが6割、エキシージが3割、残り1割のエヴォーラはレアもの中のレアもので、それがひとつの大きな魅力になりそうだ。
価格的には「ポルシェ911」の「カレラ4」や「カレラS」と肩を並べる。けれども、実際のところ911とエヴォーラを両てんびんにかける人はいないと思う。ヤイリのギターを買う人は、マーチンと弾き比べたりしないだろう。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
ロータス・エヴォーラ400(6MT仕様)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4390×1850×1240mm
ホイールベース:2575mm
車重:1395kg
駆動方式:MR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:6段MT
最高出力:406ps(298kW)/7000rpm
最大トルク:41.8kgm(410Nm)/3000-7000rpm
タイヤ:(前)235/35ZR19 91Y/(後)285/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
価格:1355万4000円/テスト車=1525万5000円
オプション装備:アルカンタラパック(65万3400円)/ブラックパック(38万8800円)/クルーズコントロール(7万5600円)/グロスブラック鍛造アルミホイール(58万3200円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2125km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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ロータス・エヴォーラ400(6AT仕様)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4390×1850×1240mm
ホイールベース:2575mm
車重:1425kg
駆動方式:MR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:6段AT
最高出力:406ps(298kW)/7000rpm
最大トルク:41.8kgm(410Nm)/3000-7000rpm
タイヤ:(前)235/35ZR19 91Y/(後)285/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
価格:1355万4000円/テスト車=1541万7000円
オプション装備:パドルシフト付き6段オートマチック(50万7600円)/メタリックペイント<ナイトフォールブルー>(23万7600円)/レザーパック(65万3400円)/ブラックパック(38万8800円)/クルーズコントロール(7万5600円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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