ロータス・エヴォーラ(MR/6MT)【試乗記】
新世代のモンスター 2010.06.07 試乗記 ロータス・エヴォーラ(MR/6MT)……1136万8000円
ロータスのミドシップスポーツカー「エヴォーラ」のスポーツレシオ6段MT搭載モデルに試乗。ノーマルモデルとの違いとは。
心乱れて
日経デジタルコンテンツ社の美人すぎる編集記者からメールが届いた。
「いつもお世話になっております。『webCG』で乗っていただくエヴーラ(原文ママ)ですが、エアコンが不調のようです。走行には問題ないのですが、エアコンは使用しないでくださいとのことです。
で、私がお迎えにあがる予定でしたが、乗ってみたら、クラッチが遠くて運転が……。申し訳ないのですが、待ち合わせ時間に編集部に来てもらうことは可能でしょうか」
もちろん可能です。
「ロータス・エヴォーラ」は、VVA(Versatile Vehicle Architecture)と呼ばれる独自のアルミシャシーにトヨタ由来の3.5リッターV6を搭載し、FRPボディをかぶせたモデルである。エンジン横置きのミドシップスポーツにして、運転席・助手席の後ろに「+2」のリアシートを設けた同社の意欲作だ。日本での受注開始は、昨2009年6月から。
今回試乗するのは、以前から告知されていたクロースしたギアを組み込んだスポーツレシオバージョンである。
ロー(3.54)セカンド(1.91)はノーマル6MTと同じながら、3速(1.22→1.41)4速(0.86→1.09)5速(0.79→0.97)6速(0.64→0.86)と、上のギアに行くほど相対的にギア比が落とされる。リバース(3.83)とファイナルギア(1-4速:3.78/5-6速:3.24)は同じまま。
ただでさえ速いエヴォーラの加速がさらに鋭くなり……との期待で盛り上がる一方、調子の悪いスポーツカーに乗るほどストレスがたまることはないし、途中で問題が生じると面倒……と表向きは心配しつつ、しかし胸の奥底では「さすがはバックヤードビルダーの末裔(まつえい)」と細かい不具合をどこか楽しく感じている自分がいて、ロータスの新作というのは、まったく心乱されるものである。
ロータスの挑戦
エヴォーラのコンディションに関する不安は杞憂(きゆう)だった。たしかにエアコンは効かなかったが、というか効かないかどうか試そうと「AC」と刻まれた銀色のボタンに指を伸ばすその気配を察してか、助手席の美人すぎる編集記者から「そのボタンには決して触らないでください」と釘を刺されたので、実際のところはわからない。
クラッチが遠いと聞いていたので、あたかも“クラッチケーブルが伸びた古いクルマ”のような状態を想像していたのだが、クラッチペダルが重めというだけで、普通につながる。
「ほら、足を伸ばすと体が沈んで、なんだか前が見えにくくて、それがイヤで……」と美人記者。あくまで気持ちの問題なのだが、着座位置も視線も低いほど賞賛されるスポーツカーが、女性にさっぱり受けない現実を目のあたりにした気分だ。
ロータス・エヴォーラ(2+2)の価格は892万5000円。+2をつぶして2シーターとする仕様も選べて、こちらは850万5000円。スポーツレシオの6段MTは、28万円のオプションとなる。今回の試乗車は、さらに、HDDナビゲーションシステムやクルーズコントロール、パーキングセンサーなどがセットになった「テックパック」(55万円)や、本革張りのドアトリムやセンターコンソールなど豪華内装となる「プレミアムパック」(42万円)、スポーツモードの切り替えスイッチやチタン製エグゾーストパイプ、クロスドリルドブレーキディスクがセットになった「スポーツパック」(18万円)などのセットオプションが追加され、1136万8000円という立派な価格である。
ボディサイズは、全長4370mm、全幅1850mm、全高1230mm。ポルシェのミドシップスポーツ「ケイマン」よりわずかに30mm長く、50mm広く、75mm低い。+2をもつエヴォーラのホイールベースは、「ボクスター」のそれより160mm長い2575mmだ。
スポーツカーは、特にロータスのような少量生産車は指名買いされる対象だから他車との比較は意味がない、という建前はあるけれど、やはりマーケティングは避けて通れない事柄で、エヴォーラはいわばロータスの「911」である。
エンジンを後輪車軸の後ろに押し出すことなく+2を設けたのは立派だが、「ハンドリングとバランスに妥協することなく、実用性を提供できるリアシートが存在する」とカタログにうたわれるほど後席は広くない。それどころか前席背もたれの後ろに足を差し込むのも窮屈で、上半身はねじるようにしないと頭が天井につかえる。それでもいざとなれば一人を放り込めるスペースがあるのとないのとでは大違いだということを、911を所有したことがある人なら即座に納得できるだろう(エヴォーラの乗車定員は4名だ!)。+2の存在は、911シリーズが連綿と続いてきた大きな理由のひとつである。
もちろん、イギリス・ノーフォークからの大型新人は、プアマンズ・ナインイレブンなどではない。むしろ911の牙城に挑んだ「ランボルギーニ・ウラッコ」だ!! ……というと、ハナシが飛びすぎる。
21世紀のスポーツカー
「東京−横浜」間の、エヴォーラとの短いドライブが始まった。幸か不幸か、5月だというのにひどく冷たい雨が降っている。
ロータス・エヴォーラは、やや無機質にすぎるフロントと比べて、斜め後ろから見た姿が美しい。野趣あふれる「エリーゼ」のデザインも魅力的だが、エヴォーラのそれは、大きくなったサイズを生かして抑揚豊か。エリーゼとの血縁を明確に示しつつ品よくまとめている。スポーツカーは他車を抜き去るものだから、後ろ姿は大切なのだ。
そんな大事なリアに、かつてのロータスは平気で“ハチロク”のテールランプを使ったりしていたものだが、いまはランプどころではない。エリーゼの4気筒に続き、今回はトヨタのV6エンジンを背負うが、もともとパワーソースにオリジナリティを求めないのがヘセルの自動車ビルダーである。
3456ccの排気量、ボア94.0mm×ストローク83.0mmといった数値は、たとえば「ヴァンガード」や「クラウンアスリート」「マークX」などと変わらない。最高出力280ps/6400rpm、最大トルク35.7kgm/4660rpmと控えめなアウトプットは、むしろロータスの自信の表れ、といったら褒めすぎか。今後、さらなるハイスペックバージョンが投入される伏線と見ることもできる。
ドアを開け、幅が狭くなったサイドシルをまたいでペタンと低い運転席に座る。インストゥルメントパネルは革で包まれ、シートもレザーのずいぶんとぜいたくな仕様だが、ところどころで顔を見せるアルミの構造材が、このクルマの出自を主張する。ライトや空調関係は、同じ形状の丸いボタンとダイヤルが用いられた無愛想なもの。足元にはそっけないアルミペダルが3本。
クラッチをつないで動きだせば、ハンドルを握る手と路面とのつながりが直接的で、いかにもロータスだ。前世紀のスポーツカーはこのフィールを出すのとひきかえに、ゴツゴツと無骨な、ときに不快な乗り心地になったものだが、21世紀のエヴォーラはたしかに締まった足まわりではあるが、市街地でも舗装の凹凸を上手にいなしてドライバーを感心させる。アルミモノコックボディの高い剛性感が印象的。足まわりは、鍛造アームを用いた4輪ダブルウィッシュボーン。ビルシュタインのダンパーと、アイバッハのスプリングが組み合わされる。
新鮮な喜び
強くなる一方の雨を、フロントの1本ワイパーがせわしなくぬぐっている。よりクロースしたギア比をもつ試乗車だが、シフトアップインジケーターが3つ、つまりすべてが点灯する7000rpm手前までギアを引っ張ると、ローで60km/h付近、セカンドではリミットにあたる手前で100km/hに達してしまう。スポーツギアをもつエヴォーラが本性を現すのは3速より上のギアだから、本当のありがたさを感じるのはサーキットへ持ち込んだときだろう。
それでもトントントンと早めにシフトしていくと、公道でも0-100km/h=5.2秒とうたわれる第一級の加速を楽しむことはできる。一方、低められたとはいえ100km/h時の回転数は2250rpm程度だから、クルージング中にやたらとエンジン音が耳につくということはない。
高速道路をしぶきを飛ばして走りながら、インパネ右端の「SPORT」ボタンを押す。アクセルを踏む操作に対するV6の反応がさらに敏感に、すこしばかり過敏に変わる。加速がさらに力強くなる。恨まれるのは、扁平率40、18インチのピレリPゼロがはね飛ばす舗装上の雨である。
スポーツモードでの瞬発力にも感銘を受けたが、またエンジンのマネジメントを変える仕組みはスポーツカーがいまの時代に折り合いを付けて生きていくのに必須のものだが、エヴォーラの場合、むしろスポーツボタンの存在を言い訳にしないノーマル時の軽快感がいい。不純物のない爽快な速さ、とでも形容できようか。何事にもダイレクトな運転感覚だ。過剰な演出に頼らず、素材のよさで勝負するスポーツカーである。
「ポルシェ911」がモンスターになりすぎて、豪華で快適な反面、「スポーツ」が少々遠くにいってしまったと感じている人に、エヴォーラは新鮮な喜びをもたらすと思う。3割がた安い価格も魅力だろう。そんなことを考えていると、雨でかすんだ向こうに、もう横浜のランドマークタワーが見えてきた。
後日、日経DC社の美人すぎる編集記者からメールが届いた。
「お忙しいところ恐縮ですが、エヴォーラーのテキストは、○月×日午前中に頂けると助かります」
エヴォーラー……。
語尾をのばした方が、怪獣っぽい響きになるな。短い逢瀬(おうせ)だったけれど、心に残る新世代のモンスターだ。
(文=細川 進(Office Henschel)/写真=河野敦樹)
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細川 進
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