ロータス・エヴォーラGT410スポーツ(MR/6MT)
ポジショニングの妙 2018.10.18 試乗記 416psのハイチューンエンジンと専用の空力デバイスを備えた「ロータス・エヴォーラGT410スポーツ」。ラインナップの隙間を埋めるエヴォーラの高性能グレードは、ベース車の美点を損なうことなく走りを高めた、絶妙な一台に仕上がっていた。商品構成に見るロータス流のサービス精神
そもそも「エリーゼ」に屋根をつけたのが「エキシージ」だったのに、その屋根を再び取り去って「エキシージ ロードスター」。……といった“行き当たりばったり”の車名は、ロータスの伝統のひとつである。それが悪いといっているのではない。むしろその逆だ。「○○への進化は基本的に歓迎でも、××だけは残してほしかった」だの「△△と□□を組み合わせてくれれば、すぐに買うのに」といった好事家たちの細かいワガママに、ロータスは真摯(しんし)に応えて、それを素直にネーミングしているだけともいえる。
考えてみれば、今回試乗したエヴォーラの「GT410スポーツ」という車名もエキシージ ロードスターに似て、行き当たりばったりというか“行って来い”の感が強い。
現在のエヴォーラの基礎となっているのは、2015年11月にマイナーチェンジ版として登場した「400」である。そして、そのエンジンをパワーアップすると同時に、エクステリアパネルの一部カーボン化や後席除去による軽量化、ローダウンも含めてシャシーをリチューンした高性能版として「スポーツ410」が登場したのが昨2017年の6月だった。
続いて、その2カ月後の同年8月にはエクステリアの空力対策、大型リアウイングの装着、よりハードなシャシー、そしてさらに出力向上したエンジンを投入した「GT430」が世界60台限定で登場。現時点ではこのGT430がエヴォーラの究極の姿である。
しかし、GT430は生産台数も少ないうえに2000万円近い高額にして、外観にはまさしくGTマシンばりのド派手なリアウイングがおっ立っており、しかもスポーツ410と同じく2人乗り……である。となれば、世の好事家たちが次にほしがるのが「究極の走りはそのままに、もう少し日常性を高めて、できれば価格も手ごろなGT」なのは容易に想像がつく。
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ディテールを見れば“立ち位置”が分かる
そんな好事家の細かなニーズに応え、2018年3月に登場したのがGT410スポーツだ。時系列を見れば、エヴォーラでは「スポーツ<GT」が命名の基本文法であり、GT410スポーツとはつまり、GT430から少しだけスポーツ410に“行って来い”したエヴォーラとも解釈できる。
3.5リッタースーパーチャージドV6エンジンが「410」相当の410bhp(ps換算では416ps)版になることも、GT430より手ごろな価格(といっても1500万円級!)の最大の根拠である。しかし、筋金入りの好事家間には「いやいや、エンジンも含めて走行メカニズムはすべてGT430と同じがいい!」との声も当然あるわけで、そうした細かすぎる(?)ニーズに応えて、GT410スポーツの翌月に早くも「GT430スポーツ」を用意したロータスはさすが……にすぎる(笑)。
というわけで、目の前にあるGT410スポーツは、GT430最大の特徴だった巨大リアウイングが省かれることもあって、パッと見は既存のエヴォーラとあまり変わりない。エクステリアのそこかしこにカーボン肌が透ける点は、以前にwebCGでもリポートしたスポーツ410と同様。ただ、GT430に施されていたエアロダイナミクス対策のなかで、大型リアウイング以外の空力部品はGT410スポーツにも受け継がれることもあって、そこはかとなく漂う不敵なオーラは、やはりスポーツ410とちょっとちがう。
GT430ゆずりのGT系専用空力部品には、フロントバンパーに施されたカナードとエアブレード一体ダクト、そしてリアバンパーの後方からリアタイヤがのぞける大型ダクトなどがある。これらのエアロダイナミクス対策によって、GT410スポーツは最大96kg(車速305km/h時)のダウンフォースを発生するという。そのダウンフォース量はもちろんウイングつきのGT430ほどではないにしても、エヴォーラ400の3倍、同スポーツ410の1.5倍にあたるのだそうだ。
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(ロータスにしては)文化的で文明的な車内空間
内装のながめもGT430に酷似する。ダッシュボードの助手席前に“HANDBUILD IN ENGLAND BY~”と担当職人名を刻んだ金属プレートがつくのは最近のロータスのお約束だが、今回最大のポイントは、後席が備わることだ。正確にいうと、スポーツ410やGT430が2シーター専用だったのに対して、GT410スポーツは、2シーターか2+2シーターを無料選択できる。
まあ、実際にはエヴォーラの後席はとてもまともな人間が身体をおさめられる空間ではなく、あくまで「運転席の背後に人間がいても違法ではない」だけではある。ただ、スポーツ410やGT430が2シーターであることを軽さの象徴としたのに対して、このクルマは同じ役物の軽量エヴォーラでありながら、4人乗りや控えめな外観といった点での日常性を大きな売りとするわけだ。
このGT410スポーツにかぎらず、エヴォーラのダッシュやフロア、サイドシルはすべてレザーもしくはカーペット張りで、室内からは骨格のアルミ素材がまったく見えない。そして、エリーゼ/エキシージより圧倒的に低くて薄いサイドシルで、乗降性はたとえばポルシェなどと大差なく、ごく普通の姿勢で乗り降りすることが可能だ。
さらに、ステアリングホイールもエリーゼやエキシージとはちがって一般的な大きさであり、チルトとテレスコピックの位置調整機能もつく。そのステアリングにペダルも含めた運転に必要とする筋力も、現代のクルマとしては大きめであることは事実でも、女性でもなんとか対応できそうなレベルにとどまる。
スパルタンで戦闘的なエリーゼやエキシージとは別物に文化的で文明的であるというエヴォーラの利点は、GT410スポーツでもまったく犠牲になっていない。
わずかだが明確にちがうドライブフィール
GT410スポーツのフットワークはGT430に準じるもので、エヴォーラの標準仕様にあたる400と比較すると明確に引き締まって硬質である(400と同等の「ツーリングサスペンションパッケージ」も無料選択可能)。
それでも「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」などという猛烈なタイヤを履いて、しかもアナログな固定減衰であることを考えると、その乗り心地が望外に快適というほかないのはいつものロータス。日本特有の目地段差を“タタン”と軽快かつしなやかに乗り越えていく所作は、そのビジュアルやスペックから想像すると、拍子ぬけするほど優しい肌ざわりである。
ただ、そこはよりハイグリップで高速性能を意図したチューンだけに、運転感覚に関してはほんのわずかではあるが400との差異がなくはない。たとえば直進性は十二分に優秀ではあるが、路面不整での反応は400より少しだけ敏感だ。そして、しかるべきワインディングロードに持ち込むと、運転のコツとリズムもわずかに400とちがう。
一般的な山坂道のターンインでは、スロットルからほんの気持ち力をぬくだけでスッと柔らかに荷重移動してピタリと吸いつく400に対して、前後左右に引き締められたGT410スポーツではより意識的な減速が必要となる。ただ、そうやって運転操作にメリハリを利かせて走らせると、その身のこなしは400より明らかに鋭く、それでいて姿勢変化も小さい。
それにしても、このステアリングやブレーキの“ナマ感覚”は絶品というほかない。もちろん、どちらにもアシスト機構が備わっていて、操作力そのものは前記のとおり重すぎるわけでもない。なのに、手や足に伝わる“返し”は、まるでノンアシストかのようにリアルで鮮明なのが素晴らしすぎる。ロータスのシャシーは「これって、なにをどうやってんの?」という魔法めいた美点にあふれているが、個人的にはステアリングとブレーキのタッチが、なかでも真骨頂と思う。
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エンジンに宿る本物の迫力
トヨタの「2GR-FE」をベースとした3.5リッターV6は10年弱前のスタート時は自然吸気で280psだったが、今や416psである。もともとの2GR系も大量生産エンジンとしてはけっこうエンスーな高回転型だが、さすがにプロが本気でイジッているだけのことはある。
エヴォーラのダッシュボードには「スポーツ」と「レース」という2つの走行モードボタンがあるが、今回の試乗車はアナログサスにして6段MT。モードによって変わるのはエンジンと横滑り防止装置(ESC)の制御のみだ。
スポーツモードもしくはレースモードになると、ノーマルでは6600rpmに抑えられていたレブリミットが7000rpmに解放されるとともに、回転数に応じて開閉していたアクティブエキゾーストシステムのバルブも常時開放となる。そうしてすべてのタガがはずされた410エンジンは、たしかに本物のチューンドの迫力がある。
低回転から高らかに響きわたっていた排気音は、5000rpm付近からはさらに絞り出すようなハイトーンに変化して、トルクそのものは6000rpmくらいでアタマ打ち感はあるものの、リミットの7000rpmまできっちりと回りきる。よくよく考えれば、ポート噴射に機械過給……という古典手法によるロータスV6は、回転リミットも現役過給エンジンでは高めである。
面白いのは2つの走行モードボタン以外に、排気管のアイコンが描かれたボタンがあり、ノーマル状態でそれを押すとエキゾーストバルブが常時開放の爆音モードとなることだ。スポーツ/レースモード時にそれを押すと逆にノーマル同様の低回転域でバルブが閉じて静かになるのだが、それをどういうときに使うかについては「騒音制限のあるサーキット走行などに」と説明書には書かれてあった。なるほど(笑)。
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エリーゼともエキシージともちがうロータス
このように、走行モードを切り替えると聴覚には明確な変化があるものの、スロットル特性やESCの制御は「そういわれれば変わっているような……」程度の軽微な変化にすぎない。それは結局のところ、どのモードも生真面目に突き詰めてしまうロータスの真摯さと、GT410スポーツのシャシー性能の高さ……の証左ということだろう。
今回はドライ路面での試乗しかできなかったこともあり、そのグリップ限界は筆者程度のウデと度胸では底知れないほどだった。すべての運転操作がドンピシャに決まったときの、わずかにテールを張り出したコーナー脱出姿勢に「これがESC制御のうまさ(とトルセンLSDの効果)か」と思わせられたりはした。しかし、ドライの舗装路であれば、路面が少しばかり荒れていようが、あるいはちょっと強引に振り回そうが、GT410スポーツはリアタイヤに根が生えたように安定しており、グリップを失うようなそぶりすら感じさせない。まさにアマチュアの手にあずけるミドシップとしては、お手本のようなシャシーである。
2+2シーターや乗降性をはじめとした日常性やインテリアの高級感を意識したエヴォーラは、一応ポルシェでいうと「911」を仮想敵としており、このGT410スポーツはさしずめ「カレラGTS」に相当する。ただ、この「硬質なのにしなやか」にして「アナログシャシー技術の極致」というべき味わいに、真っ先に思い出されるのはやはりエリーゼやエキシージだ。このクルマもまたロータス以外のナニモノでもない。
そのいっぽうで、エヴォーラは当たり前だがエリーゼやエキシージとは確実にちがう。他社競合車と比較するとハッキリと軽快だが、エリーゼ/エキシージよりは圧倒的に重厚で落ち着いており、肉体的な負担も小さい。そんなエヴォーラのキャラクターは、この「GT」を名乗る最高峰シリーズになってもまったく変わっていない。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ロータス・エヴォーラGT410スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4390×1850×1240mm
ホイールベース:2575mm
車重:1320kg
駆動方式:MR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:6段MT
最高出力:416ps(306kW)/7000rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/3500rpm
タイヤ:(前)235/35ZR19 91Y/(後)285/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:--km/リッター
価格:1468万8000円/テスト車=1640万5200円
オプション装備:メタリックペイント(23万7600円)/スパルコシート(73万9800円)/ブラックアルカンタラステアリングホイール(6万4800円)/クルーズコントロール(7万5600円)/防音仕様(5万4000円)/マッドフラップ(3万2400円)/クラリオン製SD AVナビゲーション<VICS/ETC2.0>(41万0400円)/インテリアカラーパック(10万2600円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2546km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:510.6km
使用燃料:75.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.7km/リッター(満タン法)/13.4リッター/100km(約7.5km/リッター、車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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