メルセデス・ベンツG550(4WD/7AT)

平和の象徴 2016.01.08 試乗記 今尾 直樹 デビューから36年を経た現在も高い人気を誇る、メルセデスのクロスカントリービークル「Gクラス」。4リッターV8ツインターボを搭載する最新モデル「G550」に試乗し、その魅力について考えた。
1979年に軍用車両の民生用として登場した「メルセデス・ベンツGクラス」。2015年12月の一部改良で、「G550」のエンジンが自然吸気の5.5リッターV8から4リッターV8ツインターボに変更された。
1979年に軍用車両の民生用として登場した「メルセデス・ベンツGクラス」。2015年12月の一部改良で、「G550」のエンジンが自然吸気の5.5リッターV8から4リッターV8ツインターボに変更された。 拡大
新しい意匠となったインストゥルメントパネルまわり。センタークラスターの上段には、3つのデフロックの操作スイッチが並んでいる。
新しい意匠となったインストゥルメントパネルまわり。センタークラスターの上段には、3つのデフロックの操作スイッチが並んでいる。 拡大
「G550」には、「G350d」ではオプション扱いとなる本革シートが標準で装備される。
「G550」には、「G350d」ではオプション扱いとなる本革シートが標準で装備される。 拡大
後席は3座式のベンチタイプ。前席と同じく、シートヒーターが標準で備わる。
後席は3座式のベンチタイプ。前席と同じく、シートヒーターが標準で備わる。 拡大
テールゲートは横開き式。ラゲッジルームの容量は、後席を起こした状態で480リッター、たたんだ状態で2250リッターとなっている。
テールゲートは横開き式。ラゲッジルームの容量は、後席を起こした状態で480リッター、たたんだ状態で2250リッターとなっている。 拡大
新たに採用された4リッターV8ツインターボエンジン。これまでの自然吸気エンジンを34ps上回る421psの最高出力と、8.2kgm上回る62.2kgmの最大トルクを発生する。
新たに採用された4リッターV8ツインターボエンジン。これまでの自然吸気エンジンを34ps上回る421psの最高出力と、8.2kgm上回る62.2kgmの最大トルクを発生する。 拡大

自動車が自動車であったころの自動車

隙間はあるみたいだけれど、鉄板の厚いドアはドンッと閉まる。さながら金庫のごとし。1980年代までのメルセデスが持っていた、かような金庫感覚が21世紀のこんにちなお、現行生産車で体験できるとは! ある種の奇跡である。ちなみにドアを開けるときはドアノブのボタンを押しながら引っ張らないと、絶対にあきまへん。

運転席はトラックに乗るみたいによじ登る。健康な足腰がいる。1979年に発売されたGクラスは、もともとNATO制式採用の軍用車である。ガラスを含めた面という面はいまどき珍しい四角四面の平面で構成される。

いつの間にかインストゥルメントパネルだけが妙に新しいわけだけれど、かつてゲレンデヴァーゲンと呼ばれたこの4×4クロスカントリービークルは、頑丈なラダーフレームと前後リジッドのサスペンションを持っている。後付けのぜいたくな内装と強力なエンジン以外は、機能主義が貫かれている。それはもちろん、戦場を駆け巡るために開発されたクルマだからだ。

G550は昨年のマイナーチェンジで登場した最新Gクラスの中核モデルで、メルセデスAMGゆかりの4リッターV8直噴ツインターボを隠し持つ。「メルセデスAMG GT」「C63」の心臓部と共通のコンポーネンツからなるそのV8は、ひとりのマイスターが1基を組み上げるAMG製ではないものの、最高出力422ps/5250-5500rpm、最大トルク62.2kgm/2000-4750rpmを生み出す高性能ユニットである。そんなものが、可変ダンパーシステムを持つとはいえ、ラダーフレームに前後リジッドのトラック用というべきシャシーに組み合わされている。世の中間違っとるよ、と歌いたくなる。いわばこれはモーガンにアメリカンV8を載せたようなものではないか。そういえば「ACコブラ」のようなスポーツカーもあったわけで、そうか、ラダーフレームに大排気量V8の組み合わせは、カルトカーを生み出す方程式なのだ……。

G550は現代の基準でいうと、ヒドいクルマである。前後275/55R19のタイヤは、当たりはソフトだけれど、乗り心地はトラックそのもの。体重100kgの巨漢5名と荷物を満載すれば別だろうけれど、硬くて跳ねる。落ち着きがない。速度は控えめなほうがよい。まっすぐ走らないように感じるから。それと、空気抵抗がいかにもでかいので、高速になるほど風切り音がでかくなる。車重が2560kgもあるから、ブレーキはお早めに。

Gクラスはつまり、クラシックカーなのだ。かつてのオリジナル「MINI」や「シトロエン2CV」、「フォルクスワーゲン・ビートル」や「ランドローバー」がそうであったように、自動車が自動車であったころの自動車を21世紀のこんにち、味わうことができる。

なんと、日本でGクラスをお買い求めになる人はキャッシュでの支払いが多いという。G550で1470万円もするのに……。中古車になっても値段が下がらない。投資の対象になるらしい。

なぜGクラスはいま、かくもオシャレな存在としてあがめ奉られているのか? つまりこれは、軍用車としての機能をいったん解体しているところに大いなる意味があるのではあるまいか。足元を見てほしい。こんなにステキなホイールを履いていたら絶対にオフロードになんて行けないでしょう。本当はいちばんうまいところを捨てているのだから、これほどムダで、それゆえ贅沢(ぜいたく)なことはない。

コンクリートジャングルをサバイブするための究極の民生用軍用車。メルセデス・ベンツGクラスは、平和の象徴なのだ。ピース!

(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)

【スペック】
 全長×全幅×全高=4575×1860×1970mm/ホイールベース=2850mm/車重=2560kg/駆動方式=4WD/エンジン=4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ(421ps/5250-5500rpm、62.2kgm/2000-4750rpm)/トランスミッション=7AT/燃費=--km/リッター/価格=1470万円

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