第433回:「プリウス」にはない魅力? アメリカで出会った愛すべき家電たち
2016.01.22 マッキナ あらモーダ!海外といえばモーテルだった
先週の「マッキナ あらモーダ!」で記したように、世界最大級の家電・エレクトロニクスショー「CES 2016(Consumer Electronics Show 2016)」を取材するため、ボクは米国ラスベガスに赴いた。
ラスベガスといえば、カジノが併設された高級高層ホテルである。
しかし、3800もの企業・団体が出展し、世界中のプレスが押しかけるため、そうしたホテルの料金はつり上がって、早くも2015年の秋ごろからは、ボクなどが泊まれる値段ではなくなってしまった。
開幕ひと月前になってようやくホテル検索サイトで見つけたのは、日本円にして1泊約1万2000円のモーテルであった。参考までに会期後の宿泊価格を照会してみると1泊5000円ちょっとだったから、会期中は2倍以上に設定されていたことになる。
街としてはコンパクトで、モノレールをはじめ公共交通機関が便利なラスベガスで、自動車による旅行者を対象にしたモーテルに泊まるというのはミスマッチだ。
しかしボクは、モーテルが好きである。
初めて泊まったのは、学生時代、ボクにとって海外初のドライブ旅行となったオーストラリアだった。前夜シドニー空港で借りた、赤いフルサイズのGMホールデンが、朝起きてみると窓の外でオージー・サンを浴びてきらきらと光っていたのは、今でも鮮明に覚えている。
続いて何度も訪れたアメリカでもモーテルを渡り歩いたものだ。レセプションは大抵、以前の泊まり客が送ってくれた絵はがきが貼り付けられていて、気のいいおやじさんが切り盛りしていた。レンタルしたオールズモビルの「カトラス」や「ビュイック・センチュリー」越しに派手なネオンがプールの水面に光を投げかけるさまを眺めていると、1960年代に時間旅行しているようであった。
今でこそヨーロッパにどっぷり漬かってしまったボクであるが、学生時代の海外経験は、クルマとモーテルだったのである。
そんな思い出から、そして幸いモノレールの終点駅に近いことから、そのモーテルを予約することにした。
「ここはフランスか!?」と思った
ラスベガスのマッカラン空港の到着ロビーには、CESにやってくるゲストを迎えるべく、オーディオメーカーに雇われたショーファーたちが並んでいた。
一方ボクは、乗り合いシャトルのチケット売り場に向かった。窓口で聞いてみると日本円にして往復で1700円ちょっと。復路は電話してピックアップ時刻を予約する手間があるが、なかなか良心価格である。
予約したモーテルは、マッカラン国際空港から乗り合いシャトルでわずか10分ほどのところだった。空港敷地の端っこにあたるため、金網の向こうにはCESにやってきたVIPのものと思われるビジネス機が何機も駐機している。
フロントに赴いて驚いた。3名のスタッフがずらっと並んでいて、ホテル然としている。対応は悪くないがビジネスライクだ。
カードキーをもらって部屋のドアを開けてみると、これまた機能的な調度品が備え付けられている。近年フランスで郊外にどんどん建てられているチェーン系ホテルのごとくである。ベッドの下にもモノが入れられるようスペースが作られている。だだっ広い部屋と機能性を無視した巨大家具という、昔の風情はみじんもない。
壁には薄型テレビが取り付けられている。かつてモーテルといえば、RCAのブラウン管式テレビが、クロゼットのような扉付き棚に収まって鎮座していたというのに、である。
トイレの水洗も、まるで「ボーイング747-400」以降の旅客機のごとく快適に流れる。昔、あるモーテルの流れにくいトイレを詰まらせ、バスルームを水浸しにする騒ぎを起こしたことがあるボクには隔世の感があった。
シンプルで強力な家電たち
そんなモーテルでのことである。コインランドリーのコーナーに行ってみると、ワールプール製の洗濯機が置いてあった。昔ながらの頑丈なボディーに付いている操作スイッチは極めて単純だ。コイン投入口のゴツさもいい。監視カメラに不審人物として映ることを承知で、懐かしさのあまりカメラのシャッターを切ってしまった。
やがて夜になった。昼間はコート不要なくらい暖かいが、日が落ちると急に涼しくなるどころか、いきなり寒くなる。砂漠に囲まれた街ならではの気候だ。
空調機は窓の下にあった。米国キャリア社のものである。スイッチオンすると、いきなり「ブォーッ!」とごう音をたてて、部屋は一気に南国のように暖かくなった。
いや、暖かいを通り越して暑い。調節を試みたが、あまり変化はない。あまりのオール・オア・ナッシング感覚に一瞬戸惑ったが、ボクが薄着になればいいのだと気づき、Tシャツ姿になることにした。
こちらの操作ダイヤルも、「暖房・冷房切り替え」と「温度調節」のふたつだけである。いいなあ、このシンプルさ。
そういえば、ボクが幼いころ通っていた教会に設置してあったクーラー(エアコンではない)もこんな感じだった。牧師が米軍基地の知人からもらってきたGE製の中古品で、スイッチオンすると建物全体を揺らすような振動とともに起動し、やまない騒音は賛美歌をかき消した。そして室外だけでなく室内にも水がポタポタ垂れて、木製の床を侵食した。それでも吹き出し口から出る冷気はハイパワーで、(行ったことないけど)南極のごとく冷えたものだ。
なお結婚してから知ったことだが、かつて女房の実家にも払い下げ品のクーラーがあって、「夜中は近所迷惑になるから切るくらい、うるさかった」らしいが、効きは最高だったという。
「あの音」だけは聞こえてこない
なんとシンプル、いや、ぶっきらぼうな家電たちよ。それは昼間、CESで「ドア閉めのアクションを行うたび庫内を自動撮影し、何が入っているか教えてくれる冷蔵庫」といったアジアブランド製ハイテク家電を取材した後だけに、さらに印象的だった。
そこで思い出したのは、あるドイツ車のチルトステアリングだ。
そのドイツメーカーの北米工場で製造する北米仕様車は、チルトステアリングを電動ではなく手動にする場合があるというのだ。
理由は、あるサプライヤーの人に聞いてわかった。「北米工場が規定の製造品質レベルに達せず、壊れる可能性が高いものは、極力排除する。シンプルでも確実に動作する信頼性をとるほうが、米国市場に合致する」のだそうだ。
高機能を追求するのと同様に、誰もが簡単に、かつ壊れにくい「これでいいのだ」的設計も、商品を企画するうえでの選択なのだ。
日本ではより繊細な調節ができるモノが高級とされる。その価値観に影響されて、ヨーロッパも日本的な「おもてなし」感覚を導入してきたジャンルが少なくない。
アメリカのクルマもしかりだ。かつて極めて各種操作が単純だったアメリカ車だが、1990年代の3代目「キャデラック・セビル」あたりから妙にヨーロピアンカーづいて、車両を買ってから手放すまで使わないであろう余計な操作スイッチが増えてしまった。
そうしたなか、ラスベガスのモーテルのトラディショナルなエアコンと洗濯機は、久々にアメリカ的モノづくりを感じさせてくれた。同時に、あまりにハイテク武装であまりにお利口になってしまった今日の最新商品よりも、数倍フレンドリーに映ったのだった。
でも待てよ。何かアメリカ風情が足りない。「音」である。そう思ってカーテンを開けてみれば、駐車場にたたずむクルマの大半は日本か韓国ブランドだった。それもハイブリッドの「プリウス」が何台も目に飛び込んできた。なるほど、V8 OHVが発する、あのドロドロというエンジン音が聞こえてこないわけだ……。
(文と写真・イラスト=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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