ランボルギーニ・アヴェンタドールLP750-4 スーパーヴェローチェ(4WD/7AT)
きっと霊験もあり 2016.01.29 試乗記 パワーアップと軽量化によって、一段とどう猛に仕立てられた「ランボルギーニ・アヴェンタドールLP750-4 スーパーヴェローチェ」に試乗。2.03kg/psというパワー・ウェイトレシオを豪語する“荒ぶる神”を、いざ公道に解き放つ。神々しく、禍々しい
キリリと澄んだ冬空にくっきりと浮かぶ富士山が見えた。何だかとってもご利益がありそうなめでたく、ありがたい、新春を寿(ことほ)ぐにふさわしい風景だ。ランボルギーニに乗る時はいつも天気に恵まれているような気がする、と浮かれ気分で箱根の山道を進んだところ、峠を上り切った先の日陰のコーナーの路肩に、早朝に降ったばかりとおぼしき雪を発見してたちまち戦意喪失。まぶしい陽光のおかげで膨らんでいたわずかばかりのやる気もいっぺんに萎(しぼ)んでしまった。
雪ばかりでなく、日陰の路面にはむしろ雪よりも厄介な融雪剤が残って黒く光っている。車名が示す通り、アヴェンタドールはハルデックスカップリングを備える4WDではあるが、こんなところで、要らぬリスクを冒す必要はない。それでも恐る恐る足を踏みだす、というほどには神経質になる必要がないのが最新のスーパースポーツである。ごく普通に走るだけなら、そして限られた視界にさえ慣れれば、イージーと言ってもいいほどの扱いやすさを備えているのは既に確認済みである。
とはいえ、全幅2m超のスーパースポーツで雪が残る狭い山道を走るのだから、慎重にならないほうがおかしい。しかもこれはスタンダードモデルよりさらにパワフルな750psを誇るアヴェンタドールSV(スーパーヴェローチェ)、ランボルギーニ史上最速というスペシャルモデルなのだ。
これまでにも何度か、天候が急変した中を高性能車で切り抜けるという羽目に陥ったことがあるが、あの頃の緊張感はこんなものではなかったように思う。いわゆるスーパーカーには、はっきりとは分からないが、危険な魔物が手招きしているようなヒンヤリとした気配が常にまとわりついており、いつ切り立った尾根から突然突き落とされることになるかと四六時中ピリピリしていたような気がする。自動車に道具以上の価値を見いだすわれわれのような車バカにとって、神々しさと禍々(まがまが)しさが同居しているアヴェンタドールは異形の荒ぶる神そのものである。ありがたい神様は時に災いをもたらすものでもあるが、最近はずいぶんと丸くなり、めったなことでは癇癪(かんしゃく)を起こさなくなったのである。
コンマ1秒の違い
幸い日当たりのいい尾根筋の道はほぼ安定したドライ路面だった。そこであらためてアヴェンタドールSVのエンジンをフルに回してみる。SVを簡単に説明すると、カーボン素材を多用してスタンダードのアヴェンタドールから重量を削り取り、よりパワフルなエンジンを搭載したスパルタンなモデルである。エンジンはもはやご神体ともいうべき6.5リッターV12を引き継ぐが、最高出力の発生回転数がスタンダードモデルよりさらに150rpm引き上げられ、8400rpmで50ps増しの750ps(552kW)を生み出す。この大排気量にして最高許容回転数は8500rpmという。最大トルクは70.4kgm(690Nm)/5500rpmと標準型と変わらない。
いっぽう、ボディーではフロントバンパーやサイドステップ、リアのディフューザー、固定式となったリアのインテークダクトなどがカーボンファイバー素材に変更され、標準型よりも50kg軽量化されている。ドライウェイトは1525kg、当然パワー・ウェイトレシオも改善されて2.03kg/psを豪語するが、さまざまなオプション装備が加えられていることもあって、車検証に記載されている実際の車重は1840kgである。カタログ値と実際の車重に大きな差があるのはランボルギーニの例にもれない。0-100km/h加速はスタンダードモデルに比べて0.1秒速い2.8秒というが、正直言って一般路上で加速の違いは感じられない。たぶんテストコースで計測器をつけても有意差は認められないと思われるが、いずれにしろ恐ろしく速いことに変わりはない。最高速は350km/h以上という。
そもそも6000rpmぐらいから明確に咆哮(ほうこう)を上げ、猛然と爆発的にリミットめがけて上り詰めるエンジンの回転数を、デジタルバー表示のタコメーターできちんと確認する余裕がない。右隅にはデジタル数字でも回転数が示されているが、トップエンドはとにかく恐ろしい勢いで数字が瞬くために、一般路上では正確に読み取れないのだ。
さらに文化的に
もともと超絶なパフォーマンスが、さらにどれほど向上したかは定かではないが、新しいシステムによる恩恵は明らかだった。アヴェンタドールSVには磁性流体を封入したアダプティブダンパーが採用されている。これはアウディではマグネティックライドと称している可変ダンピングシステムで、おかげで通常走行時の乗り心地とスタビリティーがより洗練されている。またランボルギーニ・ダイナミック・ステアリングと呼ぶ可変レシオのステアリングも初採用、どちらも最新の「ウラカン」には既に採用されている技術だが、まずは限定モデルのSVに導入されたというわけだ。そうそう、言い忘れたが昨年のジュネーブショーでデビューしたアヴェンタドールSVはクーペが600台、ロードスターが500台の限定モデルであり、クーペは既に完売しているという。
より洗練された文化的な乗り心地を備え、可変レシオステアリングのおかげで普段の扱いやすさも向上したアヴェンタドールSVではあるが、ストラーダ/スポーツ/コルサと3段階設定されたドライブプログラムのコルサ(レース)を選び、自然吸気V12を高々と轟(とどろ)かせる段となれば、それなりの覚悟が必要だ。かつてのミドシップ・スーパースポーツとは別次元のシャープな回頭性、路面が荒れているところではビクビクッと針路を乱すほど締め上げられた足まわり、容赦なくガツンと変速する7段AMT、そして際限なく猛(たけ)り狂うエンジン。人当たりが良くなったように見えても、荒ぶる神の真の姿は何ら変わっていないから、十分な敬意をもって接しなければならない。
このままずっと
普通に走るのであれば誰にでも転がせる、その社交性というか、とっつきやすさが現代的と言うのなら、アヴェンタドールSVもまさしくそうだ。それでも、超高性能車がPHVに衣替えしていく今、アヴェンタドールだけはむしろクラシックな品格を身につけていると言えるかもしれない。それはデジタルゲーム感覚のコックピットの中にあって、いまだに余計なスイッチ類を持たないシンプルなステアリングホイールや、ほれぼれするようなアルミ一枚板のでかいスロットルペダルなどにも感じることができる。スーパーな車には滑り止めのポチポチがついたアルミカバーなどはふさわしくない。古い人間はそういう部分に手を合わせるのだ。
税込み価格で5200万円弱、総額400万円以上のオプションを加えて5600万円あまりのSVはもちろんごく限られた人のための特別な車である。できれば、歌の文句じゃないけれど、あなただけは変わらずにいてほしい。畏敬しながら遠くから遥拝(ようはい)する私たちのためにも。
(文=高平高輝/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・アヴェンタドールLP750-4 スーパーヴェローチェ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4835×2030×1136mm
ホイールベース:2700mm
車重:1525kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:6.5リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:750ps(552kW)/8400rpm
最大トルク:70.4kgm(690Nm)/5500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 92Y/(後)355/25ZR21 107Y(ピレリPゼロ コルサ)
燃費:16.0リッター/100km(約6.3km/リッター、欧州複合モード)
価格:5179万2353円/テスト車=5621万4629円
オプション装備:エクステリアカラー<Rosso Bia>(136万4256円)/ボディー SVロゴ(27万2808円)/クリアエンジンボンネット(22万7340円)/カーボンファイバー X型フレーム&T型エンジンカバー(64万1196円)/ハイグロスブラック Diantus フォージド20/21インチホイール+レッドセンターロッキング(40万9212円)/ディテール カーボンファイバー仕様 フル電動&ヒーティングシートシステム(40万9212円)/リアビューカメラ(20万4660円)/パーフォレーテッドレザー仕様ステアリング(8万1216円)/SVインテリア アドペルソナムカラー(27万2808円)/カーボンファイバーフットプレート(13万6404円)/ブランディングパッケージ アルカンターラ(14万5044円)/トラベルパッケージ(10万8756円)/カーボンスキン ルーフライニング(14万9364円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1958km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:288.4km
使用燃料:81.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:3.5km/リッター(満タン法)

高平 高輝
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