ランボルギーニ・アヴェンタドールLP700-4(4WD/7AT)
クルマと言うより縁起物 2014.04.22 試乗記 トップカテゴリーのレーサーすらしのぐパワーや、路面に貼り付くようなハンドリングだけが、「アヴェンタドール」をして“スーパー”たらしめているわけではない。その低く、幅広く、異様なまでの存在感に満ちた外形が、人々の心に畏れを抱かせるのだ。東京から一路、西へ。伊豆のワインディングロードで試乗した。もはや神々しい
サーキットやテストコースではなく、ごく当たり前の風景の中に佇(たたず)むアヴェンタドールは、思わず手を合わせたくなるような存在である。その異様なオーラを浴びると、車の形が生み出す“力”は、グリルやヘッドランプに手を入れてダイナミックかつスポーティーなルックスに一新しました……などという色あせた宣伝文句ではまるで言い表せないことがよく分かる。車全体のフォルムはもちろん、ディテールを矯めつ眇(すが)めつしても、そこには自然の摂理というか必然性を感じてしまう。秘密のスイッチを押せば空を飛ぶことも可能、と言われても素直に信じてしまうようなランボルギーニのフラッグシップモデルである。
だから乗り込む前にはパンパン、とかしわ手を打って今日一日のご加護を祈ろう。お天道さまに日々の恵みを感謝するように、あるいは力士の体に触ったり、赤子を抱いてもらったりして、その力のお裾分けを願うのと似たようなものだ。“力びと”たるアヴェンタドールが発振するのはもはや迫力などというものではなく、生きるためのエネルギーを授かり、ご利益を分けてもらうための霊験とか神性と表現すべきものかもしれない。
そんな有り難い御神体のような車を評して、扱いやすくなったとか、実用性が向上したなどと本来は言うべきではないのかもしれない。縁起物に使い勝手を求めるほうが間違っている。だが実際に、かつてのランボルギーニではちょっと不安になるほど長めのクランキングを要したエンジン始動も一触即発、グワッとひと吼(ほ)えした後はオートモードを選んでスロットルペダルを軽く踏めば、ごくごく普通に従順に走りだすし、巨大なカーボンセラミックディスクのブレーキも気難しさは一切感じさせない。ドライビングポジションもまっとうで、空調もまったく問題ない。時代は変わったのだと呻(うな)らざるをえない。
敷居の高さの捉え方
いや、時代が変わったと言うよりも、私が年を取っただけかもしれない。そんなの当然でしょ、とひと言で片づけられてしまうのが現代である。以前に比べて、という相対的な説明には限界があり、立場や世代によって受け止め方はまったく違うということを、つい先日ある若手編集者と話してあらためて思い知らされた。私を含めたオヤジ数人は、プジョーの新しいETG5トランスミッション、いわゆるロボタイズドMTが、フォルクスワーゲンやフィアットの同種のものよりずっと洗練されて使いやすくなったと感心していたところ、若者は「こんな使いにくいんじゃ皆駐車場の壁に突っ込んでしまいますよ」とばっさり。え、これすごく良くなったのに、と若者との評価の違いにびっくりしてしまったのだ。見違えるように扱いやすくなったというのは、固着してしまったのかと勘違いするほど重いクラッチや、回転が合わないと肘鉄を食らうようにはね返されるゲート付きマニュアルギアボックスの時代と比べての話。あくまでランボルギーニとしては、スーパーカーとしては、と若者に念を押しておこう。
このような進化がより多くの人に受け入れられたことは、セールスの数字が証明している。何しろ創立50周年を迎えた昨年2013年には、1000台ものアヴェンタドールを販売したという。これはランボルギーニの総販売台数のほぼ半分に相当する。4300万円ものスーパーカーとしては驚異的な数字と言っていいだろう。ちなみにこの車は800万円余りのオプション装備込みで総額5100万円を超える。
さらに付け加えれば、最新のヨーロッパ仕様はスタート&ストップシステムに加え、V12の半分を休止させる可変シリンダーシステムさえ備わっているという。経営権が二転三転する中で、火の消えたようだった20年ほど前の本社工場を思い出せば、まことに信じられない思いだ。諸行無常、有為転変の世の中で夢のように消えて行ったスーパーカーも多い中、再びV型12気筒をミドシップして生まれ変わったアヴェンタドールを見るだけで、有り難いと感じてしまうのである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
700psの自覚を
車名が示す通り、アヴェンタドールはカーボンモノコックの背後に700ps/8250rpm、と690Nm(70.4kgm)/5500rpmを生み出す6.5リッターV12を搭載し、ハルデックスカップリングを介して4輪にそのパワーを分配するミドシップ2シーターである。700psと言葉にするのはたやすいが、この数字はもうF1マシン並み、日本のレースの最高峰であるスーパーGTを戦うGT500レーシングカー(ルールによって出力が抑えられている)よりもはるかにパワフルなのである。したがって、街中を流す際にどれほど従順だといっても、そのパワーを路上で解放するにはそれなりの覚悟と経験が必要だ。最高速は350km/h、0-100km/h加速はわずか2.9秒と発表されている。どこからどう見てもスーパーである。
6.5リッターもの大排気量にもかかわらず、新型V12は8250rpmまで(自動シフトアップは8000rpm弱)猛然と回る。もともと有り余るほどのパワーに、5000rpmを過ぎた辺りからもう一回り大きな波が加わるような感覚で、しかもその回転フィールにはかつての「ディアブロ」や「ムルシエラゴ」のような力ずくで吹け上がるラフな禍々(まがまが)しさがない。スムーズというには骨太すぎるが、自由自在に扱える洗練度を備えていることは間違いない。
ISR(インディペンデント・シフティング・ロッド)と称するセミATトランスミッションも2年前に試乗した初期型と比べると改良されているようで、一番アグレッシブなコルサ・モードでのシフトショックもだいぶ洗練され、ガツンというたけだけしいショックと音がそれほど気にならなくなっている。4WDシステムのおかげでまずほとんどの場合、貼り付くように安定してコーナリングするが、そのマスとパワーを忘れてはいけない。アヴェンタドールのドライウェイトは1575kgとされているが、車検証上の重量は1820kgと実は大きな違いがある。知らず知らずに速度が乗ったこの車を減速させるには、カーボンブレーキをしっかり作動させるかなりの踏力(とうりょく)が必要になる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
SUV? 本当に?
異形であり、異端であり、ド外れているのがランボルギーニである。人間は世の中の常識や共同体の規範から外れたものを畏怖し、スピリチュアルな権威を与えてきたはずだが、それゆえにランボルギーニは禍々しさと神々しさを併せ持つ孤高のスーパーカーと見られてきたのではないか。その有り難さの前には、アルミニウムに見せて実は樹脂製のトリムとか、タフさを演出する露出したナットが意外にチャチに見えること、あるいはデジタルグラフィックでアナログ表示されるメーターがゲーム感覚であるといったことはささいな点といえるだろう。
それにしても、だからこそ、SUVなど作ってほしくはない。生き残るためだ、ビジネスのためだと言われても、それでは他のメーカーと同じになってしまう。確かに「LM002」というとんでもない前例はあったけれど、あのスーパーオフローダーは、今世間一般に言われるようなSUVとはまるで別物で、スムーズに走らせるのは「カウンタック」よりよほど難しかった記憶がある。ランボルギーニは、うわさの「ウルス」が登場した暁には現在の2倍程度の生産規模を計画しているという。大丈夫だろうかという心配と、ランボルギーニのSUVが果たしてどのようなものか見てみたいという大きな期待が胸の中でせめぎ合っている。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・アヴェンタドールLP700-4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4780×2030×1136mm
ホイールベース:2700mm
車重:1575kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:6.5リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:700ps(515kW)/8250rpm
最大トルク:70.4kgm(690Nm)/5500rpm
タイヤ:(前)255/30ZR20 92Y/(後)355/25ZR21 107Y(ピレリPゼロ)
燃費:16.0リッター/100km(約6.3km/リッター)(1999/100/EC 複合モード)
価格:4317万3000円/テスト車=5146万7292円
オプション装備:スペシャル・エクステリア・カラー“Verde Ithaca”<グリーン>(134万3196円)/フロント20インチ&リア21インチ ディオーネ・ ホイール<マット・チタン>(89万5860円)/クリア・エンジンボンネット(86万4000円)/パーフォレーテッド・レザー・ステアリング(9万1800円)/エクステリア・カーボンファイバー・パッケージ<フロント>(62万676円)/エクステリア・カーボンファイバー・パッケージ<リア>(84万2400円)/エクステリア・ディテール<カーボンファイバー>(31万3740円)/Tシェイプ・エンジンカバー<カーボンファイバー>(27万円)/フル電動&ヒーテッド・シート(44万2800円)/スポルティーボ・インテリア(24万8400円)/カーボンファイバー・エンジン・ベイ・トリム(44万3340円)/インテリア・カーボンファイバー・パッケージ(128万5740円)/パーク・アシスト<センサー+リアビュー・カメラ>(51万8400円)/ブランディング・パッケージ<レザー>(11万3940円)※価格はいずれも8%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型(製造年は2013年、車検証登録年は2014年)
テスト車の走行距離:2207km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:376.1km
使用燃料:90.3リッター
参考燃費:4.2km/リッター(満タン法)