メルセデスAMG GLE63 S 4MATIC(4WD/7AT)
究極を感じさせないSUV 2016.02.10 試乗記 「Mクラス」改め「GLE」と新たな名前が与えられたメルセデス・ベンツのミディアムサイズSUV。その頂点に君臨する585psのスーパーSUV「メルセデスAMG GLE63 S 4MATIC」に試乗した。まだまだ増えるSUV
結局、この先もひとり超然としていられるのはフェラーリだけなのかもしれない。そこにビジネスチャンスがある限り、見て見ぬふりはできないのが商売の常。それどころか積極的に陣地を取りにいかなければ、いつ足をすくわれるか分からない。それにしても、である。ロールス・ロイス/ベントレーなどの超名門にとどまらず、マセラティ、ランボルギーニといった世界有数のスポーツカーブランドまで高性能プレミアムSUVセグメントに参入することなど、ひと昔前には想像もできなかった。そもそも米国発祥のSUVはピックアップと同根で、多少手荒く扱ってもへこたれない頑丈さとタフさが売りだったが、ラグジュアリーかつオンロード志向のスタイリッシュで洗練されたモデルが増えた今では同じ頭字語で示すのは無理がある。大きくタフで走る路面を選ばない走破性を備えた多用途ステーションワゴン、などという昔ながらの定義づけは見直されなければいけない時代ではないだろうか。
20年あまり前にアラバマ州タスカルーサに工場を建設し、最重要市場でのMクラスの現地生産に乗り出したメルセデス・ベンツはこの分野のフロントランナーのひとりだから、後発組に後れをとるわけにはいかない。本国ドイツでは昨2015年をSUVの年と称したように、ニューモデルを投入してラインナップの一新を図ってきた。いわばマイナーチェンジだが、Mクラス改めGLEと新たな名前を与え、同時にBMWの「X6」の対抗馬と目される「GLEクーペ」を追加したのもその一環である。ちなみに今後は「GLA」、「GLC」(従来の「GLK」)、「GLS」(従来の「GL」)というように、それぞれ「A/C/Sクラス」と対応するネーミングで呼ばれることになった。
日本仕様は当面2車種
というわけでミディアムサイズのSUVは新たにGLEと呼ばれる。本国仕様にはV6とV8のガソリン、4気筒のディーゼルターボなど多様なエンジンがそろっているが、日本市場向けは3リッターV6ディーゼルターボを積む「350d」(3グレードあり)と、シリーズ最強の5.5リッターV8ツインターボを搭載する「63 S」だけという思い切ったラインナップだ。値段はベーシックな「350d 4MATIC」が868万円、「GLE63 S 4MATIC」は2倍の1740万円と大きな違いがある。将来はプラグインハイブリッドを含めモデル数が増えるはずだが、当面ノーマル系はV6ディーゼル+9Gトロニック、AMGはハイパワー版(S)のV8ツインターボにAMG専用7段ATというパワートレイン(すべて4MATIC)になる。
基本骨格は従来型Mクラスを踏襲しており、2915mmのホイールベースなどの寸法も事実上変わりないが、内外装デザインは最新メルセデスの流儀にのっとって一新されている。今にして思えば初代Mクラスは、ラグジュアリーで洗練された現行モデルとはまったくレベルの違うSUVだった。シビアな見方をすればややガサツと言ってもいいほどだが、その分へこたれない道具感があり、それはそれで使いやすかったものの、メルセデスにふさわしいクオリティー感にはいささか欠けていたと言えるだろう。当時もそのように評価した覚えがあるが、同じく米国工場製で生産される新しいGLEはどこから見ても上等で、なるほどプレミアムである。
さらりと速い
静かにスムーズに滑らかに走りだすことからも上質感が伝わってくる。車重はほぼ2.4トンにも達するヘビー級ながら、鈍重な挙動は一切見せずにスルスルと動き出す。もちろん、加速が必要な場合はスロットルペダルを少し踏み込めば、430kW(585ps)/5500rpmと760Nm(77.5kgm)/1750-5250rpmというスーパースポーツカーのようなスペックを誇る5.5リッターの直噴ツインターボが気軽に反応し、とんでもないパフォーマンスを涼しい顔でさらりと発揮するところが今時のAMGである。「カイエン ターボS」の0-100km/h加速が4.1秒なら、こちらは4.2秒! 事実上同格の究極の高性能SUVだが、普段はそうと感じさせない洗練度が見事、AMGといえども今では明らかにラグジュアリー志向がうかがえる。
しかも普通に走る限りは実に静かだ。かつての名機、6.2リッターV8自然吸気エンジンは、打てばガツンと響く手応え(踏み応え)と、バリバリバリリと吼(ほ)える硬質なサウンドと回転フィーリングが自然吸気大排気量エンジンならではの魅力を主張していたが、こちらのツインターボはスポーツモード以上を選んで深く踏み込んだ時だけ、ベリベリベリというアメリカンな排気音(とスロットルオフ時のアフターファイアのような音)を吐き出すようにプログラムされている。
通常時はFWD(前輪駆動)で、必要な時だけ電子制御カップリングが後輪にも駆動力を伝えるというオンデマンド式が最近のSUVのトレンドのようだが、GLEの4MATICはそれとはやはり違う。雪道などには踏み入ってはいないが、前後アクスルが常時ガッチリと歯車で結ばれている安心感、ソリッド感が頼もしい。例えば雪道などの滑りやすい路面でスロットルを軽く踏む、あるいはちょっと戻すといった瞬間に即応するダイレクトで間髪入れずのレスポンスは心強いはずである。ちなみにノーマル系は前後50:50、AMGは40:60とこれまで通り後輪寄りの駆動力配分である。
乗ると欲しくなる
必要な場合は猛然と走り、普段は静かでラグジュアリーな雰囲気を保つGLE63 Sはほぼ万能のスーパーSUVといえるが、ちょっとだけ気になったのがチョロチョロと微妙に落ち着きのないステアリングである。これは走行車線を外れないようにサポートしてくれるアクティブレーンキーピングアシストの影響だと思うが、かえって微妙な違和感を覚えることがあった。直進性に問題があるというわけではなく、人によっては気にならないかもしれないが、ステアリングがムズムズしてなんだか落ち着かないと感じる人は、私と同じようにアクティブ機能を外して確認してほしい。また乗り心地は基本的に滑らかでフラットながら、路面と速度によってはわずかに細かな上下動が残るように感じた。センターコンソールのダイヤルでスポーツあるいはスポーツ+モードを選んでエアマティックサスペンションを締め上げ、ビシッと踏み越えたほうが気にならないように感じた。この辺りはスルリフワリと嘗(な)めるように不整を乗り越えるレンジローバーとメルセデスの違いかもしれない。メルセデスは踏みつけて走るのが似合う、と私は思う。
こんなに豪勢で高性能なSUVなど必要ないと思いながら乗るたびに、都会と田舎を往復するような生活をしているならばぜひ欲しい、と心が揺れる。GLE63 SはそんなSUVの最右翼である。
(文=高平高輝/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
メルセデスAMG GLE63 S 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4855×1965×1760mm
ホイールベース:2915mm
車重:2390kg
駆動方式:4WD
エンジン:5.5リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:585ps(430kW)/5500rpm
最大トルク:77.5kgm(760Nm)/1750-5250rpm
タイヤ:(前)295/35ZR21 107Y/(後)295/35ZR21 107Y(ピレリPゼロ)
燃費:7.4km/リッター(JC08モード)
価格:1740万円/テスト車=1751万1000円
オプション装備:ボディーカラー<ダイヤモンドホワイト>(11万1000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2335km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:308.0km
使用燃料:50.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.1km/リッター(満タン法)/5.8km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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