ランドローバー・レンジローバー スポーツ オートバイオグラフィー ダイナミック(4WD/8AT)/レンジローバー イヴォーク SEプラス(4WD/9AT)/ジャガーFタイプ R AWD クーペ(4WD/8AT)/XEポートフォリオ(FR/8AT)
雪山は招くよ 2016.02.17 試乗記 ランドローバーの走破性の高さは誰もが知るところ。今回は雪道を舞台に、「レンジローバー スポーツ」と「レンジローバー イヴォーク」で、山ありモーグルあり一般道ありのスノードライブに出掛けた。併せて、特設コースで「ジャガーFタイプ R AWDクーペ」の“雪上ハンドリング”をチェックした。4WDのありがたみ
白く輝く北アルプスの峰々とランドローバー。まさに絵のような、誰からも文句が出ない鉄板の組み合わせだ。圧倒的な伝統と実績に裏打ちされた逞(たくま)しさが、どんなに深い雪道でも、どれほど荒れた天気でも物ともせずに踏み入っていけるという安心感を与え、“男子”の単純な冒険心を刺激する。もちろん、たとえ真冬の北アルプスのお膝元、白馬周辺とはいえ、暖冬のうえに除雪が行き届いた一般道など、世界の辺境で、それこそベリーズのジャングルからナミビアの砂漠まで世界中の過酷な舞台で活躍するランドローバーにとっては、朝飯前のお茶にもならないぐらいである。実際、地元のフツーの軽自動車が元気に行き来しているように、本格的な4WD車でなければ雪国で暮らせないというわけではない。スタッドレスタイヤさえ履いていれば、平凡な前輪駆動(FWD)でも立派に役に立つ。経験がない人にはなかなか実感として分かりにくいのだが、降雪地帯に暮らす人たちが、雪が降るたびにすくんでいては冬の間の生活が成り立たない。皆さん経験と知恵を生かして雪と付き合っているのである。では、冬になるとどのメーカーもこぞって雪上試乗会のようなものを企画するのは何のためか。誤解を恐れずに言えば、経験と知識が足りないドライバーをアシストしてくれる能力をアピールするためだ。悪コンディションでの限界能力がより高い4WDは多少のコンディション悪化など気にせずに、フールプルーフに走ることができる。そういう4WDを腕のある人が高いレベルで使いこなせばプロの道具になるというわけだ。
誰もがランドローバーを必要とするわけではないけれど、週末ごとに高速道路を飛ばして白馬の別荘へ駆けつける、というような夢の生活を妄想すると、やはり「レンジローバー」や「ディスカバリー」が、いや「ディスカバリー スポーツ」や「イヴォーク」でもいいけれど、そんなオールラウンダーがあれば理想的だ。ドライの高速道路では快適で安心、現地に着いて除雪が行き届かない駐車場に止める際にも苦にしない。一度その便利さを味わってしまうともう忘れられないのが人間の性(さが)というものだ。
ただのSUVとは呼びたくない
昔から、それこそディスカバリーがデビューしたせいで「ディフェンダー」という名前が付けられる前からクラシックなランドローバーに憧れていた私たち世代は、ランドローバー各車を(まあイヴォークなどの最新モデルは除いて)単にSUVと呼ぶのにはどうしても抵抗がある。ランドローバーはかつての男の子たちにとって探検や冒険と同義語だったのである。
とはいえ、ジャガー&ランドローバーのセールスは、2011年のイヴォークのデビュー以降右肩上がりに伸びており、昨2015年の世界販売台数はもう少しで50万台というところにまで来た。そのうち約40万台がランドローバーというが、これはもちろん過去最高の数字である。創業以来4WD一本で生きてきた専業メーカーが、都会的でスタイリッシュなオンロード寄りのSUVを投入したことで成功したのは疑いようがないが、そのいっぽうで伝統的なディフェンダーはつい先日、1月末に最後の1台がラインオフし、その生涯を終えた。時代の要求を満たした本格的なモデルがいずれ登場するとは思うが、なんとも寂しい限りである。
それはさておき、割り当てられたレンジローバー スポーツでスキー場の特設コースを目指すと、裏道でも所々に舗装が顔を出しており、一面の圧雪路など望むべくもないということが分かった。ただし、本当に厄介なのは、このようにさまざまな状態が混在するリアルな雪道だ。世界有数の豪雪国である日本は、山地が多く南北に長いせいで雪の状態も多様である。実際、15分ほど走る間にもシャーベット状の雪道、水分の多い柔らかい雪が轍(わだち)に掘れた雪道、そして日陰の圧雪がツルツルに磨かれた路面などが次々に現れる。経験者は常に変化する路面状況を自然に読み取って対処できるが、そうでない人を助けるのが例えば「テレインレスポンス」である。
ますますイージーに
レンジローバーの弟分というかカジュアルラインであるレンジローバー スポーツのテレインレスポンスも、現行モデルではオートモードが加えられた「テレインレスポンス2」に進化している。念のために言っておくと、ここでいうオートモードは多くのFWDベースのオンデマンド式4WDの場合とは異なる。ハルデックスカップリングなどを使用して、必要な場合のみ後輪にも駆動力を伝える車の場合、カップリングの締結を制御するのが“オート”だが、レンジ―ローバーと同スポーツ、およびディスカバリーなど後輪駆動ベースの本流モデルは機械的なトランスファーおよびセンターデフを持つ“本当の”フルタイム4WDである。そもそもランドローバーがパイオニアとして導入した「テレインレスポンス・システム」は、走行状況に応じてダイヤルを切り替えるだけでシフトプログラムやスロットルレスポンス、デフのロック率、車高、さらに備わっている場合はローレンジ切り替えなどを統合制御し、必要な走行性能を確保するというもの。オンロード/グラス、グラベル、スノー/マッド&ラッツ(轍)/サンド/ロックという5種類のドライブモードが設定されており、これを自動で選択するのがオートモードである。ただダイヤルを回して適切なモードを選ぶだけなのに、それすら面倒がってオートが欲しいと要求したユーザーがいるということなのだろう。
2016年モデルのランドローバーには、低速で(1.8~30km/h)一定速で走行できるATPC(オールテレイン・プログレス・コントロール・システム)が全車に標準またはオプション装備された。これは簡単に言えばオフロード用の低速クルーズコントロールであり、日本ではなかなかお目にかかれないが、滑りやすいグラベル路や砂地などを延々と長時間走るような場合に、スロットル操作から解放されてステアリング操作に集中できるメリットは大きい。
4WDでもジャガー
当代随一のドリフトマシンともいえる「ジャガーFタイプ R」に昨年末にAWDモデルが追加された。今回の試乗会でもっとも気になるモデルだったのだが、特設コースのみで雪の一般道で試乗する機会がなかったのが残念。だが、ドライで乗って気持ち良い車はまず間違いなく雪道で乗っても楽しくコントローラブルであることは確認できた。実は「XF」や「XJ」にも3年ほど前からAWDモデルは設定されていた。北米や中国、ロシア市場などは意外に4WD需要が大きく、それゆえどのプレミアムブランドも4WDモデルを用意しているのだ。ジャガーAWDは当然後輪駆動ベースで、電子制御カップリングと折り返しのプロップシャフトを持つシステムだ。通常はほぼ後輪駆動、必要に応じて前輪にも(最大50:50まで)駆動力を伝えるという。タイヤがまずまずのグリップを得られる部分では面白いように姿勢を変えられるが、日陰は磨かれてアイスバーン状態になっていたせいで、とにかくゆっくりと繊細に扱う必要があり、そうなると後輪駆動の「XE」と選ぶところがない。どんな4WDであろうと、前輪が滑っている状態では無力であり、また柔らかい雪を盛り上げて造った坂道ではレンジローバーでもタイヤが埋もれてすぐに登れなくなる。当たり前だが、こういう限界を安全に試せるのがこの種の試乗会の一番の利点だろう。この冬も、まだもう一度ぐらい大雪が降るかもしれない。4WDの全能感に足をすくわれないよう、くれぐれもご注意ください。
(文=高平高輝/写真=高橋信宏)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー スポーツ オートバイオグラフィー ダイナミック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4855×1985×1800mm
ホイールベース:2920mm
車重:2410kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:510ps(375kW)/6500rpm
最大トルク:63.8kgm(625Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)275/45R21 110V/(後)275/45R21 110V(ピレリ・スコーピオン ウインター)
燃費:7.3km/リッター(JC08モード)
価格:1346万円/テスト車=1623万5000円
オプション装備:4ゾーン・フルオートエアコン(15万4000円)/Meridianシグネチャーリファレンス・オーディオ・システム(1700W)(71万7000円)/オートマチック・ハイビーム・アシスト(2万9000円)/5+2シート(25万4000円)/シートヒーター&クーラー<フロントおよびリア>(12万9000円)/フロントセンターコンソール・クーラーボックス(5万3000円)/スライディング・パノラミックルーフ(30万円)/イルミネーテッド・フロント・トレッドプレート(11万9000円)/ACC<アダプティブ・クルーズ・コントロール>(23万7000円)/ウエイドセンシング+ブラインドスポットモニター(6万7000円)/パドルシフトノーブルクローム仕上げ(8000円)/アドバンスト・パークアシスト(20万1000円)/8インチデュアルビュー・タッチスクリーン(11万9000円)/ツインブレード・サンバイザー(1万円)/リアシートエンターテインメント8インチ(32万9000円)/ラゲッジスペースフレーム(4万9000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3515km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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ランドローバー・レンジローバー イヴォーク SEプラス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4355×1900×1635mm
ホイールベース:2660mm
車重:1790kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:240ps(177kW)/5500rpm
最大トルク:34.7kgm(340Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/65R17 106H/(後)225/65R17 106H(ピレリ・スコーピオン ウインター)
燃費:10.6km/リッター(JC08モード)
価格:587万円/テスト車=671万9000円
オプション装備:キーレスエントリー(9万8000円)/オールテレイン・プログレス・コントロール(4万5000円)/シートヒーター<フロント&リア>(5万7000円)/電動調整式フロント・シート<運転席/助手席12ウェイ>+運転席・助手席シートメモリー(16万4000円)/ハンズフリー・パワーテールゲート(7万7000円)/メタリックペイント(8万2000円)/ドライバーズアシスタンスパック(25万円)/コールドクライメート・コンビニエンスパック(7万6000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:----km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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ジャガーFタイプ R AWD クーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1925×1315mm
ホイールベース:2620mm
車重:1860kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:550ps(405kW)/6500rpm
最大トルク:69.3kgm(680Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)255/35R20 97V/(後)285/30R20 99V(ピレリ・ウインター ソットゼロ3)
燃費:8.1km/リッター(JC08モード)
価格:1443万円/テスト車=1535万円
オプション装備:
アダプティブフロントライティング(9万1000円)/パノラミックグラスルーフ(13万4000円)/電動テールゲート(6万2000円)/フロントパーキングコントロール+リアパーキングコントロール+リアカメラパーキングコントロール(15万3000円)/ジャガースマートキーシステム(7万7000円)/トレッドプレート<イルミネーション付き>(4万6000円)/ステンレススチールペダル(2万1000円)/ヴァレイモード(1万1000円)/デジタルTVチューナー(12万1000円)/20インチGyrodyneブラック&ダイヤモンドターンド・アロイホイール(20万4000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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ジャガーXEポートフォリオ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×1850×1415mm
ホイールベース:2835mm
車重:1640kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
最高出力:240ps(177kW)/5500rpm
最大トルク:34.7kgm(340Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/45R18 95H/(後)225/45R18 95H(ピレリ・ウインター ソットゼロ3)
燃費:12.5km/リッター(JC08モード)
価格:642万円/テスト車=789万2000円
オプション装備:メタリックペイント(8万2000円)/パノラミックグラスサンルーフ(20万6000円)/プライバシーグラス(6万2000円)/電動トランクリッド(11万5000円)/ステアリングホイールヒーター(3万6000円)/電動リアサンブラインド(5万7000円)/カスタマイズ可能なインテリア・ムードランプ(5万2000円)/イルミネーテッド・シルプレート(7万5000円)/Meridianプレミアムサラウンドサウンドシステム(36万4000円)/ブラインドスポットモニター(クロージングビークルモニター、リバーストラフィックディテクション付き)(9万3000円)/ADVANCED PARK ASSIST PACK+PROXIMITY CAMERA(27万4000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
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