第335回:正しい知識が命を救う
ボルボのチャイルドセーフティーセミナーに参加
2016.02.15
エディターから一言
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ボルボ・カー・ジャパンが、スウェーデン・ボルボ本社からセーフティーエンジニアを招き、最新の安全技術とチャイルドセーフティーについてのセミナーを開催した。シートベルトの正しい使い方からチャイルドシートの選び方まで、ボルボが考える安全とは?
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私と息子とチャイルドシート。
「スウェーデンにあるボルボ・セーフティーセンターから専門家が来日し、最新のチャイルドセーフティーについてレクチャーがあるんですけど」
編集担当者はそう言い、こう続けた。
「講師を務めるのはロッタ・ヤコブソンという女性の研究者で、25年間にわたりボルボの安全技術開発に携わってきた人らしいです。日本のクルマ業界では、女性の専門家がこのような場で発表すること自体が珍しいですよね。取材に行ってみませんか?」
行ってみませんか?
もちろん、行きますとも! 私には現在5歳になる息子がいて、チャイルドシートへの不満も5年分たまっているのだから。
そもそも私が初めてチャイルドシートを購入したのは2010年の冬。当時としては国産の最新型、シートベルト固定タイプだった。1歳ぐらいまでは後ろ向きに乗せなくてはならず、運転席から息子の様子が見えないことがとても不安だったのを覚えている。そのうえ、クルマの座席に正しく取り付けるには、かなり難ありの代物で、試乗車などに乗せ替える度に骨が折れた。
と、そこから始まったチャイルドシートとの格闘エピソードが私と私の息子にはある。詳しい事情は省略するが、とにかくこの5年間、チャイルドシートへの不満はたまる一方だった。
ボルボが考えるチャイルドセーフティーとは
その日、会場となったボルボ・カー虎ノ門のセミナールームには顔見知りの自動車評論家や編集者の姿もあったけれど、新聞やら雑誌やらの記者たちが大勢詰めかけていた。でも、たぶん私だけだと思う。ママ意識全開で鼻息荒く会場入りしたのは。
その私は、博士の話が始まったとたんのけぞった。
「最低限3~4歳まで、子どもは後ろ向きに座らせてください。また、身長が140cmおよび10歳になるまではブースタークッション(ジュニアシート)の使用をお勧めします。これがスウェーデン式、そしてボルボ式の子どもの守り方です」
エーーー!! 3~4歳まで後ろ向き!? だって、日本じゃ、1歳までが後ろ向きで、それ以降は前向きにするのがスタンダードだしぃ。
ボルボといえば、カーセーフティーのパイオニア。1959年に世界で初めて3点式シートベルトを開発して以降、今では当たり前となっている安全装備の多くを他メーカーに先駆けて世に送り出している。
チャイルドシートもそのひとつだ。他メーカーでは、その概念すら生まれていなかった1964年に、後ろ向きのプロトタイプを開発し、1972年には世界に向けて販売している。そうした事実を前にすると、とにかく彼女の話に耳を傾けるしかない。
後ろ向きのチャイルドシートは、宇宙飛行士の打ち上げ姿勢に着想を得て、背中と頭部をサポートするように開発されたというが、なぜ、3~4歳までの子どもは「後ろ向きに」なのか。
「頭の占める割合が大人と子どもとではまったく違うから」と博士は説明した。
新生児の頭は体の約半分にもあたる。重量で比べると、成人男子の頭は体重の約6%なのに対し、生後9カ月の赤ちゃんの頭は総重量の約25%を占めている。もちろん骨格にも違いがある。赤ちゃんの首は骨と柔らかい軟骨でできているうえに、その形状も未発達で、体を支える強さを備えてはいない。頭の形状にも違いがあるから首にかかる力の大きさも変わってくる。そこで、頭を支えるための力を背中全体で分散しようというのだ。
3歳児のダミー人形を使った前面衝突試験で前向きに座った場合、後ろ向きの状態の約7倍の力が首にかかっていた。
この実験結果を聞かされて衝撃を受けたが、シートベルトの肩ベルトをちゃんと肩にかけず脇の下に入れてしまうことの危険性について説明された時には、より深刻に受け止めた。大人でさえ命の危険があるのに、子どものおなかの柔らかい部分にベルトがあたれば、どれほど危ないか。息子にもちゃんと説明しなくては、と強く思った。
1時間半ほどのセミナーに参加し、私はチャイルドシートに対する認識を新たにし、確かに、とは思う。幼い子どもの身体は、まだできあがっておらず、現状では「後ろ向き」がベストなのだろう。けれど同時に思ったのは、現状ではベストでも、「完璧」ではないのではないか、だった。
5年間を経験したひとりのママドライバーとしては「後ろ向き」の理屈に納得しつつも、同時に小さな違和感を覚えた。
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ママも子どもも喜ぶシート
果たして、3~4歳の子どもにとって「後ろ向き」に座り、クルマで移動することは、快適なのだろうか?
例えば、クルマに酔い、気分が悪くなる、といったことはないのだろうか。子を持つ母として、ここは聞いとかなアカン! と手を挙げた。すると、
「そういう心配はありませんし、スウェーデンでそういうことは聞いたことがありません」と博士。
でも、個人差は絶対にあるでしょ。
手元に配られた『CHILDREN&CARS』(2013年12月発行)という冊子によれば、スウェーデンのとある調査で、3歳児のうち、後ろ向きのチャイルドシートを使用している割合は、わずか約40%であったと記されている。やっぱり、嫌がる子も多いんじゃない?
それに、後ろ向きにした場合、成長するにつれ長くなる両足をどうシートに収めているのか、にも疑問が残る。体育座りのような体勢ではきついはず。さらにいえば、3~4歳の男の子はヤンチャ盛りもいいとこ。ウチの息子だったらとても我慢できなかっただろう、とも思うのだ。
子どもの安全のために、チャイルドシートやシートベルトは大切であること、命を守るためには最低限3~4歳まで後ろ向きに座らせることが重要であることもわかった。でも、実際はなかなか理想通りにはいかない。だって相手はダミー人形じゃなくて、生身の子どもなんだものっ!
で、ママを兼ねている自動車ジャーナリストの私は訴えるわけである。警察庁とJAF(日本自動車連盟)が2015年5月に合同で実施したチャイルドシート使用状況の全国調査の結果では、6歳未満の子どもの平均使用率は62.7%で、保護者の抱っこも5.4%となっている。前向きか後ろ向きかの議論以前にこうした実態を何とかしないといけない。
そして、クルマに関わるメーカーは考え続けてほしい。より使い勝手のいいチャイルドシートとはどんなものか、子どもにとってより安全で、より快適な使用法とはこれだ、というものを。
すでに、ボルボでは、新型「XC90」をベースに、助手席を後ろ向きのチャイルドシートスペースに変えるという独自のアイデアを発表している。軽くて扱いやすい、空気注入式のチャイルドシートも考えられているようだ。
どちらもとても画期的で、今すぐにでも使ってみたいと思った。でも、商品として出回る頃には、もう息子はチャイルドシートを卒業しているかな~、なんて。
チャイルドシートに対して、5年分の不満を持って臨んだ今回のセミナーだったが、参加してみると、その7割ぐらいは解消した気がする。久しぶりにチャイルドシートと真剣に向き合うことができたイベントだった。
(文=スーザン史子)
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