キャデラックCTS-Vセダン(FR/8AT)
ライバルを明確に超えている 2016.03.03 試乗記 過給機付き6.2リッターV8エンジンを搭載した「キャデラックCTS-V」にロサンゼルスで試乗。最高出力649ps、最大トルク87.2kgmという怪力を誇る、高性能スポーツセダンの実力を試す。“互角”では意味がない
キャデラックは、ことそのハードクオリティーに関しては、完全にグローバルプレミアムブランドとして覚醒したと思う。新型フラッグシップサルーンの「CT6」に試乗して、筆者はそう確信するに至ったが、実はその萌芽(ほうが)はひそかに日本上陸を果たしたとあるモデルにあったということを、アメリカで開催されたCT6試乗会の“付録”で気づくことになった。
それは「ATS-V」とCTS-Vという、最新の“Vシリーズ”のことで、すでに昨年、日本でも先行予約を経て、GMディーラーでは顧客向け試乗会が開催されているという。CT6の試乗会に出席した筆者は、そのままロサンゼルスに居残って、そんな最新Vシリーズを思う存分試す機会に恵まれたというわけだ。
CTS-Vは、ドイツプレミアム勢でいうところの「BMW M5」や「メルセデスAMG E63」、さらには日本の「レクサスGS F」あたりがライバルとなる、欧州Eセグメントのハイパフォーマンスモデルである。キャデラックはドイツ勢に準じる商品ラインナップをそろえることで、彼らが確立したプレミアムミドルセダン市場に正面切って挑んでいる最中だ。そして、それはとりもなおさず、新たなVシリーズがドイツ勢を確実に上回る性能でなければならないことを意味する。これまでのように“互角”の戦いを演ずるのみでは、結局のところ、ドイツ勢が築いてきたブランド力を突き崩すには至らないからだ。
そして、新型CTS-Vはそれを見事にやってのけたのだ。
エンジンは「コルベットZ06」譲り
ダウンタウンのアパートメントホテルのパーキングには、白と黒、2台のCTS-Vが用意されていて、白い方が日本向けでいうところの「スペックB」に近い仕様であった。
スペックBの特徴的な装備は何かというと、レカロの「レザー&マイクロファイバー・パフォーマンスシート」、そして「カーボンファイバーエアロパッケージ」(フードベント、フロントスポイラー、リアスポイラー、リアディフューザー)で、樹脂製エアロパーツの「スペックA」よりもいっそう過激なデザインになっている。
ノーマルに比べて大いに盛り上げられたフロントフードはスペックA、Bともどもカーボン製で、そのなかに「コルベットZ06」と同じ高性能スモールブロックの「LT4」ユニットが収まっている。この6.2リッター直噴V8 OHVスーパーチャージド(気筒休止システム付き)は、Z06よりもわずかに劣るとはいうものの、最高出力649ps、最大トルク87.2kgmという“スーパーカースペック”を発生する。キャデラックの他のモデルと同様に自社製8ATが組み合わされるが、CTS-V用には特に「8L90」型と呼ばれる大容量タイプが用意された。
これだけのパワーユニットを使いこなすために、当然ながら、ボディーや足まわりには大幅な強化が求められる。各種ブレースやシアパネルを要点に追加するなどしてノーマル比20%のボディー剛性アップを果たしたほか、電動パワーステアリングのシステム剛性アップ、専用チューニングを加えた前後サスペンション、ブレンボ製大型ブレーキシステム、電動LSD、大型プロペラシャフト、さらにはダンピングレスポンスが40%向上した専用チューンの第3世代マグネティックライドなどなど、ありとあらゆるグレードアップが図られた。
6.2リッターの息づかいを感じる
キャデラック史上最も力の入った高性能モデルであることは間違いなく、そのことはダウンタウンのホテルを出て、サンタモニカへと向かうハイウェイに乗った瞬間に実感できた。これはとんでもないセダンだ。
街中での乗り心地はEセグメントのラグジュアリーサルーンに求められるレベルを見事に保っており、硬さが目立ったATS-Vとは違って、気持ちよくクルーズできた。スペックから想像されるほどアクセルワークに慎重さを求められることもなく、ストップ&ゴーが続くような市街地でも扱いやすい。ただし、常に大排気量エンジンの息づかいを足に耳に体に感じるから、わくわくドキドキ、ゆっくり走っていてもかなり楽しい気分になる。
そして、ハイウェイの合流で、不用意にがばっとスロットルを開けた途端、モンスターが牙をむいた。
スーパーチャージャーの悲鳴のような叫びが聞こえたと思ったら、リアが途端にブレークし、左右に盛大な振れをみせた。もちろん、よくできたシャシー制御のおかげで、そのまま壁に張り付くような事態には陥らなかったが、大いに肝を冷やす。と同時に、電子制御の優秀さはもちろんのこと、ボディー骨格の頑丈さや、操作系の反応の鋭さにも舌をまいた。確かにヒヤリとはしたものの、逆に早くオープンロードで全力疾走させてみたいと、期待に胸が躍った。
自信を持ってフルスロットルを楽しめる
ハイウェイでは再びのラグジュアリー感覚。ドライビングモードで「ツアー」を選べば、継ぎ目を「とたんとたん」と軽やかにいなし、収まりもイッパツできまる。硬いボディーの下で、サスが鼻歌まじりに仕事をこなしているかのようだ。
マリブのコーストラインを淡々とこなし、いよいよワインディングロードを駆け上がった。モードは「スポーツ」に。
なんと、道がとても狭い! キャッツアイも多く、CTS-Vで攻めるのはちょっとツラそうだ、と思ったのもつかの間、そんな悪条件のワインディングロードでも、このクルマは強烈なパフォーマンスを見せつけてくれた。
とにかく路面とのコンタクトがハッキリとしていて、インフォメーションも鮮やかだ。フロントアクスルからはやや重ためな印象も伝わってくるけれども、リアのスタビリティーが強烈に高いため、自在のパワーオンでフロントの多少の不自由さなど霧消させてしまう。路面を常に、すぐ近くに感じられるのも頼もしい。
感動したのはブレーキフィールのよさだ。利きはもちろん、右足に伝わるタッチが素晴らしく、減速のコントロールも自由自在。それゆえ、自信をもって大パワーを存分に解放してやろうという気になっていく。コーナーをひとつずつクリアするたびに、気持ちが大胆になっていき、ついにフル加速……。
本当に、狂っている! レカロに縛り付けられた体が前方へと射出されたかのような加速に、開いた口がふさがらない。それでも迫り来る次コーナーを前に、慌てることなくブレーキを信頼する自分がいる。正確なコーナリング。豪快なエンジンサウンドが、フルスロットルを再度促した。これが世界最速のサルーンであることは間違いない。
(文=西川 淳/写真=ゼネラルモーターズ)
テスト車のデータ
キャデラックCTS-Vセダン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5040×1870×1465mm
ホイールベース:2910mm
車重:1910kg
駆動方式:FR
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:649ps(477kW)/6400rpm
最大トルク:87.2kgm(855Nm)/3600rpm
タイヤ:(前)265/35ZR19 98Y/(後)295/30ZR19 100Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:シティー=14mpg(約6.0km/リッター)、ハイウェイ=21mpg(8.9km/リッター、ともに米国EPA値)
価格:1470万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※燃費を除く諸元は日本仕様のスペックBのもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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