メルセデス・ベンツGLC250 4MATICスポーツ(本革仕様)(4WD/9AT)
メルセデスの本気が伝わってくる 2016.03.08 試乗記 メルセデス・ベンツの新たなミドルクラスSUV「GLC」が、日本に上陸。試乗してみると、ライバルメーカーを戦々恐々とさせるに足る、完成度の高さが見えてきた。その動向に他社もそわそわ
いきなり別のクルマの話で恐縮である。先日、国内発売されたばかりの「アウディA4」の報道試乗会に出向いたとき、アウディ ジャパン担当氏に「もうGLCは乗られましたか?」とたずねられた。A4とGLCの報道試乗会がまったく同時期に開催されていたせいでもあるのだが、とくに日本のようにメルセデスが強大なシェアをもつ市場では、GLCの動向は注目のマト……なのだろう。
GLCが属するジャンルは、いわば“高級DセグメントSUV”である。このジャンルを開拓したのは2003年本国発表の「BMW X3」だが、当初はあくまでバカ売れしていた「X5」の補佐的なポジショニングで、BMW自身もX3に大きなビジネスは期待していなかったフシがある。しかし、実際には、その絶妙なサイズと価格が世界的に支持されて、たちまちX5に匹敵する人気商品となった。
そんなX3に最初に対抗したのがアウディだった。2006年の「Q5」である。続いて2008年に「メルセデス・ベンツGLK」と「ボルボXC60」が、翌2009年に「レンジローバー イヴォーク」が登場するが、“X3最大のライバルはQ5”という勢力図は揺るがなかった。
ちなみにわが国の日産も「スカイライン クロスオーバー」(海外名「インフィニティQX50」)を2007年に投入する速攻ぶりを見せたものの、同車の販売戦略は実質的に北米限定商品で、セグメント全体に国際的な影響力をおよぼすほどではなかった。
ただ、2010年に元祖X3が2世代目に移行して、さらに2014年に「レクサスNX」と「ポルシェ・マカン」が登場すると、このセグメントの販売競争はいよいよ激烈になっていく。とくにマカンの「あのポルシェがこの値段で!?」という価格戦略にライバル各社は震え上がった。ここ数年、アウディQ5の担当者はずっと気が休まらない日々を送ってきたのだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
内外装は確かな仕上がり
このクルマの成り立ちは、“GLC=メルセデスのクロスオーバー(GL)の「Cクラス」版”という車名から、ちょっとクルマに詳しい人が想像するとおりである。期待どおりといえばそうだが、意外性はない。
プラットフォームはCクラスの延長&最適化版で、エクステリアデザインもCクラスの背高版というか、「GLA」の兄貴分そのもの。車体ディメンションもクラスのド真ん中だが、あえていえばマカンに次いでワイド&ロー。デザインでも積極的にスポーツテイストを打ち出すのは、新しいメルセデスGL系に共通する戦略である。
ダッシュボードの意匠が同クラスのメイン機種であるCクラスとほぼ共通なのも、同じく新コンセプトで開発されたGLAと同じ考え方だ。ただし、シートレイアウトなどの乗員配置を、背高グルマとしてきちんとやり直しているところは、「Aクラス」と選ぶところのないGLAとは異なる。さすがにこのセグメントとなると、ファーストカーとしての居住性や実用性、質感が要求されるので、メルセデスもGLAのようなニッチに逃げることはしなかったということだ。
近い将来に国内にもディーゼルやプラングインハイブリッドの追加も公表されているが、今回導入されたのは高出力版ガソリン2リッターターボを積む「250」のみで、駆動方式も4WDの「4MATIC」の一択。アシや装備のちがいで、標準モデルと「スポーツ」の2種類があるだけだ。
今回の試乗車は上級のスポーツ(のさらに上級グレードあつかいの「本革仕様」)。おなじみのパッシブ可変減衰ダンパーに18インチタイヤを組み合わせる標準モデルに対して、スポーツは硬めの固定減衰ダンパーとなるスポーツサスペンションに19インチを履く。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ツッコミどころのない走り
GLC250のエンジンチューンは「C250」と共通だが、4WDということもあって、車重は「C250ステーションワゴン」比で200kg近く重い。ただ、GLCは変速機が新しい9ATである。
あくまでメーター読みでの確認になるが、C250のトップ7速とGLCの8速が似たようなレシオ(100km/h時でエンジン回転が1700~1800rpm)となっている。GLCのトップギア(9速)はさらにその上をカバーしていて、100km/h時だと1400rpmほどになる計算だが、100km/h以下が原則の日本の道路で9速を使うことはまずない。
下のギアでは1~6速までが新しい9ATのほうがローギアードな設定になっていることもあって、GLC250の動力性能にかったるいイメージはまったくなかった。それどころか、右足のわずかな動きに合わせて、即座に適切なギアを選んで明確な加速態勢とトラクションを確保する。突出して速くはないが、あらゆる場面で不足を感じることはなかった。
スポーツサスのGLCのフットワークは基本的に硬い。ステアリングギアに可変レシオが仕込まれていることもあって、ステアリングはクイックかつグイグイ系。ロールらしいロールをほとんど感じさせずに、ズバッとノーズが反応する。今どきのSUVで腰高な不安感を抱かせるクルマは数えるほどしかないが、中でもGLCの低重心な安定感は十二分にホメられるべきレベルにあるといっていい。
全体として走りの完成度はいきなり高い。減衰力固定でこの俊敏性とロール剛性、しかも可変ステアリング……となれば、いろいろとツッコミどころもありそうだが、ミシリともいわない車体の剛性感は印象的。そしてアシは硬いながらも滑らかにストロークして、乗り心地に痛く感じるような突きあげはまったくなく、身のこなしに人工的な違和感もない。このサイズのSUVとしては小回りもきく。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
価値あるフルタイム4WD
現在のFR系4WDは、ほとんどがカップリングや油圧多板クラッチによるオンデマンド型になってしまった。だが、メルセデスの(FR系の)4MATICは、本物のセンターデフをもつ真正フルタイム4WDの伝統を守っており、GLCのそれも例外ではない。そのうえで、33:67という後輪優先の駆動配分を採る。
まあ、今どきのSUVで、オンデマンド型で困るところはほぼないし、燃費やステアリングフィールでは利点も多い。ただ、微妙な路面のうねりや横風下で両方式を比較すると、やはり真正フルタイム4WDの安心感は、なにものにも代えがたい魅力でもある。
今回も舗装路のみの試乗だったが、それでもGLCの強力なステアリングゲインと路面に根が生えたような安心感の両立に、4MATICが無関係ではないはずだ。それでいて、積極的にコーナーに挑めば、後ろから蹴り出されるトラクションにトルク配分の妙も感じられた。
GLCの前身となったGLKに左ハンドルしかなかったのは、当時の4MATICの構造上やむをえなかったのが直接的な理由だし、しょせん右ハンドルの国は世界のごく一部。ただ、それでもGLKが市場に送り出されたのは、メルセデスにとってのGLKはその程度のものだった……という見方もできる。実際、GLKに対する市場の反応も芳しくなかった。
ただ、今度のGLCにかけるメルセデスの意気込みはその比ではない。今度は本気でアタマをとりにきた。さすがはライバルを研究しつくしたGLCだけに、後席空間や荷室容量、質感、そして安全技術(はすべて標準装備)など、全方位でクラストップ、もしくはトップ級である。ちなみに、冒頭にあげたクラス主力車種で真正フルタイム4WDを持つのは、GLC以外にはQ5だけだ。クワトロに企業生命をかける(?)アウディが戦々恐々なのも当然である。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLC250 4MATICスポーツ(本革仕様)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1900×1645mm
ホイールベース:2875mm
車重:1860kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9AT
最高出力:211ps(155kW)/5500rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)235/55R19 101V/(後)235/55R19 101V(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ<ランフラット>)
燃費:13.4km/リッター(JC08モード)
価格:745万円/テスト車=765万8000円
オプション装備:メタリックペイント<イリジウムシルバー>(8万8000円)/ランニングボード(12万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2108km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】 2026.8.31 フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.25 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】 2026.8.25 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。
-
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2026.8.24 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。
-
NEW
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
NEW
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。 -
“自然を連想する車名”の名車特集
2026.9.1日刊!名車列伝暑さが和らぐ一方で、台風シーズンとも呼ばれる9月。その風をはじめ、星座、景観など自然を連想させる名前が与えられた、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.8.31デイリーコラム自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。 -
第343回:おやじ、涅槃で待つ
2026.8.31カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ちまたでの評判がよく、売れ行き好調の新型「日産キックス」に試乗した。その出来はカーマニアをも満足させる評判どおりのもので、新車購入のきっかけにもなった。え? 購入したのはキックスではない? -
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】
2026.8.31試乗記フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。

































