BMW M2クーペ(FR/6MT)/M2クーペ(FR/7AT)
主役は遅れてやってくる 2016.03.14 試乗記 「BMW 2シリーズ クーペ」をベースに、370psの3リッター・ストレート6ターボで武装した「M2クーペ」が公道に降り立った。このクルマこそ、われわれが待ち続けてきた「M3」の精神的な後継車といえるのではないだろうか。米国カリフォルニアからの第一報。“程よいM3”が帰ってきた
これぞ待ち望んでいた、ボクらのMだ!
新型M2デビューの報にさいして、そんな喜びの声を上げた“クルマ運転好き”は、きっと多かったことだろう。かくいう、ボクもそう。そのスペック、そのサイズ、その仕様、まさに、大好きだったひと昔前のM3の、正統な後継車だと思わずにはいられなかった。
最近のMモデルたちには魅力がない、と言っているわけじゃない。M3&M4にしろ、それ以上のMにしろ、どんどん高性能化が進み、スーパースポーツ級のパフォーマンスを誇っている。それはそれで、進化の証しだ。けれども、その昔のM3(E36やE46)を知るような世代にとって、BMWのMとは、マニュアルトランスミッションで乗って楽しい、程よいパワーとサイズの官能的なFRスポーツ、であった。そういう意味では、昨今のMモデルはすべて、豪華で高性能過ぎる、のかもしれない。
だから、M2のスペックを見て、大いに喜んだ。メーカーの言う、「2002ターボ」やE30 M3の正統な後継車なんていうコジツケより、E36やE46のM3の現代版とみる方が、ずっとステキ。
2シリーズ クーペをベースに、M4用前後アクスルや、新設計の3リッター直噴Mツインパワーターボ、7段M DCTドライブロジックなどを盛り込んだ特別な2ドアクーペで、なんと、ボディーサイズはほぼ、「E46 3シリーズ クーペ」と同じなのである。
快適な乗り心地
国際試乗会の舞台は、M2そのものへと同様に、行く前・乗る前から期待に胸の膨らむ場所だった。名物コーナー・コークスクリューで有名なカリフォルニアのラグナセカ・レースウェイ。
まずは、パドックに止められていた3ペダルMT(日本導入未定)を借り出し、一般道のテストドライブにでかける。カリフォルニア1号線をカーメルから南下、絶景のオーシャンドライブ。
軽いがミートしやすいタッチのクラッチを気軽につなげてスタートした。シフトレバーの動きは実にクリーン。吸い込まれ感が適度にあって、とても扱いやすい。エンジンは低回転域からのトルクに恵まれているため、発進や微速走行でもまるで不自由しない。とにかく、運転しやすいマニュアルトランスミッションだったから、最近とんとクラッチペダル付きには触ってなくて、なんて方でも、簡単に昔の感覚を思い出してもらえるはず。
驚いたのは、乗り心地の良さだった。最近では、大きなスポーツモデルこそ乗り心地重視志向だけれども、小さくなればなるほどスパルタンな乗り味を強調しがち。M2もきっとハードなんだろうナァ、と試乗前に予想していたが、まったく違っていた。
さすがは、M4ゆずりのアシである。ボディーの強化も効いているのだろう。アシが細かく大きくよく動く。アメリカの舗装路はたいてい荒れ放題で、大小さまざまな入力の乱れ撃ちに合ったりするわけだけれども、40~80km/hの間であっても、路面からのショックを一発で吸い込んでしまった。
素晴らしい人車一体感
もうひとつ、感心したのは、これまた最近のスポーツモデルにありがちな、アジャイル(機敏)過ぎるハンドリングの演出がまるでないところ。前アシの動きが、ドライバーの気持ちと見事にシンクロしている。そのうえ、その接地感は常に頼もしく感じられ、後アシの踏ん張りも相当に利いているから、走れば走るほどにクルマとの一体感も増していく、という具合。つまり、乗れば乗るほど、好きになっていく!
3速に放り込んだままのクルージングが、最高だった。エンジンは常に気持ちのいいうなりを響かせ、正確な前アシの動きと適切な四肢のダンピングが、ドライバーの背中いっぱいに気持ちよさを伝えてくる。特に、ステアリングを戻す瞬間のフィールがいい。操舵(そうだ)の前半と同様に、リニアリティーにあふれている。電動パワーステアリングのチューニングもかなりの完成度に到達しつつあるようだ。
快適なオーシャンラインドライブを終えて、いよいよラグナセカを攻め込む番になった。こちらは日本仕様と同じ7段DCTを積んだM2で、ブレーキパッドだけサーキット専用に換装してあった。
先導するのは、同じくM2を駆る、元F1ドライバーで現DTMのティモ・グロックである。
これぞFRスポーツカーの本流
モードはスポーツ+。コンフォートでもステアリングフィールはけっこう重めだったが、スポーツ+にすると、さらにガッチリ。ドライバーの筋肉にも緊張が走って、ヤル気も増すというもの。
合計7周のチャレンジ。まずはゆっくりとコースに慣れる、とはいえ、走る前に“何度か走ったことがある”なんて言ったものだから、ハナからけっこうなペースだ。
一般道での印象そのままに、シャシーが路面をしっかりと捉えて放さない感覚がすでに頼もしい。もっと速く走らせたい、と、じきにうずうずしてきた。
速度が上がっていっても、不安よりファンが先に立つ。無線から聞こえてくるティモのギアチェンジ指示とラインのトレースで、急激にM2でのラグナセカに慣れていく。
コーナーから脱出していくときの、姿勢がことのほか気持ちよかった。リアアクスルに全幅の信頼をよせつつ、まさに腰をずんと落として、めいっぱい踏み込むときの快感といったら! これぞ、FRスポーツカーの神髄だ。
かのコークスクリューは、登り詰めた先を直角に曲がり、崖から飛び出すようにして走る。先の路面は見えないけれど、あると信じて曲がっていく。攻めようがないので、気持ちをそこから続く下りコーナーに集中して、アクセルコントロール。とはいえ、先導するティモから一気に離される感じがするのは、いつもコークスクリュー出口のことで、きっとこのコーナーには特別な攻め方があるのだろう。
8000rpm近くまで、キレイに回るエンジンも気持ちがいい。すべてのサウンドは、あくまでも自然なボリュームと心地よい音質でキャビンに侵入していた。気分がどんどん高ぶっていく。
ぜひ日本にも3ペダルMTを
ハイスピードラップがこれで終わるという最後のコーナー。前を走るティモがサービスでドリフトを披露した。あ、それならオレもできるゾ、と思ったのが大間違いで、不用意にスロットルを開けてみれば大仰なテールスライドがおき、タコ踊りの揚げ句、あやうくコンクリートウォールに直撃しそうに。肝を冷やしたが、それもまたサーキットのお楽しみ(?)というべきか。焦ったのは、コースサイドで見ていた運営チームとティモ本人だったに違いない。
個人的にはラグナセカで見事なクラッシュ伝説を作り損ねてしまったけれど、M2がとびっきりのドライビング・ファンカーであるという評価に、変わりはない。ノスタルジー気味と言われようが、これが待ち望んだ“Mらしさ”というものだ。
最後に。日本仕様のM2には今のところ3ペダルの設定がない。「M235i」やM4にはあって、M2にないというのは、クルマのキャラクターを考えると何だか“逆”のような気もするが、それは今後に期待しよう。とにかく、サイズ感といい、エンジンフィールといい、そのバランスの良さがとにかく3ペダル向きのマシンだったと、ボクは思っている。
(文=西川 淳/写真=BMW)
テスト車のデータ
BMW M2クーペ(6MT)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4468×1854×1410mm
ホイールベース:2693mm
車重:1495kg(DIN)/1570kg(EU)
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:370ps(272kW)/6500rpm
最大トルク:47.4kgm(465Nm)/1400-5560rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y/(後)265/35ZR19 98Y
燃費:8.5リッター/100km(約11.8km/リッター、欧州複合モード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
BMW M2クーペ(7AT)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4468×1854×1410mm
ホイールベース:2693mm
車重:1520kg(DIN)/1595kg(EU)
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:370ps(272kW)/6500rpm
最大トルク:47.4kgm(465Nm)/1400-5560rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y/(後)265/35ZR19 98Y
燃費:7.9リッター/100km(約12.7km/リッター、欧州複合モード)
価格:770万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。価格は日本市場のもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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