BMW X4 M40i(4WD/8AT)
オールマイティーなスポーツカー 2016.03.17 試乗記 BMWのクロスオーバーモデル「X4」に、“M”の名を冠するハイパフォーマンスバージョン「M40i」が登場。特別仕立てのエンジンや足まわりがもたらす、走りっぷりを報告する。予想をはるかに超える出来
正直言って、乗る前は、さほど気にかけていなかった。きっと良いクルマなのだろうけれど、さりとて格別というほどのことでもないだろう。X4 M40iの試乗会は、“期待の”「M2クーペ」試乗会と共催だったこともあって、「もののついでに乗っといたろ」くらいの軽~い気持ちで、ラグナセカ周辺のカントリーロードへと連れだした。
結論から言うと、おみそれしました! これがもう、予想をはるかに上回る、格別な、高性能かつ実用的なコンパクトSUVだった。「これなら毎日でも乗っていたい」と、心からそう思った。
X4 M40iは、M社が手がけたMパフォーマンスオートモビルだ。Mパフォーマンスとは、BMWのラインナップでいうところのMスポーツと、BMW M社のMモデルとの間を埋める、高性能版拡販モデルのこと。日本市場にも既に「M135i」や「M235iクーペ」が導入されており、ヨーロッパではディーゼルモデルなども設定されている。
MモデルとMパフォーマンスの違いは、パワートレインやアクスルまわりをどこまで専用設計とするかによる。Mパフォーマンスモデルは、M社がベースモデルのメカニズムを最大限に活用して作り上げる高性能グレードだと思っていい。
要所要所をブラッシュアップ
前述の意味でX4 M40iのベースモデルにあたるのは、間違いなく「X4 xDrive35i」である。鍛造クランクシャフトや専用トップリング付きピストン、スパークプラグなど、「M3」&「M4」用のコンポーネンツを新たに採用した3リッター直6直噴ターボエンジンは、過給圧を高めることによって、ノーマル比で54psと6.6kgmアップの最高出力360ps、最大トルク47.4kgmを実現した(ちなみにエンジン型式はN55B30T0で、M2と同じ。M3とは異なる)。
組み合わされるトランスミッションは8段AT。よりスポーティーな変速を可能とした専用セッティングだ。電子制御式ダンパーの「ダイナミック・ダンピング・コントロール」にも、M社によってスポーティーさを強める専用チューニングが施されている。
見た目の迫力は、まさにMモデル級である。特に、大型エアインテークを左右に配したフロントバンパースポイラーが目立つ。もっとも、Mとは違うMパフォーマンスなので、前後アクスルに大幅な変更点がなく、例えばM2クーペのようにフェンダーが膨らんでいるというような特別感はない。見た目だけは、Mスポーツの“激しい版”といったところか。そのあたり、派手さをそれほど好まない高性能車好きもいらっしゃるだろうし、例えば奥さまにこっそり買い与える、なんてことができるかもしれない。
キドニーグリルやエアロパーツ、ミラーカバーには、フェリックグレーという特徴的なカラーリングが施されている。20インチのMライトアロイホイールには、ランフラットタイヤではなく、「ミシュラン・パイロットスーパースポーツ」が履かされていた。テールパイプは、左右1本ずつの振り分けタイプだ。
変えて納得の走行モード
乗り込むと、見慣れたBMWのコックピットが広がっていた。スポーツシートやレザーステアリングホイール、ドアシルプレート、インストゥルメントパネルのクラスター、シフトレバーにM専用デザインのパーツを採用しているものの、全体的な雰囲気はノーマルに近い。ちょっと見飽きた気もする。もう少し工夫があってもいいとは思ったが、これが手ごろな価格で提供されるMパフォーマンスモデルの限界なのだろう。
耳に心地よいサウンドを軽く響かせながら、走りだした。ドライブモードはグリーン。たんたんたんと、軽快にシフトアップを繰り返しつつ加速する。グリーンモードでのスロットルの反応は、あえて緩慢にしてあるのだろう。速いとは感じないが、街中の流れに乗るには十分だ。
感心したのは乗り心地。時折、20インチというタイヤの大きさを感じさせる振動が出たものの、全般的にはアシの締まり具合はちょうどよく、ドライバーが心地よく感じられる弾性で、路面をなめるように走っていく。デイリーユースには、このモードが最適だ。
コンフォートモードでは、スロットルの反応が変わり、パワーの出方はかなり頼もしくなる。乗り心地の印象は、グリーンと変わらない。
スポーツモードにしてみると、印象がさらに良くなった。20インチタイヤの大きさを感じさせることはほとんどなくなり、前アシは一段と正確に路面をとらえるようになる。カントリーロードを流して走るのが楽しくてたまらない。乗り心地の良さも、この手のSUVにしては理想的な域に達している。さすがはM、というわけだ。
“自然な鋭さ”に感心
試乗コースの一部には狭いワインディングロードがあって、スポーツカーでは走るのがためらわれるほど路面が荒れていたけれど、このクルマは、それをものともしなかった。凸凹やアンジュレーションに悩まされることもなく、がんがん攻めていける。ショックの吸収がうまく、乗り心地の良さが変わらないのだ。これには、ただただ感心を通り越して、ため息が出てしまうほどだった。
ストレート6らしい、控えめではあるが官能的なエキゾーストノートにも胸がすく。クルージングしていると、エンジンがハミングしてくれているようで、気分がいい。右足に力を込めるたびに、それに見合った推進力が得られ、意のままの加速を楽しめた。
スポーツおよびスポーツ+モードでのフルスロットル時の加速フィールは、まさにM級だ。1000rpmを超えるあたりから豊かなトルクがあふれだし、あたかも下半身がふわっと軽くなったかのように感じさせる。そのまま、47.4kgmのトルクは5000rpmを超えるところまでキープされ、高回転域では、よりダイレクト感のあるシフトアップが可能になる。豪快なエキゾーストノートとあいまって、ノーマルのX4とは次元の違う走りを感じさせてくれる。
スポーツ+のまま、さらに攻め込んでみた。アシの動きに破綻はない。コーナーでは、四肢の粘りが増す一方で、前アシのシャープな動きはまるで損なわれない。ぐいぐいと気持ちいいくらいにコーナーの内側を向く。トルクベクタリングをとても上手に機能させているのだ。それでいて、敏しょう過ぎないのも良かった。アメリカ市場で好まれるスポーツモデルというと、時に、敏しょうな動きを強調する演出が多く見受けられるが、X4 M40iの場合は、とても自然な鋭さだ。これなら、サーキットだって楽しめそう。というわけで、「コイツもラグナセカで走らせてほしい!」と言って、スタッフを困らせてしまった。
ミドルサイズのSUVクラスに、性能とスタイルの両方で高いレベルを望むユーザーには、うってつけの一台だと言っていい。昔スポーツカー乗っていて、今はすっかりミニバン家族、そろそろ手ごろなパーソナルカーを楽しみたい。でも、見晴らしの良さは捨てられない……なんて方にはベストチョイスだと思う。
クーペライクなスタイルと、スポーツクーペに負けないパフォーマンス。X4 M40iは“オールマイティーなスポーツカー”として、貴重な存在だ。
(文=西川 淳/写真=BMW)
テスト車のデータ
BMW X4 M40i
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4671×1901×1624mm
ホイールベース:2810mm
車重:1920kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:360ps(265kW)/5800-6000rpm
最大トルク:47.4kgm(465Nm)/1350-5250rpm
タイヤ:(前)245/40R20/(後)275/35R20(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:8.6リッター/100km(約11.6km/リッター、欧州複合モード)
価格:863万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。車両本体価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。