シボレー・カマロ コンバーチブル(FR/6AT)【試乗記】
映画の中で走りたい 2011.11.10 試乗記 シボレー・カマロ コンバーチブル(FR/6AT)……505万3000円
新たな“アメリカン・オープン”「シボレー・カマロ コンバーチブル」で、日本の道をドライブ。その走りは? 乗り心地はどうだった?
映画映えしそうなフォルム
子供たちの間では、「シボレー・カマロ」は黄色いものだと思われているかもしれない。大ヒット映画シリーズ『トランスフォーマー』では、主人公のボディーガード役のヒーロー「バンブルビー」に変身するのがイエローのカマロ クーペだからだ。アメリカのCMでは変身シーンが使われているし、「トランスフォーマー仕様」のモデルまで販売されている。
カマロはほかにも数多くの映画に登場しているが、意外なことに、あまり印象に残る使われ方をしていない。『ワイルド・スピード』シリーズでも、大した役は割り振られていなかった。同じシボレーの「コルベット」にはTVシリーズの『ルート66』という誰もが知る代表作がある。「フォード・マスタング」なら『ブリット』、「ダッジ・チャレンジャー」なら『バニシング・ポイント』、「フォード・サンダーバード」なら『テルマ&ルイーズ』が思い浮かぶだろう。
2002年に4代目の生産が終了し、2009年に復活したカマロは、歴代モデルのデザインを引用しながら現代的なアメリカンスタイルを作り上げた。今年ようやくそのオープンモデルが日本でも販売されるようになった。この「カマロ コンバーチブル」は、いかにも映画映えしそうなフォルムだ。パワーを誇示しながらもおおらかでゆったりした気分をまとい、一点の曇りもない明るさを発散させる。このクルマを使って、ぜひともいい映画を製作してほしい。『トランスフォーマー』が代表作では寂しすぎる。
後方視界に要注意
幌を下ろして、出発しよう。と思ったが、高速道路に乗るので、オープンにするのは後回しにした。行き先を決めぬまま、首都高速から中央道で西に向かった。朝の通勤時だが、方向が逆なので道はすいている。なんとなくアクセルを踏んでいると、クルマは懸命なそぶりも見せぬまま速度を上げていく。意図せぬスピードになってしまうかもしれないので注意が必要だ。なにしろ、クローズ状態では後方視界が悪く、白と黒に塗り分けられたクルマが近づいてきても気付かない可能性がある。それなりのスピードで飛ばすと、風切り音がないわけではない。ただ、それほど気にならないレベルだ。
クーペモデルと違って、日本ではコンバーチブルにV8は用意されておらず、3.6リッターのV6エンジンを積むモデルのみだ。もちろん、308psに不満などあるはずもない。高速巡航ではエンジンはゆったりと回りながら、静かに十分なパワーを供給している。
眼前には2連メーターがあるが、回転計の針は気にしないし、スピードメーターも見ない。フロントガラスにデジタルで速度が映し出されていて、自然に視界に入るからそれだけを頼りに運転する。速度の数値の下には常に外気温が表示されている。これを目安にして、トップを開けるかどうかを判断すればいいのだろう。
ダッシュボードの表情が一変
中央道から外環道に入り、青梅から奥多摩を目指した。目的地を考えずに出発したことで、コースの選択をミスってしまったことに後で気付くことになる。このクルマにとって、ふさわしい道ではなかったのだ。
一般道に出て、まずは幌を下ろすことにする。電動ではあるが、最初にフロントガラス中央の上にあるフックを外さなくてはならない。引っ張って回すのに、結構な力を要する。ネイルを盛っている女子にはオススメできない作業だ。電動フルオープンにかかる時間は、カタログの約20秒という数字よりは短くて済んだ。
屋根がなくなると、陽光を浴びて室内の雰囲気は一気に変わる。光が満ちあふれ、新鮮な空気が通りすぎる。それだけで、気分も開放的になるのだ。光と影のコントラストができ、ダッシュボードの表情も変化する。センターコンソールにある4連メーターが、70年代風未来デザインですてきなことにも気付く。
問題があるとすれば、川沿いを奥多摩湖へとたどる道は幅が狭く、全幅1915mmの巨体には向いていないということぐらいだ。こういうことだから、出発前に目的地をよく考えなきゃダメだ。大きなボンネットは先端が前に突き出す形状になっているが、運転席から見通すことはできない。後方視界が悪いと書いたが、極太のAピラーと巨大なドアミラーで遮られるから、前方だって左右は死角が大きい。
工事と補修を繰り返したせいか、荒れた路面が続く箇所がある。これも、ちょっと苦手だ。凹凸を乗り越えるたびに激しい震動に見まわれ、巨体が揺さぶられる。重量感のある動きで、なかなか収まらないのだ。
アメリカンなオープンカーに似合う道
ネガティブなことばかり書き連ねてしまったのは、そもそもアメリカンなオープンカーに似つかわしくない道を選んでしまったからだ。これでは、クルマに申し訳ない。整備されたワインディングロードの、奥多摩周遊道路に乗り入れてみた。
トランスミッションは6段ATだが、マニュアルモードだって付いている。ステアリングホイールにはパドルも……と思ったら、そう見えたのは“看板”で、裏に小さなボタンが付いていた。少々手間取りながらボタンでギアチェンジを試みると、シフトダウン時には空ぶかしも入ったりする。しかしまあ、せせこましい山道で大トルクのエンジンを操るには腕も足らず、早々にATモードに戻してしまった。ここも、カマロ コンバーチブルにとって最良のステージではない。
このままでは帰れないので、ひたすら南下する。途中でバキュームカーの後ろについてしまいオープンカーの弱点をさらけ出す場面もあったが、山道を駆け下り、高速道路を使って海辺までたどり着いた。光は空からだけでなく、海からもやってくる。適度な風の巻き込みが、オープンカーに乗っているという実感を演出する。潮の香りが鼻腔(びこう)をかすめていく。
はじめから、ここに来ればよかったのだ。ベタで何の工夫もない組み合わせだけれど、海とオープンカーの相性はテッパンだ。映画のシーンとしても映えるだろう。クルマは、ふさわしい道に出会ってようやく完成する。
ふとメーターパネルのデジタル表示に目をやると、燃費計は16という数字を示している。一瞬驚くが、もちろん、これは16リッターで100kmということを示しているのだ。つまり、日本式で言えば、リッター7キロをはるかに下回る。これが現実だ。ガソリンがふんだんに使え、気持ちのいい海辺の道だけを走ればいいのなら、このクルマは輝かしい姿を現すだろう。映画の中になら、まだそんな世界もあるかもしれない。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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