キャデラック・エスカレード プラチナム(4WD/6AT)
IT大国の巨艦 2016.04.04 試乗記 全長およそ5.2mという巨体を誇るキャデラックの旗艦モデル「エスカレード」が、2016年モデルに進化。大幅に機能が強化されたインフォテインメントシステムの実力を、アメリカンフルサイズSUVならではの魅力と合わせてリポートする。飛躍的に向上したインテリアの質感
キャデラックの最高級フルサイズSUV、エスカレードのドアを開けると、自動的にステップがスーッと車体下部から出てくる。大変静かで滑らかな動きに、もう一回やってみようかな、と思ったりする。でもってドアを閉めると、自動的にスーッと格納する。
トラックの運転席によじ登るように着座すると、そこは洗練された世界だった。インテリアの造作レベルが、このように申し上げてはなんだけれど、ヨーロッパの高級SUVと比べても遜色ない。キャディはすばらしくよくなっている。プレスリリースを一部抜き書きすると、「カットアンドソー(職人が手作りで素材を裁断・縫製し、ステッチを縫う)と呼ばれるキャデラック独自の優れた職人技が集結された最もクラシックかつラグジュアリーなインテリア」である。細部に若干アメリカ的な大味さはあるけれど、それはおおらかさと読み替えても抵抗がない。シートの腰の部分がものすごく硬いのが印象的で、最初は、硬すぎ! と思ったけれど、やがて慣れて背筋が伸びる。
2016年モデルの変更点の第一は、インフォテインメントシステムが「Apple CarPlay」に対応したことである。USBのジャックに「iPhone」をつなぐと、12.3インチの液晶画面が反応する。
エスカレードの日本仕様は装備の違いで「プレミアム」と「プラチナム」の2種類の設定がある。前者は1249万円、後者は1349万円と、100万円の差がある。後者は現行キャディで一番高い。どちらもレザーシートだけれど、プラチナムは運転席にマッサージ機能が付いていたり、革の総面積が違ったり、後席の住人用にDVDプレイヤー&スクリーンを前席ヘッドレストに備えていたりする。パワートレインは同じで、性能の違いはない。まあでも、この価格帯で100万円の違いだったらプラチナムをお求めしたいのが人情ではあるまいか。
いち早くApple CarPlayに対応
BOSEの16スピーカーのサラウンドサウンドシステムは、どちらのグレードも備えている。従ってテスト車にも付いているのだが、筆者の所有するiPhoneには音楽が入っていない。「iTunes」でダウンロードする21世紀的音楽文化の内側に入るのがコワイからである。客観的に申し上げて、こういう態度はいかんですね。16スピーカーの素晴らしさを試さなかったことが悔やまれる。
でも「Siri」は好きである。
原稿を書いている今、手を休めて「おはよう」と呼びかけると、「おはようございます。ただいまの時刻は13時3分です」と答えてくれる。この何気ない回答の中に、「おはようじゃねーだろ、もう昼よ」というアイロニーが込められていると感じたりする。
CarPlayとつなぐと、Siriの音声コマンドで、例えば道案内をしてくれる。日本市場においていち早くCarPlayを標準搭載したのは、IT文化の国アメリカのブランド、キャデラックだったのであった。「SRXクロスオーバー」だけは仲間外れですが。
今のところCarPlayに対応しているアプリは少ないけれど、ITの世界は時間の概念が異なるから、明日にはまたひとつ増えているかもしれない。
BOSEのアクティブノイズキャンセレーションも付いている。だから、室内はとても静かである。2階建てのビルを動かすように、やや緊張をもって恐る恐る走りだすと、そのような緊張などまったく必要がなかったことにすぐさま気づく。
リアのトランクが出っ張っているわけでもないのに全長が5195mmもあり、全幅は2メートルを超える。高さは1910mmである。デトロイト製フルサイズSUVは、最新科学に基づいたトレーニングによって鍛えられたアメリカンフットボールのアスリートのように、といってもよく知りませんけど、ドライバーの入力に対する反応に違和感がない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
また乗ってみたくなる
車重は2650kgある。この種のSUVとしては決して重くもあるまいが、もちろん軽くもない。それがためらうことなくスッと動く。「シボレー・コルベット」とまったく同じ排気量、まったく同じボア&ストロークの6.2リッターV8 OHV自然吸気ユニットのトルキーな特性によるものだろう。排気量に勝るチューニングなし。
自社製6段オートマチックは極めてハイギアードで、100km/h巡航は1500rpmにすぎない。乗り心地は高級ホテルのエアベッドで眠るがごとく、ではなくて、西部劇に出てくる牧場のロッヂのベッドといった感じ。これはこれで味わいがある。前ダブルウイッシュボーン、後ろ5リンクリジッドのトラック用シャシーに22インチの巨大なタイヤ&ホイールを履いていることをハンディとしていない。リジッド特有の細かい振動は微妙にあるものの、可変ダンピングと車重の重さが効いていて、全般的には上下動が少ないフラットな乗り心地を実現している。
さらに2016年モデルでは「レーンキープアシスト」に代表される最新のセーフティーデバイスが新たに装備された。駐車時に便利な360度の俯瞰(ふかん)映像が見られる「サラウンドビジョン」も付いている。2列目はミニバンみたいに広い。3列目にも大人が座れる。大きいってすばらしい。何より、外観が『スター・ウォーズ』の帝国軍みたいでステキだ。
目的地に到着後、Siriに「終了」と言ったら、「終了ですか。せめて、さようならと言ってください」と返された。なんだか、エスカレードにそう言われたような気がした。また会いたい。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
キャデラック・エスカレード プラチナム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5195×2065×1910mm
ホイールベース:2950mm
車重:2650kg
駆動方式:4WD
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:426ps(313kW)/5600rpm
最大トルク:63.5kgm(623Nm)/4100rpm
タイヤ:(前)285/45R22 110H M+S/(後)285/45R22 110H M+S(ブリヂストン・デューラーH/Lアレンザ)
燃費:シティー=14mpg(約6.0km/リッター)、ハイウェイ=21mpg(約8.9km/リッター)(米国EPA値)
価格:1349万円/テスト車=1368万2900円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトトゥリコート>(12万9000円)/フロアマット<6枚セット>(6万3900円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1719km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。